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始まりから終わりまで、一貫して非民主的だった安保関連法制の国会審議。
参院安保特別委員会における「強行採決」に至っては、採決そのものが本当に存在したのかさえも疑わしい。しかし、議事録はあとで「改竄」され、まるで正当な手続きが行われたかのように仕上がっている。
2015年10月15日(木)、参議院議員会館で「参議院安保特議事録『改竄』に対する抗議記者会見」が開かれた。会見には、9月16日に行われた横浜地方公聴会の公述人である水上貴央弁護士(青山学院大学法務研究科助教)、広渡清吾前日本学術会議会長と、中央公聴会の公述人を務めたSEALDsの奥田愛基氏 が列席した。
奥田氏は、「立憲主義や議会制民主主義、民主主義が壊れてきている」と語り、「もし国会審議などの正当なプロセスが踏めないのであれば、国会や委員会がなぜ必要なのかというそもそもの前提が崩れる」と危機感を示した。
- 記事目次
- 「聴取不能」から委員長判断で一方的に上書きされた議事録
- 「今回の議事録は、実態と大きく異なるという意味で『改竄』だ」
- 異例づくしの公聴会の扱いに水上弁護士「参院審議の重大な汚点」
- 広渡氏「『改竄』というより、事実と違うことを書いた部分は『捏造』だ」
- 安保法制は手続きも無視して「やりたいからやる」という感覚
- 採決は「有効」か「無効」か? 議論後にさらなる行動を展開!
■ダイジェスト
■奥田愛基氏コメント
■全編
- テーマ 参議院・我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会の9月16日地方公聴会の議事録添付及び9月17日の議事録について
- 内容 1.今回の経緯についての概要説明/2.地方公聴会議事録添付についての抗議/3.議事録の「改ざん」に対する抗議/4.質疑応答
- 公聴会公述人 広渡清吾氏(専修大学教授、元東京大学副学長、前日本学術会議会長)、水上貴央氏(弁護士、青山学院大学法務研究科助教)、奥田愛基氏(SEALDs、明治学院大学)
- 日時 2015年10月15日(木) 17:00〜
- 場所 参議院議員会館(東京都千代田区)
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「聴取不能」から委員長判断で一方的に上書きされた議事録
10月11日、参院特別委員会で9月17日に安全保障関連法案を採決した際の議事録が参院のホームページで公開された。怒号が飛び交うなかで作成された速記録は、可決を宣言したと主張する鴻池祥肇委員長の発言を「聴取不能」と記していたが、新たに公開された議事録には、「可決すべきものと決定した」との文言が加筆されていた。
- 【議事録】第189回国会 我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会 第21号 平成二十七年九月十七日(木曜日)
また、実際には「速記停止中」に「採決」が行われていたはずが、新たに公開された議事録では「速記を開始し」という文言まで追加されていた。これらの加筆部分について参院事務局は「鴻池委員長が認定した」と主張しているが、野党側は事前の打診に同意しておらず、「議事録の信頼性が揺らぐ」と反発している。
「今回の議事録は、実態と大きく異なるという意味で『改竄』だ」
「NHKで生中継されていましたが、速記を起こしていないのは明らか。それが、速記を起こしていたことになっているんです」
地方公聴会に公述人として招かれた水上貴央弁護士は、今回の議事録の加筆を「改竄」だと非難する。
「野球で例えれば、“タイム”がかかっている最中に客席から観客がフィールドに雪崩れ込んできて、内野を人間かまくらで囲ってバリケードを作ったうえでピッチャーが勝手に3回ボールを投げて、『三振!』『ゲームセット!』とやっているようなものです」
また、通常の委員会採決であれば、議事録には「多数決で採決した」「全会一致で可決した」などと採決の様子が記録されるが、「今回は『可決する』だけで、採決が多数決だったのか、全会一致だったのかも書かれていない。さらに、誰が決定したのかもわからない」と異常性を指摘した。
そのうえで水上氏は、「今回の議事録は、実態と大きく異なるという意味で『改竄』です」と強調。「中身も不合理で、これを許すと、もはや委員会審議をしなくても議事録をあとから書けばいい、ということになる。議事録はあくまで議事経過を記録し、歴史的な検証をするものなので、ありもしないことを書いてはいけない」と憤った。
異例づくしの公聴会の扱いに水上弁護士「参院審議の重大な汚点」
さらに水上氏は、「公聴会の議事録の扱い」にも疑問を呈した。
参院の安保特別委員会では、地方公聴会後に一度も委員会で審議が開かれることなく法案が「採決」されたため、地方公聴会の内容は委員会で共有されず、公述は採決に活かされることもなかった。
地方公聴会は、委員全員が参加するわけではない。したがって、通常であれば公聴会後に委員会で「派遣報告」をし、公聴会の内容を委員間で共有しなければならない。そして、報告会の議事録の末尾に「参考資料」として公聴会の議事録が添付されるのが通例である。
今回は「派遣報告」が行われなかったため、地方公聴会の議事録も一度は宙に浮いたが、野党の抗議を受け、17日の「強行採決」の議事録の末尾に“アリバイ”のように添付された。これは異例の対応だという。
水上弁護士は公聴会で公述した際に、「この横浜地方公聴会は、慎重で十分な審議をとるための会ですか? それとも採決のための単なる『セレモニー』ですか?」と懸念を示していたが、結果として報告会も開かれず、議事録も採決後に後付で添付されただけだった。
「これでは公聴会が本当にセレモニーになってしまう」と水上氏は指摘し、「公聴会は採決の参考にするために行われるものです。『都合の悪い公述だった場合は、採決が終わった後に議事録を添付する』というのであれば、公聴会自体の意味がないことになる」と主張。今回の地方公聴会をめぐる扱いについて、「参院審議の重大な汚点だ」と痛烈に批判した。
水上氏には10月13日、IWJ代表・岩上安身が詳しく話をうかがっている。4時間にわたる超ロングインタビューだが、中身は引き締まった非常に重要な内容である。ぜひ、ご覧いただきたい。
広渡氏「『改竄』というより、事実と違うことを書いた部分は『捏造』だ」
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続いて、水上弁護士と同じく公述人を務めた広渡清吾・前日本学術会議会長が、「実際の採決は、(加筆された)議事録のように整然と採決されたわけではない。それは全国民が見ていた」と述べ、議事録の欺瞞を暴いた。
さらに、「実際に委員会室で、どのようなことが生じたかは記録されなければいけない」と話し、「聴取不能で採決ができない状況のなかで、与党はとにかく『採決をした』と主張し、(採決できていないのに)本会議で委員会の報告を行った、というのが事実。国民があとでこの事実を振り返られるようにしなければいけない」と訴えた。
議事録の加筆に対する広渡氏の見方は、水上氏よりも厳しい。
「水上弁護士は『改竄』と柔らかい表現を使われていたが、事実と違うことを書いた部分は『捏造』です。事実でないものを記載したなら『捏造』というのが常識的な評価ではないでしょうか」
また、公聴会を開いておきながら報告会も行わず、公述が採決の参考にされなかったことも踏まえて、「こうしたやり方は、安保法案の成立過程で一貫して示された、極めて不正常な法案を強行するというやり方の一環であると言わざるをえない」と非難した。
安保法制は手続きも無視して「やりたいからやる」という感覚
SEALDsの奥田愛基氏は、「今回の議事録は『法案は可決すべきと決した』としているが、その理由が書かれていない。何によって決められたのか、議事録を見てもわからない」と論じる。
「これは『やりたいからやる』という類に近いと思う。現政権は、『根拠はないが、やめられない』ということをずっとやってきた。海外の邦人保護も、ホルムズ海峡での機雷掃海も、ないことを『ある』といい、憲法上は読めないことを『読める』という。採決の根拠を示してほしいが、根拠は『決めたから』以外にないだろう」
「根拠はないが、やめられない」というのは、政府が集団的自衛権行使の根拠とした「昭和47年政府見解」の読み替え問題が顕著だ。
個別的自衛権を認め、「外国の武力攻撃によって国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底からくつがえされるという急迫、不正の事態に対処し、国民のこれらの権利を守るための止むを得ない措置としてはじめて容認される」と定義し、「集団的自衛権の行使は、憲法上許されないといわざるを得ない」と結んだ政府見解について、安倍政権は、「外国の武力攻撃」が「誰に対して行われるか」が明記されていないと主張。「同盟国への外国の武力攻撃」も自衛権発動の対象になるとの見解を強引に導き出した。
この政府の読み替えは、昭和47年政府見解を作成した吉國一郎・内閣法制局長官(当時)本人が明確に否定しているにも関わらず、安倍政権は聞く耳を持たない。詳細は民主党・小西洋之議員が岩上安身のインタビューでこたえているが、まさに奥田氏のいう、「根拠はないが、やめられない」状態そのものである。
奥田氏は、「このようなかたちで議会を運営するのを許してはいけない」と呼びかけ、こうした議会運営を「憲法上のクーデターに近い」と糾弾する。
「立憲主義や議会制民主主義が壊れてきています。現政権は、本来、歯止めとなる憲法や国会をないがしろにしている。もし国会審議などの正当なプロセスが踏めないのであれば、国会や委員会がなぜ必要なのかという、そもそもの前提が崩れます。安保関連法が可決した以上の問題が、今回の議会運営にはあったと思います」
最後に奥田氏は、「『わかっちゃいるけどやめられない』という体制は、安倍政権が名指して批判している国のあり方に一番近いのではないか」と安倍政権の専制政治を批判した。
採決は「有効」か「無効」か? 議論後にさらなる行動を展開!
参院特別委員会における「採決」の瑕疵を、法的にどう位置づけるか。水上氏によると、委員会採決に何も問題がなかったと考える法律家は少ないが、「問題がある」とみる法律家の中でも、大きくわけて次のふたつの立場に分かれているという。
(1)安保法案の採決の手続きそのものが行われておらず、特別委員会での手続きは「不存在」であるが、その後に参院本会議は行われ、法案は可決・成立したのでそちらは「有効」だ、という考え方。
(2)委員会での採決が「不存在」であれば、本会議での可決・成立も「無効」だとする考え方。
水上氏は今後、さらなる議論を重ね、導き出された結果によって次の行動に訴え出ると語った。
(取材・写真:ぎぎまき 記事:原佑介)
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