すごいですね『修羅の刻』
前巻にあたる15巻が2006年刊行ですから、実に10年ぶりの再開です。やっぱり人気あるんだなあ。
基本的に1巻ないし2巻で一編が完結するスタイルなので、続きは出ないものだと思っていました。
それぞれの時代で名を残した人物の影には、実は史上最強にして一子相伝の古流格闘術 「陸奥園明流」 が寄り添っていた、というシナリオ的にはワンパターンの構成なのですが、これが面白い。
そういうわけで、この物語は史実である。(中略)
もう一度言います。
この物語は史実である。
もし、あなたにとっても史実であったなら、嬉しいなあ。
出所:『修羅の刻』弐巻あとがき
というなかなか洒落た言い回しで作者も語っているように、各編よほど思い入れのある人物を選りすぐってのキャスティングらしく、作者の熱と私情が伝わってきます。 ※ちなみに川原氏、あとがきがとても上手い。
・宮本武蔵編
・アメリカ西部編
・寛永御前試合編
・源義経編
・織田信長編
・西郷四郎編
(この人は少しマイナー?講道館四天王の一人)
・雷電爲右衛門編
お約束のどの話が好きか?となるのですが、我が家では私がアメリカ西部編、家内と子供が風雲幕末編と見事に別れています。要は私がぼっちなのですが。大人の男とは辛いものです。
やはり本編である『修羅の門』全31巻を読まないと、その外伝である『修羅の刻』を存分に楽しめないのですが、アメリカ西部編が特殊なのは、実はこの話だけが130年弱の刻を超えて『修羅の門』21巻と繋がるんですね。
ネタバレになるので詳しくは書きませんが、心ある人ならばニルチッイに必ず涙するでしょう。私はここで涙する人が好きだ。既に涙したあなた、同志と呼んでもいいですか?
ちなみに『修羅の門』、連載開始からしばらくは正直ショボかったです。夢枕漠氏に 「設定や技の名前などを使われて、印税の0.01%でいいから回せと言いたくなるような漫画がある」 と対談で言われていたのを覚えています。当時から既に格闘モノで、夢枕氏の影響を完全に排除するのは難しかったのは事実ですが、度が過ぎたと。
神武館への殴り込みがひと段落つく9巻あたりまでは、絵もストーリーも稚拙だったのですが、途中で大化けしましたね。「異種格闘技トーナメント編」で吹っ切れて、「ボクシング編」からは文句なしに傑作の域です。
もっとも悪癖はなかなか抜けないようで、作者の代表作に挙げられる『海皇紀』(全45巻)は、栗本薫氏『グイン・サーガ』の設定をあからさまに使い過ぎですね。月刊マガジンと読者はカブらないとでも思ったのでしょうか?残念ながら「インスパイアされまして」とか言い訳出来る範囲を超えています。
なので栗本薫ファンとして『海皇紀』は読了しておりません。あしからず。
川原氏を糾弾するつもりは全く無かったのですが、話が逸れました。
格闘モノが好きなかたには『修羅の門』『修羅の刻』いずれもお勧めです。『修羅の門』は続編『第弐門』(完結済)もありますが、これは綜合格闘技のリアルから見れば後追いの感が否めない、哀しい漫画になってしまいました。冒頭の煮え切らない展開も上出来とは言い難く、決してお勧めはしません。これも横道でしたね。
今度の『修羅の刻』16巻は昭和編。ちょっとひねって、陸奥園明流の分派である、不破園明流から先に登場させてきました。歴史上の著名人も今回は特に登場しないそうで、本家と分家の過去の長い軋轢と、これからの和解?が中心になりそう。『修羅の門』で陸奥九十九に、「分家の小せがれ」と揶揄された不破北斗を否応なしに思い出させます。懐かしいなあ。
16巻では陸奥園明流の当主を完全に温存しつつ、昭和編は17巻に続くのでした。さすがに腕を上げています川原氏。下巻が楽しみです。
以上 ふにやんま