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給付金3万円 矛盾している政府説明

 補正予算に盛り込まれた低所得の高齢者らへの給付金3万円が国会論戦の焦点になっている。

     野党は「ばらまき姿勢を体現した、露骨な選挙対策だ」と批判するが、安倍晋三首相は「2017年4月の年金生活者への支援給付金の前倒しだ」と反論する。低所得者の救済策という点では同じでも、両者は本質的に異なっており、政府の「前倒し」との説明は矛盾している。

     消費税が10%になる際に導入される支援給付金は、年金の納付実績に応じた低年金者への恒久対策である。40年間保険料を払い続けた人には最大で6万円が支給されるが、20年間しか払わなかった人の支給額は半減される。対象も年収87万円程度までの約600万人と障害・遺族基礎年金の受給者に絞られている。

     一方、今回の給付金は住民税非課税の年金受給者約1250万人に来年度1人3万円を配るもので、公的年金受給者の3割以上が対象だ。給付総額は約3900億円に上る。消費税10%時の支援給付金の「前倒し」とは明らかに違う。

     公的年金は老後の生活を保障する共助の制度として始まった。年金保険料を40年間払い続けて、満額の基礎年金の受給権が得られる。未納期間に応じて受給額が減額されるという点では自助的な制度でもある。消費税10%時の支援給付金はこうした年金の趣旨に沿って制度設計されている。

     民主党が政権時に掲げた年金改革案は一律7万円の年金を支給する「最低保障年金」の導入が目玉だった。納付実績に関係なく一律7万円を支給するという点で、今回の安倍政権の給付金は民主党案と似ている。当時野党だった自民党は最低保障年金を「ばらまき」と批判したが、それはどう説明するのか。

     少子高齢化の中で年金制度を維持するために、マクロ経済スライドの適用が昨年から始まり、年金受給額は減っていく見通しだ。基礎年金の減額は著しく、低年金者ほど生活が苦しくなることが指摘されている。消費税は所得の低い人ほど負担が重くなるため、低年金者への恒久対策を早急に講じる必要がある。

     さらに懸念されるのが、将来の低年金者の増大だ。非正規雇用は雇用全体の4割を占めるまでになった。正社員並みのフルタイムで働く人は非正規であっても厚生年金を適用すべきだ。こうした制度改正こそ優先的に取り組まなければならない。

     社会保障費が厳しく制約される中で、総額3900億円の給付金はあまりに唐突である。選挙を前にした一時的な人気取り政策ではなく、現在と将来の低年金者に対する恒久対策が必要だ。

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