●狙いはどこにあるのか
内部留保はBSでは資本に計上されます。資産には計上されません。余剰資金ではありませんから売却しないことには現金化することはできません。仮に、取締役会、株主総会などで可決されたとしても法的な問題をクリアにしないことには手がつけられません。つまり一定のルールと手順が必要になりますから社員の給料を上げたり賞与分配に使用することはできません。
これを、例えるなら、定期預金の中途解約に似ています。満期に達していない定期預金解約の場合は「中途解約」になりますが中途解約利率がかかります。書面のうえでは記載されているものの使いにくいお金といったほうが分かりやすいかも知れません。
ちなみに、政治家が内部留保議論を持ち出すことには意味があります。まず、内部留保が現金ではないということや、社員に還元できないことは当然理解している話と考えるべきです。
閣僚クラスが知らないはずはありません。彼らの元には政府委員(政府参考人)が訪問して多くの情報をもたらします。誤った解釈をすることなど考えにくいのです。さらに、何の計算もなく話題や議論のネタにするとも思えません。そこには、なんらかの狙いがあると考えなくてはいけません。
11月6日の閣議後の記者会見で甘利経済財政再生相は、企業の内部留保への課税について「問題がある仕組み」との認識を示していますが額面どおりの解釈はできません。国家の予算、税制、政策、国庫、国有財産管理を管掌する財務省トップである、麻生財務大臣の今後の発言に注目が集まると思います。
●再燃するか?内部留保課税論
内部留保活用の議論は国民から根強いニーズが存在します。この議論をすることで、否応なしに国民(有権者)の関心は高まります。
目的は内部留保課税の是非です。財務省には課税論者が多いのです。企業に内部留保を吐き出させるには内部留保課税を打ち出すことは効果的です。法人税減税をしても内部留保を増やしてしまっては得策ではありません。また企業の利益が社員に還元されているとはいえず、設備投資に関しても減価償却範囲内に留まっています。過去に一旦は収まった内部留保課税論が、いつ再燃しても不思議ではない状況だと考えられます。
政府が従業員(社員)のベースアップを強く求めてきたのはこのような背景があるからだと推測できます。そして、企業の意識が設備投資に向かえば、内部留保を吐き出すことと同じ状況が起こりうるということです。参考までに、海外では内部留保という概念は存在しません。内部留保を積み上げることに意識が向かないことに加え企業買収の格好のターゲットになるためです。
例えるなら、時価総額1000億円で買収した企業に内部留保を含めて1500億円の価値があると換算された場合、買収後に解散するすれば500億円程度の利益が出ます(解散すれば現金化できます)。資本の論理で考えれば、海外では内部留保が高い企業が存続すること自体がナンセンスなのです。さて、内部留保議論はどこに向かうのでしょうか。今後の動きから目が離せません。
尾藤克之
経営コンサルタント