キーは在来線利用促進 新幹線、当初は赤字
「新幹線の収入確保はもちろん、在来線も含めた需要喚起が必要だ」。11月26日、国土交通相の諮問機関、運輸審議会が函館市で開いた新幹線特急料金の公聴会。JR北海道の島田修社長は、委員に収支状況を問われ、険しい顔で答えた。
発言の背景には、新幹線単体で開業から3年間、年平均約50億円の赤字予想となる苦しい経営事情がある。新幹線を建設した鉄道・運輸機構に開業から30年間、需要予測に基づいた利用料を払うほか、青函トンネルの老朽化対策や寒冷地対策が重くのしかかる。
ただ、島田社長が「予想を上回って人の動きが道内に広がれば、当社の収支改善につながる」と語ったように、JR北の努力で増えた収入はそのまま取り分となる。鍵を握るのは、新函館北斗と道内各地を結ぶ約2500キロの在来線だ。
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北海道が昨年実施したアンケート調査(回答数2000件)によると、道外客が新函館北斗駅から先の最終目的地としたのは札幌が最も多く、約3割を占めた。さらに道央圏への移動手段には45・3%が在来線を挙げた。
これらを背景にJR北は需要増を見込み、札幌−函館の特急「スーパー北斗」「北斗」を現在の9往復から開業後は12往復に増やし、全列車を新函館北斗駅に停車させる。
浮かび上がった問題もある。
アンケートでは経由地として、4人に1人が「ニセコ・倶知安・小樽」を選んだ。新函館北斗駅からニセコ・倶知安方面へは長万部駅で乗り換えて行けるが、特急や快速の運行はなく、普通列車も1日13本と少ない。
さらに札幌−函館間の特急では2013年に発煙や発火事故が相次ぎ、異例の「減速・減便」の安全対策を取った経緯もある。
開業後も特急の減速方針は変わらない見通しだが、安全で便利なダイヤの確立は、新幹線だけでなく在来線でもなお課題のままだ。
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新幹線の始発・終着駅の新函館北斗から函館市の中心駅、函館まではアクセス列車「はこだてライナー」が最速17分で全新幹線に接続して運行する。ここにも「IC機能の断絶」というべき課題がある。
開業をにらみ、函館市と函館バスは市電や路線バスでIC乗車券を17年にも導入する。一方、北海道新幹線にはスマートフォンで利用できる「モバイルSuica(スイカ)特急券」が検討されている。
ただ道南のJR在来線でIC機能対応の動きはなく、このままではアクセス列車区間で「切符不要」の利便性が途切れてしまう。
函館商工会議所の新幹線函館対策室の永沢大樹室長は「アクセス列車でIC機能が使えないのは問題だ。切れ目のない利便性のためにも、IC機能を導入すべきだ」と訴える。
利用客は観光客だけではない。七飯町は11月、アクセス列車が走り、周辺人口約2万5000人の七飯駅、大中山駅の停車本数を増やすようJR北に要望した。また開業後に江差線の五稜郭−木古内間は経営分離され運賃も値上げされる。七飯町政策推進課は「新幹線ができてもこれまでより不便になるのは困る」と話す。
JR北には新幹線開業後も、地域交通を担う責任がある。