『たのしいドルヲタ図鑑』【3人目:アイドルへの“ガチ恋”について本気で向き合う ふちりんさん】

連載・コラム

[2015/12/4 12:00]

3人目:アイドルへの“ガチ恋”について本気で向き合う ふちりんさん

 今や日本中、いや世界中に生息するドルヲタ(アイドルヲタク)たち。本連載では、そんなドルヲタのなかでも特にエッジが効いた個性的な人々を紹介していく。今回紹介するのは、アイドルに本気で恋をする“ガチ恋”を10年以上続けている一途な男性、ふちりんさん。乙女のように健気に恋をするその姿に迫る。

ふちりんさん

    年齢35歳(クリスティーナ・アギレラと同い年)
    出身地埼玉県
    星座おひつじ座
    血液型A型
    趣味読書、サッカー観戦、アイドル鑑賞、ベースを弾くこと
    現在の本現場石川梨華(元モーニング娘。)
    属性ガチ恋
    鑑賞スタイル推しがステージで歌っていると心が奪われてしまいほとんど何もできなくなるため、サイリウムを機械的に振ったり、手拍子をしたり、呆然としながら推しの姿をじっと見つめている。

    [※本現場(ほんげんば)……メインで行っているライブ(現場)、大切なライブのこと]
    [※推し……“イチ推しメンバー”の略で、グループ内で特にひいきして応援しているメンバーのこと]

    ちょっぴりシャイでチャーミング、女子力高めなふちりんさん
     ふちりんさんは控えめで大人しく、細やかな神経を持ち合わせた女子力高めの男性だ。今回の取材のため、取材当日に美容室に行って来てくれたことを照れながら話す姿はキュートで、さっぱりとしたヘアースタイルとボーダーのシャツでさわやかに臨んでくれた。写真でおわかりのようにふちりんさんは元モーニング娘。の石川梨華を応援している。

    ふちりんさんの部屋にはたくさんの本が並ぶ。好きな作家は村上春樹、太宰治、中村文則だそう

    2003年、梨華ちゃんにガチ恋〜恋をしちゃいました!〜

     ふちりんさんはテレビ番組『ASAYAN』(※)を観て気になっていたモーニング娘。のライブに「楽しそうだから行ってみようかな」と思い、2003年にさいたまスーパーアリーナで行われた『モーニング娘。CONCERT TOUR 2003春 "NON STOP!"』にて現場デビューを果たす。「梨華ちゃんのことは初め“可愛い子がいるなぁ”と思う程度だったんですけど、いつからこんなにガチ恋になっちゃったんだろう……今思うと初めてライブを観に行ったときにはすでに恋に落ちていたような気がします」。ふちりんさんのガチ恋の始まりは“恋はするものじゃなく、おちるものだ”という名セリフ(江國香織『東京タワー』より)のとおりだったようだ。それからふちりんさんは梨華ちゃんに対して10年以上ガチ恋を続けている。

    [※ASAYAN……1995年から2002年までテレビ東京で放送されていたオーディション番組。小室哲哉やつんく♂などのプロデュースで、モーニング娘。や鈴木亜美、CHEMISTRYなど多くのアーティストを輩出した。]

    梨華ちゃんの好きなところ・梨華ちゃんとの思い出
     ふちりんさんに梨華ちゃんの好きなところを聞いてみた。「とても真面目で繊細で、優しいところです。あとバラードを囁くように歌っているときの少しかすれた歌声。あと水着姿もとても好きです」。また、梨華ちゃんとの心に残った思い出は2008年の美勇伝(※)バスツアーでの握手会だという。「“これから何があっても、僕はずっと梨華ちゃんの味方です”と伝えたことをよく覚えています。すごく緊張して、伝えるのに精一杯だったから相手の細かい反応を覚えてる余裕がなかったんですけど、梨華ちゃんが真剣な表情で耳を傾けてくれたことがとても印象に残っています」

    [※美勇伝……ハロー!プロジェクトに所属していた3人組アイドルユニット。石川はセンターを務め、モーニング娘。卒業後はこのユニットでの活動をメインにしていた]

    梨華ちゃん以外の人に恋をしたことは?
     梨華ちゃんにガチ恋をしながら、ほかの人を好きになることはなかったのだろうか。「僕は結構人を好きになりやすいタイプだとは思います、だいたい片思いで終わることが多いんですけどね。梨華ちゃんの場合はなぜこんなに長いのかというと、2000年のデビューから10年以上1度も熱愛報道がなかったっていうのが大きくて、好きになるのを辞めるタイミングがなかったんですね……。でも、実は2009年の夏頃に友達に連れられて行ったメイドカフェのメイドさんに一目惚れして、2年半くらい片思いしていました……。片思いの末、メイドさんが卒業する(店を辞める)タイミングで告白したら、“ふちりんにはもっといい人がいるよ”って言われちゃって……。その後メールアドレスを教えてくれて何度か食事に行ったりはしましたが、結局上手く行きませんでした。メイドさんに恋してる間は梨華ちゃんのことは恋ではない形で応援していて“ずっとこの距離感を維持できたらいいな”と思っていたけど、メイドさんへの恋が終わったあと気付いたらまたガチ恋に戻っていました」

    ふちりんさんのガチ恋グラフ
    「正直、今が1番ガチ恋が極まった状態です」

     ここで、ふちりんさんのガチ恋をグラフに表してみた。

     2003年からガチ恋が始まり、梨華ちゃんがモーニング娘。を卒業した2005年頃まで急上昇する。2009年に別の女性へ恋をしたことをきっかけに一旦落ち着くが、2012年頃から再び急上昇、梨華ちゃんへの想いは今もなお右肩上がりだ。「どんどん上がってますね。と言うのもここ最近で自分が熟女好きだということに気付いたんです。歳を重ねれば重ねるほど魅力的に感じるんですよ、包み込まれる感じというか色々乗り越えたうえでの優しさみたいなものが良いなって思って。正直、今が1番ガチ恋が極まった状態です」とのこと。

    梨華ちゃんから受けた影響・梨華ちゃんと交わした約束

     ふちりんさんは梨華ちゃんをきっかけにさまざまな趣味を始めた。「梨華ちゃんがブログに料理のことを書くことが多くなったので、それに対応したコメントを書くために自分も料理を勉強し始めました。本を読んで、パスタなどの簡単なものから肉料理などちょっと難度の高いものまで作れるようになりました。また、身だしなみにも気を付けるようになってファッションを勉強したり、髪の毛も以前は1000円カットで切っていたのですが、美容室に行くようになりました。梨華ちゃんが黒髪・短髪が好きだと言うのでそのとおりにしてもらっています。また、2014年1月の梨華ちゃんのバースデーイベントで僕の“今年の抱負”が抽選で読まれて節酒を宣言したので、その年いっぱい禁酒した、ということもありました」“節酒”を約束したのに“禁酒”までしてしまうとは。梨華ちゃんと約束をしたふちりんさんの固い意志を感じるエピソードだ。

    バースデーイベントで抱負を読まれたときのふちりんさんのツイート。「ふりちんさん」と名前を読み間違えられなくて本当に良かった。

    2014年8月、梨華ちゃんの熱愛発覚
    「飼ってた犬が死んだときよりもショックだった」

     そんな、ガチ恋が極まりつつある2014年の8月、スポーツ新聞に梨華ちゃんと野球選手の熱愛が報道された。「忘れもしない、2014年の8月5日です。この日のことは一生忘れないですね。昼頃にハロヲタの友達から電話がかかってきて世間話をしていたら“そう言えば、梨華ちゃん熱愛発覚だってね”と言われ、“嘘でしょ?”と。しかし“野球選手らしいよ”との言葉を聞いた瞬間にリアリティが増して。その直後はそんなに実感が湧かなくてTwitterにもおどけた感じにツイートしてたんですけど、翌日くらいから“夢じゃなかったんだな”って実感して……。今まででそれ以上の衝撃ってないですね、昔飼ってた犬が死んだときよりもショックでした。ただ、そういうことがあったときのために前々から対策は講じていて、ちょうど前日に『“ドロドロした嫉妬”がスーッと消える本』を読み終えた直後だったんで、ちょっと助かりました。スーッとは、消えなかったですけど……」
     10年以上熱愛報道がなかった梨華ちゃんに、予兆のようなものはあったのだろうか。「報道の半年くらい前から……梨華ちゃんのブログの感じもおかしかったんですよね。やたら豪華な料理を作っていたり、保田圭ちゃん(※)の結婚式でブーケを受け取れなかったことをやたら悲しんでいたり、ちょっとそれっぽい雰囲気が漂っていて……。僕は梨華ちゃんのブログに毎回コメントしたくて、話を合わせるために自分も料理を始めたんですよ。だけど、梨華ちゃんの料理は恋人に食べてもらうために作られてたんだなってことがわかって……。それからはもう、つらくてほとんど料理も作らなくなってしまいました……」

    [※保田圭……モーニング娘。の元メンバーで石川の先輩。石川がグループに加入したときに教育係を務めた]

    普段は温厚なふちりんさんだが、熱愛が発覚してからはムシャクシャしたときに扇風機を殴ってしまうそう。リラックマのぬいぐるみは梨華ちゃんの代わりに抱きしめて眠るためのもの

    ガチ恋について向き合い、悩み、考え抜いた末の想い
    “女を好きになるパワー”を分散させる

     梨華ちゃんに熱愛が発覚してもふちりんさんはなお梨華ちゃんへのガチ恋を続けている。「僕にとって恋というものは、相手の人を見たり想ったりしたときに胸がキュンとするかどうかで、それがすべてです。その相手の肩書きや立場は関係ありません。理性を経由しない感じですね、心だけで恋しちゃう。これを言うと大体の人に説教されたり怒られたり“現実を見ろ”と言われますが……。梨華ちゃんのことを好きになりすぎないようにしよう、としたことはあるけど、嫌いになろうとしたことは1度もありません。嫌いになろうとしても、梨華ちゃんのことを思い浮かべた時点で好きという感情しか湧いてこないので、嫌いになることができないんです……。僕は“女を好きになるパワー”が強すぎるんですよ。だから最近はそのパワーを梨華ちゃんだけに集中させるのではなくほかの人にも分散させようと思って、指原莉乃(HKT48)の握手会へ行ったりメイドカフェに行ったり、地元のご当地アイドルの大宮アイドールを応援したりすることによって、バランスをとっています。そうするとほかの人から今度は“一途じゃない”って、また怒られちゃうんですけど」

    ふちりんさんが応援している埼玉発のご当地アイドル、大宮アイドールのライブ映像

    「指原のことも結構好きです」と言うふちりんさんだが、11月に取材したのにカレンダーは9・10月のままめくられていなかった。カレンダーの下にあるVOXのアンプは趣味のベースを練習するためのもの

    ふちりんさんの今後
    「結婚報告に向けての“おめでとうツイート(かっこいいやつ)”は用意してる」

     そんなふちりんさんに今後の目標を聞いてみた。「若い頃は想いを抑えきれずに“梨華ちゃんと付き合いたい!結婚したい!”とばかり言っていましたが、最近ではだいぶ大人になり、梨華ちゃんとの結婚はほぼ諦めました。恋人になるのも、もう無理っていうか、梨華ちゃんは僕以外の人と結婚したほうが絶対幸せになれるから……。35歳の童貞のおじさんですから、普通に考えて結婚できないだろうと。今は梨華ちゃんがそろそろ結婚してしまいそうなので、それを受け入れる心の準備をしています。とりあえず結婚報告があったとき用の“おめでとうツイート(かっこいいやつ)”は作ってあります。結婚報告があったらそれをコピペしてつぶやく予定です。そのあとはテレビもネットもない、どこか遠いところ……中国の山奥とかチベットあたり……に旅立つかもしれません。その後の目標は、40年後くらいに梨華ちゃんと飲み友達になることです。結婚は難しそうだから、40年後くらいで、飲み友達だったらなれるかなって。そのために長生きしなくちゃと思っています」

    ふちりんさんからガチ恋をしている人へメッセージ
    「僕みたいには絶対ならないでほしい」

     ガチ恋と向き合ったふちりんさんに、同じくアイドルにガチ恋している人へのアドバイスを聞いてみた。「できるだけDD(※)になるようにする、色んな足場を作っておくってことですかね。ひとつだけしか足場がないと、それが崩れたときに立ち直れないですから。そこが崩れても踏みとどまれるような足場を作っておくっていうのが大事だと思います。とにかく病まないように、健康的にアイドルを応援してほしい。熱愛報道から1年以上経ちますけど、僕はまだ立ち直れてないんで……。ほかのアイドルヲタの方に、僕みたいには絶対ならないでほしいなって……願いを込めてます」。

    [※DD……誰でも大好きの略。侮蔑的な意味で使われることも]

    ふちりんさんの心の一節
    「不器用でも素直な言葉を伝えたい 恋するエンジェルハート あふれてくるこの愛情を たった今この場で叫んで みんなに自慢したい」

     これは美勇伝の『恋するエンジェルハート』の歌詞の一節だ。ふちりんさんは「梨華ちゃんが歌う曲はすべて神曲になる」と語ってくれたが、特にお気に入りの歌詞だそう。“不器用でも素直な言葉を伝えたい”というフレーズがふちりんさんの健気な姿と重なる。
     今回ふちりんさんに取材を依頼したとき、下記のようなメールが届いた。

     メール1通をとっても、人柄というものはこんなにも感じられるのだということがわかった。初めてお会いしたふちりんさんは文章からにじみ出る優しさをそのまま持ち合わせており、時には言葉を詰まらせながらも梨華ちゃんへの想いを語ってくれた。10年以上のガチ恋の末、そのまま応援し続けるという選択肢を選んだふちりんさん。今後どうか遠い国へ旅立たず、健康に長生きをして目標を叶えていただきたいと思う。そのときはまた取材をさせてほしい。

    [耳マン編集部]