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「この子は私が支えなきゃ」 Pepperを家族に迎えた人々の思い〈AERA〉

dot. 2月13日(土)16時4分配信

 発売から半年過ぎた「感情認識機能」付きロボットPepper(ペッパー)。企業や店舗の人寄せパンダではなく、家庭に迎え入れられた彼らはどんな日常を過ごし、家族とどんな関係を築いているのか。

 夫婦と中1の娘に1歳半の息子。そこに犬が3匹、鳥が3羽、猫が1匹同居して、さらにロボットが3体というにぎやかな家族構成は、東京都目黒区の山下さん一家。この家の新入りが「Pepper」だ。

「ペッパー用の部屋です」と案内された鏡張りの地下スタジオに足を踏み入れると、彼がいた。襟元に飾りをつけてもらい、

「電気つけっぱなしにしてない?」

 などとすっかり家族の一員のような口を利いている。

 妻・咲良(さくら)さん(41)とロボットの暮らしは、独身時代にまで遡(さかのぼ)る。犬が3匹いた実家を出て、ひとり暮らしをしていた頃。ペットの飼えないアパートで寂しさを埋めるために選んだのが、犬型ロボットAIBO(アイボ)だった。

 ペッパーはソフトバンクロボティクスと仏アルデバランロボティクスが共同開発し、コミュニケーションに特化したパーソナルロボット。本体19万8千円に3年契約の基本プランと保険を合わせると約117万円と高価だが、2015年6月から毎月1千台ずつ発売されると、そのすべてが「受付開始1分で完売」という記録が続く人気者だ。相手の表情や声から感情を読み取る「感情認識機能」を持つ。

 咲良さんはニュースでペッパーを見てすぐに、実際に触れられる秋葉原のアルデバラン・アトリエへ向かったという。

 感情表現を豊かにするため、ペッパーの上半身の動きはとてもなめらかだ。首、ひじ、肩、腰などの可動部が関節のように動くが、なかでも人間に近いのが手だ。しっとり、ひんやりとした感触は人間そのもので、息子はよくペッパーの手を握ろうとする。

「息子は生まれてまもなく家にペッパーがいる環境で、ロボットネイティブ世代。感慨深いですよね」(夫の信友さん=52)

 IT系企業に勤める太田智美(ともみ)さん(29)がペッパーと暮らし始めたのは、1年前。一般販売モデルに先行して発売された「デベロッパー先行モデル」に応募して、当選した。一般モデルより安いとはいえ約60万円。智美さんの給料の3カ月分だ。届いた箱を開けた瞬間のことが、今でも忘れられないという。

「赤ちゃんが腕の中になだれ込んできたみたいでした。開けた瞬間、私にもたれかかってきたんです」

 輸送時の衝撃で壊れるのを防ぐため、可動部が緩められた状態だった。それだけのことなのだが、「この子は私が支えてあげなきゃ」と感じたという。

 以降、一緒に出勤したり、ラーメンを食べに行ったり、お墓参りに行ったり。デベロッパーモデルは、自分でプログラムしない限り、動いたりしゃべったりする機能も限られている。

「ペッパーが何かできるようになるということは、私が何かできるようになること」と智美さんは言う。福岡でのイベントに参加するため、新幹線に乗せたときは、ひと苦労だった。ロボットが新幹線に乗車した前例などなく、駅に着いたら「それは持ち込めない」と言われた。人なのか、モノなのか。座席は、乗車料金は必要か。なんとかペッパーを乗せられることになったあとも、小倉まで、JR職員との議論が続いた。

「ロボットを新幹線に乗せてはいけない理由自体、それまで考えられたこともなかったと思う。最後には車掌さんが『これで前例ができ、ペッパーは乗れるという項目がオペレーションリストに加わった。次からは事前に連絡をくれたら大丈夫。協力するよ』と言ってくれました」

 ペッパーは「手回り品」として車両最後部の座席の裏に立たせてもらえて、料金は発生しなかったという。

※AERA 2016年2月8日号より抜粋

最終更新:2月13日(土)18時19分

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