年末年始(2015~2016)の主なできごと
・キンコメ解散 高橋容疑者は事務所解雇 相方今野が謝罪(12月29日)
・心斎橋の象徴 大丸本館が閉館(12月30日)
・「初日の出暴走」取り締まり、首都高などで13人摘発(1月1日)
・Perfumeのっち、マンボウやしろの両事務所が熱愛を否定「友人の1人」(1月1日)
・青山学院大39年ぶり完全優勝 全員駅伝で連覇=箱根駅伝・復路(1月3日)
左から、速水健朗、松本泰明、おぐらりゅうじ
2015年を席巻した「爆買い/インバウンド」
おぐらりゅうじ(以下、おぐら) 今回は、電通総研の松本泰明さんを交えて、今年電通総研が発表した「話題注目商品」の話をします。
松本泰明(以下、松本) 実は「話題注目商品」というのは1985年から電通総研で発表しておりまして、今年は記念すべき30周年なんです。
2015年のランク上位は、「爆買い/インバウンド」が1位、「錦織圭」、「ラグビーワールドカップ」、「マツコ・デラックス」、みたいな感じで並んでます。さらに、12月1日に発表されたユーキャン新語・流行語大賞も1位が「爆買い」だったということで、インバウンドは大きな話題だったかなと思います。
速水健朗(以下、速水) でも、インバウンドを今年の消費傾向だとするのって、ちょっと違和感はあります。この現象をもたらしているのは、円安と中国人の入国制限の緩和であって、広告や需要喚起といったものとはジャンルが違う。こちらから見ると、消費と言うより、供給の枠なんじゃないですか?
松本 確かにそこは考えるところではあります。ただ、爆買いが日本人の消費マインドを刺激したところもある気がします。「レモンジーナ」や「南アルプスの天然水&ヨーグリーナ」、あとハーゲンダッツの「華モチ」シリーズとか、どれも発売2日で予測を上回る売れ行きから販売一時中止されていました。
おぐら 巷では「品切れも込みで戦略じゃないの?」なんて声もありましたが。そもそも「爆買い」というネーミング自体、ネガティブな意味合いを持たせてますよね。「ちょっとやり過ぎじゃない?」という。
速水 まあでも、敬意を払って上品に言っても仕方ない。日本人も、80年代にパリのルイヴィトンのショップとかで「爆買い」してた時代は嘲笑の対象で、そこから学んでいったわけで、ある種の通過儀礼なんじゃない?
松本 この「話題注目商品」のための調査のなかで、インバウンドについて聞くとですね、日本の製品がよく見えることはいいことだという意見がある一方、日本が観光客ばかりになることへの反発も半分くらいありました。
おぐら 空港から乗り付けた観光バスによる交通渋滞とか、観光地や店舗における観光客のマナーに苦言を呈している人は多かったですね。とにかく別の文化を持った外国人と直に接することに馴れていないので、戸惑っている感じはします。
速水 観光客の受け入れ国としては、日本はまだ新米ですよね。そもそも排他的な傾向の強い国だし。中国で中間層の人口が爆増している一方で、日本を含む先進国では中間層が減っていくと言われている。そこで中間よりもちょっと上志向みたいなものによる消費が増えてきている気がする。
「世界で通用する日本」アピールの増加
松本 このランキングの中では、「グラノーラ」が29位に入っています。
速水 ほかに入ってもよさそうなものでいうと、「サードウェーブコーヒー」や「ミニマリスト」も入れていいと思うけど。
松本 「クラフトビール」とかもですかね。
速水 「クラフトビール」は、世界的な流行だよね。アメリカの社会学者のリチャード・フロリダが「グレートリセット」と呼ぶ、リーマンショック以降に年収10万ドルくらいの層で起きている消費傾向の変化。日本では、こうした「脱消費」の流れが、サブカルチャー的に消費されている気もする。「サードウェーブ系男子」が本当に脱消費とは思えないというか。
松本 サードウェーブ系男子、流行ってましたね(笑)。
速水 この名前を付けたのは辛酸なめ子さんですけど、それがネットでちょっとバズったりした感じです。でも「サードウェーブ系男子」が階層にひもづく意識変化なのか、単なるサブカルチャー的な消費なのかはちょっとわからない。
おぐら 脱消費というか、新しい消費のスタイルとも捉えられるので、その意味では、あくまで消費文化の中で生まれた流行のひとつという側面もありますし。
松本 いわゆる、ポートランドスタイルと言われるライフスタイルもそのへんに入ってきますかね。それでいうと、26位で「近藤麻理恵(こんまり)」が入っていたりするのも、そこの文脈に近いのかもしれません。
速水 「近藤麻理恵(こんまり)」は、「世界で通用する日本」の文脈でもあるかな。「ラグビーワールドカップ 2015日本代表」「錦織圭」とかと一緒みたいな。
おぐら 「魔法」※っていうぐらいですから、日本の二次元・アニメカルチャーの匂いもしますね。ちなみに、近藤麻理恵が顧問を務める「日本ときめき片づけ協会」というのもありますよ。
※近藤麻理恵さんの著書『人生がときめく片づけの魔法』では、「一度片づけたら、二度と散らからない方法」を記し、なぜか「仕事がうまくいった」「3キロやせた」などの声が続出。片付け以外にも様々な効果をもたらしている。
松本 「ノーベル賞」はここ最近入り続けてるんですけど、「錦織圭」や「ラグビー」は、「日本が強いはずないじゃん」くらいに思われてた分野が突然世界でポジションを獲得したという共通点があります。
速水 さっきの日本人が爆買いしていた時代って、日本が「エコノミック・アニマル」と呼ばれてもいた。今は、それどころか何物でもない存在に落ちて、「世界に通用する」を日本人が自らもてはやすようになっているということだよね。
おぐら ここ何年か、テレビ番組でやたらと世界における日本人を褒め称える企画が増えたのも、その象徴ですよね。
すべてにおいて観光が最重要視される
松本 ラグビーのワールドカップでは、日本のチームにニュージランド出身のリーチマイケルがいたり、多国籍感があったことが話題になりました。高校野球でもオコエ瑠偉が活躍して、陸上ではサニブラウン・アブデル・ハキームが活躍。グローバルな流動化が日本のスポーツを通じて見えるようになってきています。
速水 実はいろんな分野でそれは起きているよね。ギャルの読者モデルみたいな場所では、もう5年くらい前からフィリピン系ハーフが多数活躍していたり。ちなみに、2015年の変化として国民的姉妹の座は、叶姉妹から道端姉妹に移行しました。
おぐら お笑いの芸人の世界でも、グローバル化の傾向は顕著ですよ。見た目は完全に外国人だけど、「実は英語しゃべれません」というのが掴みのネタになっていたりして。
速水 そのギャップがネタになるのは、まだ日本が「単一民族」的な国だからだろうけどね。
松本 そのギャグは、移民が当たり前の国だと何がおかしいの?ってなると思います。
おぐら それと、2015年ブレイクした厚切りジェイソンの「Why Japanese people!?」も、そのフレーズから分かる通り、外国人から見た日本をネタにする笑いです。
速水 一方、国内では東京一極集中の反動でしかないんだろけど、地方の話題が多かった。
松本 「北陸新幹線」、「自治体プレミアム商品券」とかですね。
速水 「ふるさと納税」も。
松本 上越新幹線にしろ東北新幹線にしろ、かつての新幹線は、東京に行けるようになる便利さが謳われてましたが、いまの北陸新幹線は、東京から北陸に行けるというのが主眼になっている気がします。
速水 すべてにおいて観光が最重要視される国になりつつある。それは大きな変化だと思う。
松本 北陸新幹線も、インバウンドの流れで語られることが多かったです。
速水 銀座やお台場がインバウンドの消費地に変わったと言われる以上に、大阪や金沢といった地方の訪日観光客の賑わいがすごい。
おぐら 日本人の観光客向けにつくられた萌えキャラが炎上したりした流れも今年のことですしね。
「観光+都心型」の時代に
松本 食に関してもブームで言うと、去年あたりから「ちょい飲み」も流行ってきてますよね。都市部でしか普及してないというのもあり、50位くらいで止まっちゃいましたが。あと、外食関係で言うと、ファミリーレストランが30ヶ月連続で増益をしている一方で、安さを売りにする外食チェーンは苦しくなっているようです。
速水 都心の盛り上がりは目立ちますね。郊外化のロードサイドビジネスも都心回帰を始めてます。家電量販店も、郊外型ファミレスも。大型商業施設も都心型が銀座なんかの都心のど真ん中でたくさん進行している。
松本 都心型の外食で言うと、ランチパスポートがありました。あれはコストパフォーマンスを超えたコストパフォーマンスという感じなのかなと。少ない額を払うだけでいろんな体験やコンテンツを消費できるので、ちょっとした金額で入門篇として参加できる形になっている。
速水 ランチパスポートの特徴は、街を楽しむという部分。それは観光的な要素と、ハロウィンの仮装して街で遊ぶに近い要素との両方に近いかも。あと、ランチパスポートのすごかったとこって、その仕組みがあっという間に全国に広まったところ。
松本 最初は高知県だったんですが、今では新橋だけで3つ4つあったりしますから。2015年の頭くらいに、新春の今年の消費を切るみたいな番組に呼ばれてしゃべった時も、ランチパスポートは今年注目ですよって言ったんですけど。
おぐら それは言い切っておいてよかったですね。
速水 都心の時代っていうのは、これから開業する大型商業施設においても言える。
松本 銀座の松坂屋ができたり新宿の南口とかもそうですね。あと名古屋が開発を極端にやっていて、名古屋の駅前ってこの3年くらいで3つくらいビルができるそうです。
おぐら 「爆買い」の流行語大賞で社長が受賞者に選ばれた免税店のラオックスも、2016年には名古屋市に初進出するそうで。あとは渋谷も再開発が進んでいます。
速水 観光+都心型。そういう流れは、今後もあるかな。
新しいライフスタイルによる「枠超え消費」
おぐら 流行はいろいろとありましたけど、2015年における消費の研究的には、どういうまとめなんですか?
松本 ハロウィンやインスタグラムなんかが「みんな一緒」を脱して「自己表現」に向かったとか、「私たちの知らない日本」が始まったとかありますけど、2015年は「枠超え消費」とまとめています。既存の社会常識みたいなところを今年は超え始めた。今までの固定観念とかこういうのが当たり前だよねっていうところからちょっとはみ出してみよう、新しいことを始めてみよう、といったような消費の仕方です。
速水 そういう時代だからこそのノーマルっていうのもありますよね。さっきも出たけどモノを持たない「ミニマリスト」、あとこの連載でも何度も取り上げてきた「ていねいな暮らし」。こういうのは、アメリカでは「ニューノーマル」と呼ばれるリーマンショック以後の新しい消費意識として生まれたモノが、少しずつ日本に輸入されている感じなんだけど。でも、ブルーボトルは、成功とは言えなかったかも。
松本 「ていねいな暮らし」って数年前とかだと何言ってるんだって感じがあったと思うんですけど、そのしゃらくさい感がなくなってきた。そういうライフスタイルを人々が認識するようになったというのは新しい時代かもしれません。
おぐら 「ていねいな暮らし」は意外とデフレとも相性がいいんですよね。服でいうと、2〜3万円の上質なチノパンやボタンダウンシャツなんかの定番をずっと着続けている人たちがいて。思想としてはファストファッションへのアンチがあるんですけど、最初にちょっと値は張るけど長持ちするし、手持ちが少ない分、かえってコスパはよかったりもします。そういえば、『フランス人は10着しか服を持たない〜パリで学んだ“暮らしの質"を高める秘訣』も今年の大ベストセラーでした。
松本 デフレ環境からようやく脱却するかと言われてますけど、やっぱりまだまだ消費者はお金もないしっていう中で、いかに生活スタイルを提案できるかが問われるでしょうね。
速水 デフレ脱却できるかどうか、本当に消費税を上げるかどうか、これで今後の消費環境は大きく変わるのは間違いない。
おぐら オリンピックはどうでしょう?
速水 都心開発ブームもオリンピックとは無関係に起こっていることなのでどうなるかわからない。オリンピックのブームは来ないかも(笑)。
松本 うちの会社的にはオリンピックのブームがこないと非常に困りますね(笑)。
2016年の鍵は「イケてる爆買い」
おぐら 来年はどんな年になるんでしょうか。
速水 円安が続く前提でいうと、これから訪日観光客が増えていくモードが続くのは間違いない。いまのところ受動的な動きなんだけど、そこを積極的に取りに行くような流れが生まれるかな。
松本 ポジティブな受動っていうか、積極的に受け入れるっていう意味での受動ってことですよね。
速水 まちづくり、交通アクセス、広告PRをうまく連動させるみたいなことなんでしょうけど。
おぐら 1970年代には旧国鉄が「ディスカバー・ジャパン」のコピーで大々的に広告キャンペーンをやってましたけど、あれは国内の個人旅行客を増やすことが目的でしたよね。あれから40年、いまの時代は「ポスト・ディスカバー・ジャパン」と言いますか、外国人観光客向けのキャンペーンが必要になった。
速水 外から見える日本像というものを自分たちが意識せざるを得ない時代。あのころはそれが多分にフィクショナルなものだったけど、いまはもっと現実的。
おぐら 70年代の「ディスカバー・ジャパン」のポスターって、きれいな白人の女性と日本家屋みたいな感じで、そのオシャレなイメージによって「アンノン族」※が生まれたりしたわけですが、いまの現状をそのままポスターにすると、爆買い中国人が大量にドラッグストアや家電量販店の袋を持って地べたに座るビジュアルになっちゃいますね。
※アンノン族:日本各地を雑誌やガイドブック片手に旅する20歳代前半の女性たち。『an・an(アンアン)』と『non-no(ノンノ)』の影響を強く受けていたことから、両誌の名前をかけ合わせて「アンノン族」となった。
速水 けど、かつての「としまえん」「パルコ」とかのCMだったら、「爆買い」をうまくポップに広告にしていた気もする。
おぐら やってそう!ってか、やってほしい! テーマは「ディスカバー・ニュージャパン」ですよ。
速水 その古い感じがまたね。
松本 でもそれが意外と面白い時代を創ることなのかもしれないですね。
速水 そこを面白く展開できるかどうかは、広告のがんばりよう次第ですかね。
おぐら 「爆買い」をうまくポジティブにパッケージングできれば、絶対にお金になります。
速水 イケてる爆買い。
松本 じゃあこんなところで。