村上研志 田中聡子 北村有樹子
2015年10月18日05時04分
条例に「住民は自治会に入る」とあったら、入らなければいけないの? 実際にそんな条例があるというアンケートの書き込みを頼りに、長野県小諸市を訪ねました。「自治会連合会」って何をしているの? 疑問を抱いた読者とともに自治会連合会の会長に聞きます。お金の問題を含め、自治会にまつわる不透明な部分を紹介します。
■「加入」明記、市は「理念表したもの」
朝日新聞デジタルのアンケートにあった書き込みです。「長野県小諸市では条例で自治会加入を義務づけている」(千葉・50代男性)
調べると、小諸市は自治基本条例で「本市に住む人は(中略)区へ加入しなければなりません」と定めていました。「区」は自治会のこと。加入は任意のはずなのに……。
市企画課に聞くと「理念を決意として表したもの。義務というわけではありません」という説明です。
2010年に施行された条例は前文で、市民一人ひとりが自治の主体だとうたっています。素案段階のパブリックコメントには、「区への強制加入の部分は憲法違反」との声もありましたが、市側は「指摘はあたらない」として修正しませんでした。
同課は「個人の思想の自由には踏み込めない。加入していただきたいが、強制はしない」と話します。未加入への罰則規定はありません。
条例を設けても、市は68ある区の正確な世帯加入率を把握していません。区を通して配布している広報紙の部数と市の世帯数を比べ、8割台半ばと推計はしています。条例制定後の加入促進策は、昨年、転入者と区をつなぐ「受付ポスト」を設けたくらいだといいます。
渡辺次雄さん(72)は8年半前、島崎藤村ゆかりの地に引かれ、退職を機に東京から市西部に越してきました。区の存在は、数年して区長の訪問を受けて初めて知りました。「区への募金」を求められたことはありますが、加入の働きかけは条例ができてからもありません。
昔からの農家と交流があり、地域で疎外感はありません。知り合いの移住者から「区は入らなくていい」と言われ、仕組みに不透明さも感じるので加入する気はありません。
ただ、一度も広報紙は届きません。買い物ついでに市役所で取ります。市の健康診断を区が取りまとめていることも疑問に感じます。「住民税は払っている。市民に平等に情報を流すのが市の義務ではないか」
ある区長は「入らない人は隣近所にあいさつしない人。ごみも区民感情を考えると集積所を使わないでもらいたい」と話します。
市企画課は「全員加入の理想と現実に乖離(かいり)はある。未加入者が不自由しないように保障しないといけない」と話しています。
長野県では、塩尻市も条例で「市民は自らが居住する地域の自治会に加入するものとする」としています。「加入に努める」といった条文を設けている自治体もあり、同県では駒ケ根市や高森町、他県でも埼玉の八潮市や所沢市、草加市、神奈川の湯河原町、島根の出雲市などが条例で住民に加入を促しています。
小諸市には年に数件、全国の自治体から条例の運用状況について問い合わせがあるそうです。(村上研志)
■条例づくりに懸念次々と
条例をつくろうとして、住民の反対で頓挫した自治体もあります。
東京都世田谷区は2012年、「自治会が活性化することは、魅力あふれる街づくりにつながる」などとし、自治会への加入を促す条例の検討を始めました。翌年6月の区議会では「きわめて強制感が強い」などの反対意見が相次ぎましたが、9月には「区民の役割」を「自らが暮らす地域社会に関心を持ち、町会・自治会に加入するなど、地域活動に主体的に参加するよう努める」と位置づける素案を区議会に報告。14年4月に施行する予定でした。
潮目が変わったのは、13年10、11月に実施したパブリックコメントでした。115件の意見が集まり、賛成10件程度に対し、反対は50件弱。「加入の強制力となる」「加入は個人の自由とし、強制すべきではない」などと懸念する意見が出ました。「民主的でない町会役員もいる」「現在の町会は閉鎖的な団体だ」といった組織への不信感を記したものも。「戦前の暗い時代を想起させる」と歴史的な面から条例を否定する意見もありました。
区は12月、「丁寧に議論していく必要がある」として、条例の見送りを決めました。原田茂実・市民活動推進課長は「ここまで反対の声が大きいとは、当時は予測できなかったのだろう」と言います。今後、再び条例制定を目指すかどうかについて区は「白紙の状態」としています。
世田谷区町会総連合会長の斎藤重男さん(81)は「条例となると堅苦しく、町会にはそぐわない」と話しています。
長野県茅野市でも、11年度から加入を促す条例を検討しましたが、「理念だけでは意味がない」などとし、13年9月に断念しています。(田中聡子)
■強制性が出ると問題の方が大きく
《太田肇・同志社大教授(組織論)の話》 理念にすぎないとしても、全員加入をうたう条例があれば、加入を迫る人の後ろ盾になり、少数の意見がかき消されてしまう恐れが出てきます。自治や絆といった言葉にあらがうのは困難です。
地域は絶対的なものではありません。自治会・町内会の原型ができた当時の農村社会と違って、今は同じ行政区画にいても、会社など違う団体に所属し、プライベートの過ごし方もそれぞれです。その個人の都合を無視して、全体のスケジュールに従わせようとするところに無理があります。
行政が自治会に頼るのは、便利だからです。厳しい財政事情の中で業務を増やすのは苦しい。住民も、ほかに参加できる地域活動がなければ、自治会がなくなると不安でしょう。必要な面もありますが、強制性が出ると、途端に問題の方が大きくなります。
■「連合会」なくなると困るのは行政?
自治会を束ねる組織として、各地に「自治会連合会」があります。この自治会連合会の役割がよくわからないと、取材班の打ち合わせに参加した水本雅子さん(57)が問題提起してくれました。フォーラム面で紹介してきたように兵庫県三田市の事業所に勤務し、自治会への疑問をメールで最初に寄せてくれた方です。
朝日新聞デジタルのアンケートにも「自治会は必要だが、連合会は不要」などの意見が寄せられています。そこで、三田市の区・自治会連合会長、藤村晴彦さん(68)を水本さんとともに訪ねました。
連合会は、市内の182区・自治会を束ねています。事務局は市コミュニティ課が担い、年1回の総会資料は同課とともに作成。今年度の予算をみると、主な収入は市からの補助金約100万円。各自治会からは千円ずつの会費が納められていました。
会則によると、連合会の目的は、「自治組織相互の連絡を密にし(中略)市と協力して明るく住みよいまちづくりに寄与すること」。事業の一つは「市と連絡を保ち、市行政に協力する」と書かれていました。
藤村さんは連合会の役割について「市が進めようとする事業などの説明を住民の代表として聞き、意見する。ほかにも、各自治会に共通している問題を考えたり、各自治会の声を集め、市に要望したりしている」と説明しました。自治会の加入率低下を課題とする声が目立ち、昨年度は加入を呼びかけるパンフレットを連合会で作ったそうです。
藤村さんは「住民活動の主体はそれぞれの自治会」と繰り返します。連合会については「役員会は月1回あるが、日常的な活動がないので、住民には分かりにくい組織かもしれない」。市コミュニティ課は、連合会について「市の事業を効率的、公平に進めるために力を貸してくれるありがたい存在。市の下請け的組織ととらえられがちだが、そうではない」と説明します。
水本さんは取材後、「連合会はどちらかというと、行政の立場に近いように感じた。仮になくなると困るのは、市民ではなく、行政ではないか」と話しました。(北村有樹子)
■入会に10万円…お金にも疑問・批判
自治会・町内会のアンケートには、お金をめぐる様々な疑問や批判が寄せられています。会費、役員報酬が高い▽多額の入会金が必要▽行事不参加に「罰金」▽寺社への資金提供への疑問――などの声です。
会費は自治会によって大きく異なります。年会費が1千円のところがあるかと思うと、月会費1千円以上も珍しくありません。入会に10万円を払うというところがありました。
掃除や草刈り、総会に欠席の場合に「出不足金」をとられるところがあるようです。5千円という自治会もありました。
役員報酬もバラバラ。90万円、10万円、基礎額に会員数を掛け合わせ、というところがありました。自治会費の3割近くが役員報酬に使われるという例がありました。
会費収入を上回る会合、飲食費の支出があり、行政からの助成金で穴埋めしているといった報告も寄せられています。
アンケート「自治会・町内会は必要?不要?」を19日午後2時までhttp://t.asahi.com/forumで実施中です。ご意見はasahi_forum@asahi.com
でも受け付けています。
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