この記事について

 この記事はWebのアドベントカレンダーサイト「Adventar」で作成された「体験型イベントAdvent Calendar 2015」の12月16日の記事として書きました。
 なお、内容は筆者である粒幸久の個人的見解に基づくものです。また、記事中に「謎解き」要素は盛り込んでおりません。

非常に長くなったので三文でまとめます

  1.  謎解きゲームイベントのチーム戦と協力型ボードゲームに共通して、熟練者の活躍により他の参加者が楽しめなくなるという「奉行問題」がある。
  2.  「奉行問題」を参加者の立場から対処するなら、自分のプレイスタイルを理解してそれに適した環境を用意すること。そして他人のプレイスタイルも尊重すること。
  3.  地方でももっと気軽に謎解きイベントがやりたいので、再演予定のない謎解き公演を委託するような例が出てくれば嬉しい。

自己紹介

 粒幸久(つぶゆきひさ)と言います。「つぶ」と呼んでください。
 2012年の夏にSCRAPの「マジックショーからの脱出」(再演)に参加して以来、すっかりこの類の体験型謎解きイベントの虜になっています。
 岩手県に住んでいるという地理的制約もあり、首都圏を中心に開催されるイベントにはそれほど多く参加していませんが、2014年には自主イベント「串揚げ料理店からの脱出」を主催し、その後も同作の持ち帰り謎版や、謎解き問題集「コツブナゾ」シリーズなど、作る側にもちょっとだけ手を出してしまいました。
 SCRAPだけでなく他の謎解き製作団体のイベントも機会があれば参加しているのですが、特にも学生団体の活躍を見るにつけ、あと十数年遅く生まれてきたならば学生時代に同好の士を見つけて、昨今の熱気をもっと近くで共有できていたのかも知れないな、などと羨ましく感じています。

私の学生時代

 では、十数年前の私は趣味で何をしていたかというと、ボードゲームでした。
 小学生の頃から将棋麻雀に触れ、中学生の頃には家庭用ゲームソフトの「いただきストリート」を通じてモノポリーを知り、高校時代には最初の日本語版が発売された「カタンの開拓者たち」に出会います(ここまで比較的著名なゲームのみ挙げたつもりですが、Wikipediaへのリンクにて補足しておきます)。 
 大学に進学し、そこそこ自由にできるお金と時間を注ぎ込むことで、ボードゲームへの情熱は揺るぎないものになっていきます。大学にもその手の学生サークルはありましたが、同じく時間を注ぎ込んでお金に変えるアルバイトにものめりこんでいたために新たな遊び仲間を探す余裕がなく、相手はもっぱら高校時代から付き合いがある友人達とでした。
 友人達も自分と同じように買い集めて遊ぶ機会を窺っていたり、「桃鉄」や「カルドセプト」をやりこんでいたりするようなボードゲームの素養がある人間たちでした。週末ごとに遊ぶにつれ、自分達でもボードゲームを創作してみたいと考えるようになり、2005年に電源不要ゲーム製作サークル「Wisteria」を結成、コミケなどのイベントで同人活動を始めました。
 その後、就職や結婚に伴いメンバーが多忙になったことで約7年のブランクを経ながらも、昨年から活動を再開。サークル名も「トーホクウィステリア」に改めました。

ボードゲーム

 コミケでは、謎解きもボードゲームと同じく「ゲーム(電源不要)」のジャンルに分類されているため、それほど詳しい説明を要しない方も多いでしょうが、この記事はいわゆるクラスタ同士の相互交流も意識しているので、お約束的な紹介をしたいと思います。
 日本でボードゲームといえば人生ゲーム、またカードゲームならUNOなどが現在もロングセラーを続けており一般的な認知度も高いでしょう。
 ですが、現在の比較的大きな家電量販店で、同コーナーの売場を覗いてみれば、その認識はもはや古いことに気付くかと思います。前述のカタンの開拓者たちのヒットをきっかけにドイツを中心としたユーロ圏のボードゲームが広く流通し、日本語版も数多く作られるようになりました。
 ドイツ発のボードゲームの特徴を一言で表すなら、「運と思考のバランスが適度に保たれているゲームが多い」ことでしょうか。初プレイでも勝てるかも知れない楽しさと、やりこむことで上達してより勝ちやすくなる面白さを持ち合わせているのです。

ゲームマーケット

 近年、日本でボードゲームが盛り上がりを見せている理由の一つに、「ゲームマーケット」と呼ばれるオンリーイベントの存在があります。企業ブースでは海外ゲームの新作や日本語版が売り出され、一般ブースでは同人サークルを中心に様々な自作ゲームが発表されています。話題作は専門店で委託販売されたり、さらには企業からリメイク版が発売され、ついにはそれが本場ドイツで賞を受けるといった出来事がここ数年で起きているのです。
 規模もだんだんと大きくなりました。2000年代は都立産業貿易センターの台東館で有志によって開催され、参加者も2,000人前後だったものが、2010年からは企業が主催となり、2013年からは東京ビッグサイトの1ホールを埋める規模となり、参加者も直近の2015年秋には約9,500人まで増えています。
 2014年春からは、会場内にてよだかのレコードによる謎解きイベント「リアル謎解きゲームマーケット」が開始されるようになり、また2015秋には企業ブースにSCRAPが、一般ブースに同社Labガールズ所属のだてあずみ。さんによるサークル「GoccoGames」が出展するなど、謎解きクラスタとしても注目したいイベントになっています。来年は2016年2月21日に神戸国際展示場、5月5日に東京ビッグサイトでの開催が決定しています。

謎解きとボードゲーム

 前置きがだいぶ長くなってしまいましたが、かように謎解きとボードゲームは近い位置にありますが、両方を嗜む人は私の体感では各々のクラスタの3割くらいかな、と感じています。トーホクウィステリアでも謎解きイベントに積極的に参加したり謎製作を行うのは私一人でして、他のメンバーは上京してイベント出展する際に誘った時や、デバッグのときに解いてもらう程度の関わり方です。
 この記事を読んでいる、そのような皆様にも機会があれば是非とも一度、謎解きイベントとボードゲームの両方を体験していただき、相互に同じ電源不要ゲームとして得られた気付きを還元してもらいたいと思っています(本音を言うと面白さを実感できるのは2、3回目くらいに巡り会った優良な謎解きイベント/ボードゲームだったりすることが多い気がしますが)。
 謎解きイベントは、インターネットで「リアル脱出ゲーム」や「謎解きゲーム」などと検索し、出てきた中から興味があって参加できそうな内容の回があれば演劇やライブを見に行く要領でチケットを購入します。
 ボードゲームは身近に所有する友人が居なければ敷居は高いですが、全国各地において個人主催のボードゲームを持ち寄って遊ぶ催しが行われています。地域名に「ボードゲーム会」などと加えて検索することで、そのようなイベントの情報に行きつくでしょう(ちなみに私も地元近くの青森県八戸市で月例のボードゲーム会を主催しています)。
 いずれの場合でも同じ趣味を持つ「3割」の友人がいれば、その人に相談してみるのが気軽だと思います。

奉行問題

 私が両クラスタの交流を促したいと考える理由の一つに、謎解きのうち会場型や密室型と呼ばれる「チーム戦」と、ボードゲームの中でもプレイヤー全員が同じ目的を果たすために行動する「協力ゲーム」に共通して生じることがある「奉行問題」について、相互に議論が深まるのではないかという期待があります。
 まず、「奉行問題」とはなんなのか。その呼称からなんとなく想像がつくかも知れませんが、こちらの記事から定義を読み取っていただければと思います。

非電源ボードゲームで未来のゲームを妄想する「【海外フォーラム記事翻訳】なぜ、協力型ゲームはクソなのか?奉行問題があるからだよ!」

 伝わりましたでしょうか。要は「熟練したプレイヤーが、自分にとっての最適解を押し付けることで、他のプレイヤーが楽しめなくなる」という状況を指しています。もしかすると、程度の差こそあれ皆さんも既に経験したことがある事態かも知れません。

ボードゲーム的解決策

 この状況を、ボードゲーマーはどのように考えているのでしょうか。ここでも2例ほどブログ記事を引用してみます。


 両記事とも今年に書かれたもので、問題は以前から認識されていましたが、今現在も進行形で意見される話題であると感じます(簡単に調べてみたところ、有名協力ゲームであるパンデミックの日本語版発売が2009年のこと。「ボードゲーム 奉行問題」の検索で見つかる古い記事は、2010年にtwitterや2ちゃんねる卓上ゲーム版で交わされた会話のまとめでした)。
 引用記事は、いずれも解決策をゲームのシステム(メカニクスとも)やデザインの部分に委ねています。結果、パンデミックは追加の役職や拡張版が考案されており、また別タイトルの優れた協力ゲームも続々登場しています。

謎解きゲーム的解決策

 一方で謎解きゲームイベントでも、システム的なアプローチが様々に模索されているようです(ようです、というのは主に大手企業ではない団体の公演において伝え聞くことが多く、私自身の体験ではないため)。特定公演のネタバレにならないよう大雑把に言うならば、感覚機能やコミュニケーション手段について制限が加えられるという手法、あるいはプレイヤー間において与えられる情報に差を設けるという手法は多用されているのではないでしょうか。
 しかしながら、チームで協力して行う謎解きゲームにおける醍醐味は、同じ問題に対して複数の意見を出し合い、そこから正しいと思われる意見を合議して、そしてその議論で活躍した仲間を賞賛する会話の部分にもかなりの割合が詰まっていると感じるのです。その部分を削ぐこと無しに一般的な謎解きゲーム公演で通用するような解決策、つまりはシステム側でなくプレイヤー側が楽しみを最大化する方法は無いものでしょうか。

プレイヤーによる意識の差

 そもそも、「奉行問題」が問題になるのは、プレイヤー間でのゲームに対する意識の差、プレイ態度の差が原因ではないでしょうか。先に引用した記事でもプレイヤーのマッチングが問題であるとの観点があり、私もこの点で同意見です。
 様々なゲームにおいて「ガチ勢」「エンジョイ勢」という分類でプレイスタイルが語られることがあります。このような両極端な分類から始まる議論は不毛なことが多いので個人的には好きではないのですが、分かりやすさを重視してこの表現を用いながら、次のように定義します。
 謎解き/ボードゲームにおける「ガチ勢」とは、結果における楽しさ、つまりはシステム側に委ねた基準の成功を重視するプレイスタイル。そして「エンジョイ勢」とは、過程における楽しさ、つまりは顔を突き合わせて謎を解いたり、盤面を有利に進めたり、そしてそれらのフォローしたりといった、その数十分間の行為における心情を重視するプレイスタイルとします。

 さて、あなた自身はどちらのスタイル、あるいは両方のスタイルとも共感できるでしょうか。

 ここで注意したいのは、両者ともゲームを楽しみたい点では共通していること、そして多くの謎解き/ボードゲームは、「ガチ勢」のような結果的な成功を目指す意識が全く無いとしたら、そもそもゲームとして成り立たないことが多く、そしてその過程においても楽しむことが難しい遊びであるという事実です。

無難で月並みな私の意見

 これを踏まえて、トーホクウィステリアのメンバーであるぷらとんによる、こちらの記事を読んでいただきたいと思います。ここで「ギークな意識」はガチ勢の考え、「ポリティクスを楽しむ意識」はエンジョイ勢の考え、と理解してください。

ぷらとん―マイナーゲームのために『「ギークな意識」と「ポリティクスを楽しむ意識」』

 ここでは協力ゲームではなく対戦するボードゲームを念頭に置いているのですが、謎解きイベントへの写像を考えると結論はほぼ同じになるのではないかと私は考えます。
 要はガチ勢の考えを100%徹底するならば、謎解きイベントへの参加と成功が目的になり、そこでは誰とチームを組むかは手段化してしまうでしょうし、逆にエンジョイ勢の考えが100%だとしたら、誰と遊ぶかが重要なのですから、何も謎解きイベントに拘らなくたって、ダーツでもカラオケでも居酒屋でも、それこそボードゲームでもきっと楽しめるはずです。

 今一度、私は両極端な分類から始まる議論は好まないと前置きしてから、問うてみます。
 あなた自身はどちらのスタイル、あるいは両方のスタイルとも共感できるでしょうか。

結論として伝えたかったこと

 多くの人が「ガチ勢」、「エンジョイ勢」両方の意識を持っていると思いますし、その割合もそれぞれに違うと思います。そして、そこから導ける「楽しむために大切なこと」が、私は2つほど思い当たります。
 一つは自分のプレイスタイルを把握し、それに適した環境を用意することです。
 具体的に謎解きで言うならば、会場型や密室型にソロで参加しても楽しめるのか、それとも仲間内で固めていくのが良いのか。その仲間にしても、自分に近しいプレイ態度なのかどうか。あるいは、いっそ周遊型などの個人戦のみが向いているということもあるでしょう。
 ボードゲームで例えるならば、広く参加者を募るボードゲームのオープン会に参加して、マンネリ化とは無縁な新しいゲーム展開を望むのか、それとも親しい顔見知りとクローズな環境で落ち着いて遊ぶのが性に合っているのか。どちらが優れているとか、どちらか一方にしなければならないわけではありませんが、自分の志向がいつまでも曖昧なままだとしたら、行き場のない不満は無関係な立場に向いてしまいそうな気がします。
 そしてもう一つ、他人のプレイスタイルに一定の配慮をすることも重要でしょう。仲の良い友人であっても、遊びに対する姿勢には温度差があるかも知れません。必死に見える様子を揶揄されたり、やる気が無いと受け止められて苦言を呈されたり。そんな行き違いによって遊びが楽しいもので無くなってしまうとしたら、それはとても不幸なことだと思うのです。

個人的にもうちょっと伝えたい(余計な)こと

 以上に述べたのは私なりの結論であって、そして全くもって絶対的な答えではありません。
 本記事の目的を再掲すると、「奉行問題」についての議論を謎解き/ボードゲームの双方から深めるところにあります。皆さんはどう感じて、また個人的にはどう対応しているか、それぞれに見直し、身近な誰かと共に考えてもらえればと思うのです。
 閑話休題。
 私は地方在住ですが、地域による「ガチ勢」「エンジョイ勢」の差は特にないと思っています。上京した際の参加する謎解き公演でも、全国ツアーの地方公演でも、同じように「ガチ勢」寄りの人とも「エンジョイ勢」寄りの人ともチームを共にしていますし、ある時には最高に楽しめたり、またある時にはあまり楽しめなかったりしています。ただ、この楽しさについては、前述の議論とは全く別の要素、例えば意外性などがもたらしている部分も多いような気がします。
 何が言いたいかというと、首都圏など大都市で毎週末のように謎解きに参加できる環境をとても羨ましく思う反面、ハイスピードで消費されていく謎解きコンテンツは中上級者層の一部を飽きさせることに繋がってはいないだろうかと、余計な心配をしてしまうのです。もちろん、それは参加する個人が主体的に取捨選択を行っていれば杞憂で済む話ですし、むしろ大量の謎解き公演があることによって初心者層の取り込みが上手く果たせているならば、それはとても望ましい傾向だと思います。
 振り返って地方を見ると、もっと謎解きができる環境が欲しいと感じています。アジトオブスクラップ仙台の閉店は残念なことですが、その埋め合わせを有志が担う先日の東北謎博のようなイベントが開かれるのは素晴らしいことで、この動きを止めてはならないと思います。
 さらに気軽で小規模な形式、それこそオープンボードゲーム会のようなスタンスで謎解きイベント公演ができないだろうか、と考えることがあります。そこで使う謎についても、もっと団体の垣根を超えた再利用が進めば良いなと思っていて、具体的に言うなら、もう再演のない公演用の謎を、私のような地方でイベントを興したいと考えている団体に対して委託、あるいは丸投げして売ってくれるような仕組みがあればお互い幸せになれるんじゃないかと妄想するのです。
 もちろん、自主イベントであるからこそその色が出せる団体様が多いことを存じていますし、その対価としていくらが適当なのかという相場もこれからの話だとは思っています。
 もし、それでも前向きにご相談いただける方がおりましたら、twitterやメール ugcw●outlook.jp (●をアットマークに変えて) などでご連絡いただければありがたいです。正直なところ、自分の身には余るような気もしないでは無いですけども…。

アドベントカレンダーのあれこれ

 この記事を最後まで熱心に読んでいただいたあなたにもう一つだけお願いです。(謎解き)体験型イベントと、ボードゲームのそれぞれに関するアドベントカレンダーを紹介させていただきますので、双方向に興味を持っていただければと思いながら、この記事を終わりたいと思います。

体験型イベント Advent Calendar 2015
 この記事を書かせていただいたアドベントカレンダーです。

体験型イベント(裏) Advent Calendar 2015
 謎解き界隈の盛り上がりにつき、今年はもう一つアドベントカレンダーが作られたようです。

Board Game Design Advent Calendar 2015
 主に同人活動でボードゲーム製作する人達がゲームデザインについて語るアドベントカレンダー。明日12月17日はトーホクウィステリアのメンバー、ぷらとんがエントリーしています。 

ボドゲ紹介 Advent Calendar 2015
 謎解きクラスタにも読んでいただきたい、おすすめのボードゲームを紹介するアドベントカレンダー。

Trick-taking games Advent Calendar 2015
 トリックテイキングという種類に分類される様々なカードゲームについてのアドベントカレンダーです。

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