「特に沖縄では児童の性的搾取が見られる」。2015年10月、日本の児童ポルノや児童売春の状況調査のため来日し、沖縄にも足を運んだ国連特別報告者のマオド・ド・ブーア・ブキッキオ氏は日本記者クラブでの会見でこう述べた。沖縄で一体、何が起きているのか。売買春に関わる少女や大人への取材から浮き彫りになった問題点をまとめた。(デジタル部・與那覇里子)
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■ソーシャルメディアと売買春の関係
2013年8月、沖縄県警は18歳未満の少女13人を含む19人に客と淫行させた男3人を児童福祉法違反で立件した。男らは見知らぬ人との出会いが目的の「出会い系サイト」などで客を集め、沖縄や東北など約10県のホテルなどで少女たちに淫行させていた。管理型売買春である。
売買春で欠かせないツールがSNSや出会い系などのソーシャルメディアだ。スマートフォンの普及によってチャットで交流することができるアプリやそのIDを交換するサイトが登場。警察庁によると、2015年上半期にSNSなどのコミュニティサイトで796人の少女が被害に遭っている。
業者の男は少女のふりをして出会い系やSNSで客を募り、買春したい客はソーシャルメディア上で少女を探し、少女は業者から仕事の連絡を受ける。業者から何度も仕事を受けてきた少女の中には業者のまねをして、直接ネット上に書き込み、客を探すケースもあった。
■ネットは問題か
県教育庁と県警は、管理型売買春事件を受け、2013年9月、「青少年をネット犯罪から守る県民集会」を開いた。親や中高生ら約700人が参加。「青少年を性犯罪から守るため、情報モラル教育に積極的に取り組む」などを宣言した。
しかし、根本的な問題はネットではない。売買春は通信機器の発展と連動してきた歴史がある。1990年前後はテレホンクラブやツーショットダイヤル、2000年ごろからは携帯電話が普及し始め、出会い系の掲示板に書き込む形で広がっていった。警察は新たなツールが登場するたびに規制をしているが、いたちごっこが続いている。
変わらないのは、少女に売春をあっせんする男と少女を買う男の存在だ。売買春の根本的な問題の一つは、ここにある。
■男性側の意識
業者はなぜ、少女に売春をあっせんするのか。事件後、30代の県内業者の男にインタビューをしたところ(1)未成年は性や社会経験が少ないため、扱いやすい(2)中学生は男側のコンドーム使用の有無が判断しにくい(3)沖縄の子は目鼻立ちがはっきりしていて県外の客に人気(4)売春は少女たちの“花嫁修業”と考えている―などの背景が浮かび上がった。
買う男にも聞いた。30歳の男は、未成年の少女を扱う業者から届いた「女の子買わない?」とのメールをきっかけに買春を始めた。ソープより値段が手頃な上、少女が好みのタイプでない場合にはキャンセルもできる。「未成年の買春は犯罪なの?」と聞いてくるほど罪の意識は薄かった。
少女が大人に“商品”のように扱われている実態があるにもかかわらず、買春に関わる男たちの姿は、なかなか浮かび上がらない。世論から批判や非難の声もほとんど聞こえてこない。
刑も軽い。児童買春・児童ポルノ禁止法は5年以下の懲役か300万円以下の罰金、沖縄県青少年保護育成条例は2年以下の懲役か100万円以下の罰金で済む。
そんな男たちに、少女たちは街頭でスカウトされ、SNSで紹介され、魔の手に絡め取られる。家族や友人関係の悩みに親身に耳を傾け、彼氏のように装い、“疑似恋愛”に持ち込む。出勤が続かない少女には「親や友達にバラす」と脅し、囲い込む。
■社会が問われている
ブキッキオ氏は先の会見で、「(子どもの性被害の撲滅には)根源的な原因究明が必須であり、それは日本政府と沖縄県の共同の責任であると思っている」と指摘した。法、モラル、理性…これまでも問題視はされてはきたが、いかに遡上(そじょう)に乗せられるのか、突き付けられている。
さて、問題をはき違えて実施された「県民集会」。その責任者であり、教育庁ナンバー2を務めたこともある幹部が2014年、児童買春容疑で逮捕された。18歳未満と知らなければ、児童買春・児童ポルノ禁止法は適用されない。結局、県青少年保護育成条例で起訴され、処分はわずか罰金50万円だった。
2016年3月には最終調査報告、勧告が国連人権理事会に提出される。売買春に関わる大人は身近にいる。彼らに対し、社会の監視の目が生まれる契機となれるのか、社会のあり方が今、問われている。
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與那覇里子
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