クレジット(信用)サイクルとは
目の前の株価や銘柄選びに一喜一憂するのもよいですが、たまには大局的な視点に立って現在の株価や金融市場全体がどの段階(位置)にあるのか、考えてみるのも良さそうです。
経済全体の局面分析をする在庫循環モデルは有名ですが、今回ご紹介するクレジットサイクルもなかなかの優れもの。
株価や金利が、大きな流れの中でどの段階にあるのかが、理解しやすくなります。
図:クレジットサイクル
クレジットサイクルを簡単に図示してみました。
以下で上図を用いてクレジットサイクルを説明してみます。
①回復期
この段階は不況や経済的ショックからの回復が始まったところです。
このクレジットサイクルのステージでは、株価は上昇(底値からの反発)します。不況を乗り越えるために企業がリストラを行うことで収益構造が改善し、キャッシュフローと利益が増加し、それが株価上昇につながります。
この段階では金利は上昇しません。経済が回復初期にあるため、金利の上昇にまだ耐えられないからです。
なお、企業の信用力を示すクレジットスプレッド(国債などの無リスク金利に対する企業のリスクに応じて上乗せされる金利)は企業の財務体質改善を好感して縮小します。
②拡大期
この段階では企業の収益はさらに拡大します。企業がリスク選好を強め、積極的な経営・投資活動を行うようになります。上昇した(自社の)株価や拡大するキャッシュフローを活かしてM&Aも活性化します。
株価は、回復期に引き続き上昇が続きます。
金利は横ばいから上昇に転じます。経済全体にインフレ圧力が強まり、中央銀行は金利の引き上げバイアスを強めていきます。
資金調達が簡単になるため、経済全体にレバレッジがかかっていきます。企業は負債を増やし、財務体質は悪化が始まるため、クレジットは拡大(ワイド化、悪化)します。
③減速期
この段階に入ると、②拡大期で増加させた負債(レバレッジ)が重荷になります。過剰債務に循環的に訪れる景気後退が重なり、企業は業績を悪化させます。企業業績は下方修正が多くなり、倒産も増加します。
当然株価は弱含み、クレジットも悪化します。
④修復期
この段階では景気後退が明らかになっているため、企業は財務体質改善に注力します。過剰にかかったレバレッジを解消するため、資産売却に加えて増資が増加します。
株価は、増資など株主の負担が増加する局面であるため下落が続きます。
金利は、景気を下支えする目的から中央銀行の金融緩和がすすみ、下落します。
企業行動が保守的になることで、クレジットは改善します。
アメリカがクレジットサイクルの先頭を走る
世界の多くの国は、リーマンショック以降の金融危機からの回復局面にあり、クレジットサイクルでいえば、まだ①回復期にあるとの見方が一般的です。中央銀行はいまだに金融緩和バイアスが強く、金利は低位で安定しています。
一方で米国は、世界中も最も早期に景気回復が進んでおり、2015年末にはついに金利引き上げに転じました。クレジットサイクルで言えば②拡大期にあると言えます。
原油価格の下落はクレジットサイクルをさらに回してしまうのか
そのなかで、タイミング悪く発生している原油を中心としたコモディティ価格の急落。これによって、エネルギー関連企業を中心に倒産が増加し始めました。それを受けクレジットはワイド化が始まっています。
アメリカは、③減速期入りするリスクが指摘され始めています。
足下で起きている金融市場の混乱は、中国の減速などさまざまな要因があるわけですが、このようなクレジットサイクル上のステージについて意識してみるのも、株価下落の理解に役立つかも知れません。
関連情報
日本銀行「システミック・リスクの発生・伝播メカニズムについて ――中央銀行共催リサーチ・コンファレンスの概要――」
https://www.boj.or.jp/research/wps_rev/mkr/data/kmr02j06.pdf