床下ハチの巣から大量の蜂蜜 京都の民家、駆除一転共生へ
京都府長岡京市神足2丁目の民家に数万匹のニホンミツバチが住み着き、畳1枚分ほどの巣を作っている。家の主が一部を取り除き、ざるに乗せたところ、20キロもの蜂蜜が採取できた。長年駆除しようとしたがうまくいかず、頭を抱えていた存在。思わぬ恵みをもたらしてくれたことで一転、「住人」に気持ちよく暮らしてもらおうと、住環境を整えている。
農業伊辻忠司さん(61)方。30年以上前から、蔵の床下に住み着くミツバチに悩んできた。何度も煙でいぶし、一昨年には業者に巣を撤去してもらったが、再び住み着いた。昨年、ハチが出入りする床下の通気口を網でふさいだものの、わずかな隙間から出入りされ、効果がなかった。
昨年11月、自ら駆除しようと巣の一部を取ってみると、1キロほどの蜂蜜が簡単に採れた。そのことを長女麻由さん(26)が出身大学のミツバチに詳しい教授に話すと、「ハチが民家に住み着き、蜂蜜が採れるのは珍しい。駆除せず、そのまま育てては」と勧められたため、今年は放置した。
数日前、床下の羽音でハチの数が増えたと感じた。思い切って床板を外すと、1畳ほどの範囲にびっしりと巣ができていた。手が届く範囲で巣を取り除くと重さ40キロ。10リットルは入る漬物だるや保存容器、小型の衣装ケース…家にあるものを総動員して蜂蜜を採取した。結局、200~320ミリリットルの瓶27本に、9・5キロ分の蜂蜜を小分けしたが、まだバケツに10・5キロが残る。添加物を一切混ぜていない蜂蜜は甘みがまろやかだ。
日本ではアカリンダニの感染や蜜のある植物の不足などでニホンミツバチが減少傾向にある。ミツバチの生態に詳しい京都学園大名誉教授の坂本文夫さん(化学生態学)は「民家にこれだけ大量のハチが住み着くのは、とても珍しく貴重」と話す。近隣にハチの巣はほとんどなく、なぜか伊辻さん方にだけ長年、巣を作ってきた。坂本さんは「まだダニの感染が進んでないのではないか」とみる。
伊辻さんは最近、においでミツバチを呼び寄せようと、蜂蜜を煮詰めた蜜蠟(みつろう)を通気口付近に塗った。「貴重な存在。これからも蜜を届けてほしい」
【 2015年10月16日 17時00分 】