落語は現在進行形の話芸である。新作落語というと未だに外道のように思われる方もいるかもしれないが、時代が進んでいくのとおなじように、落語の中の世界も変化していってもいいと思う。逆に落語の舞台を数百年前の江戸だけに限定してしまうのも、考えてみれば可笑しな話だ。
新作落語といっても歴史が深い。かの大名人、三遊亭圓朝が作り上げた「真景累ヶ淵」や「牡丹灯篭」も、明治期にできた当初は<新作>であったのだ。戦争の時代には、柳家金語楼に代表されるような兵隊落語ができ、戦後になってからも、柳亭痴楽による「痴楽綴り方教室」が流行したりもした。他にも、先代の林家正蔵(林家彦六)は平岩弓枝の原作による文芸落語ともいえる「笠と赤い風車」を演じた。
古典といわれている落語にしても、どんどん進化している。新しい感覚が付け加えられ、新しい解釈が考案され、さまざまな形で再生されているのだ。落語の次世代を担う噺家たちが、数多く生まれている。その中から<今きいておくべき>落語を15話選んだ。抜けがあるかもしれないし、偏向しているかもしれない。気に入らないのなら是非、自分の耳できいておくべき落語家を探してみて欲しい。それが一番の落語の愉しみになるはずだ。
柳家喬太郎
柳家喬太郎「夜の慣用句」
今きいておくべき落語家でまず名前が挙がるのが、キョン・キョンこと柳家喬太郎だ。ともかく面白い。客あしらい、自虐ネタ満載のマクラ、そしてズバ抜けた表現力。古典をやらせても実に巧みで、さらには、新作落語の作家としての才能まで持ち得ている。「夜の慣用句」は初期の作品ながら、落語という枠組みから外れていくその瞬間が、とてもスリリングだ。
立川志の輔
立川志の輔「みどりの窓口」
談志亡きあとの立川流の総領。というよりも、すでに志の輔というブランドを確立している。チケットの取りにくい落語家の筆頭であり、パルコで開かれる「志の輔らくご in PARCO」などは瞬時にして売り切れてしまう。話芸に確かさも勿論あるのだが、この人の場合は、構成力、演出力が半端ではない。「みどりの窓口」は初期の名作。清水義範氏の短編小説をベースにして、見事に<志の輔の落語>に作りあがている。
柳家喜多八
柳家喜多八「近日息子」
虚弱な体質をネタにしたり、やる気になさを売り物にしたり、独特の風情をもった噺家だ。この斜に構えた芸風も、裏を返せばこれは桂三木助にも通じる江戸前の気質でもある。新作派ではないのだが独特の解釈があり、オーソドキシーの中に微かな狂気のようなものを感じさせてくれる。「近日息子」は上方系の演目で、初代桂春團治が得意としていたものだ。
川柳川柳
川柳川柳「ジャズ息子」
川柳川柳と書いて「かわやなぎ・せんりゅう」と読ませる。異形の落語家であり、酒のうえでの失敗は数かぎりない。ソンブレロをかぶりギターを片手に「ラ・マラゲーニャ」を歌うという芸で人気博した時期もある。流行歌がめっぽう好きで、これらを題材にした「ガーコン」は代表作のひとつ。この「ジャズ息子」は、ジャズに夢中になる息子と義太夫好きの父親との騒動を描いたもので、第一級の音楽落語である。
快楽亭ブラック(二代目)
2代目快楽亭ブラック「英国密航」
異色という点においては、これ以上の落語家はいない。米国人とのハーフながら、英語はまるで出来ない。立川談志一門に入門し、立川ワシントン、立川フルハムロードなど16回改名しその後、二代目快楽亭ブラックにおさまった。また、日本映画通でもあり「日本映画に愛の鞭とロウソクをーさらば愛しの名画座たち」といった著書もある。持ちネタは、下ネタ、不謹慎ネタが多く、ここでも書くのがはばかられるような演題が多い。その神髄は、ぜひ独演会で堪能していただきたい。
春風亭昇太
春風亭昇太「ストレスの海」
テレビ番組「笑点」の大喜利メンバーとしてもお馴染みの落語家。初期は若さに溢れた新作落語で勝負していた。このあたりも、さすが春風亭柳昇の一門だといえる。「愛犬チャッピー」「悲しみにてやんでい」などの名作を残しているが、近年は<古典とわたし>といった独演会をひらき、古典落語に新たな解釈を与えるという挑戦をしている。と同時に、SWA(創作話芸アソシエーション)に属するなど、多方面で活躍中だ。
三遊亭白鳥
三遊亭白鳥「マキシム・ド・のん兵衛」
とぼけた風貌と高座名との落差が凄まじい。二つ目までは三遊亭新潟を名乗っていたのだが、これは新潟出身であったから。名前からして破天荒なのだが、芸風もまた同じくらいに破天荒。三遊亭圓丈一門だけあり新作を得意としていて、「真夜中の襲名」「任侠流山動物園」などの傑作を残している。春風亭昇太、柳家喬太郎が参加しているSWA(創作話芸アソシエーション)の一員でもある。
柳亭市馬(四代目)
柳亭市馬(四代目)「掛取萬歳」
柳家小さんの門下で、エリート・コースを突き進んでいる。声の張り、江戸前の口調などどれも素晴らしく、正統派の中の正統派だといえる。美声の持主で歌謡曲が大好き。高座で歌い出すことがあるのが、これが欠点といえば欠点。若手と目されていたすでに50歳をこえ、円熟という言葉が似合うようになってきた。「掛取萬歳」は、得意の美声を活かした相撲甚句が聞ける逸品。
桂吉朝
桂吉朝「かぜうどん」
上方落語で忘れてはいけないのが、この桂吉朝だ。語り口の滑らかさ、卓越した落語のセンス、どこをとっても超一流であり、その実力は師匠の桂米朝にも認められていた。上方落語界からの評価も高く、「五代目桂米團治を襲名するのは吉朝だ」と言われいたのだが、2005年に惜しまれつつもこの世を去ってしまった。まことに残念でならない。
桂文枝(六代)
六代 桂文枝(桂三枝)「ゴルフ夜明け前」
若い頃から「パンチDEデート」や「新婚さんいらっしゃい!」などのテレビに出演していたこともあり、タレントが本業ではと思われているかもしれないが、上方の新作落語シーンを塗り替えた革命児でもあったのだ。「ご対面は涙々のポタージュスープ」「大阪レジスタンス」「真心サービスおじんタクシー」など、演題だけでも興味をそそるものが多く、たくさんの新作を残している。2012年に69歳になったことを機に、六代 桂文枝を襲名した。
柳家花緑
柳家花緑「二階ぞめき」
五代目柳家小さんの孫であり、最後の内弟子となった。名門の家に生まれたというプレッシャーもあったはずなのだが、22歳で堂々と真打ちに昇進。これは戦後の最年少記録となった。NHKの外国語講座に出演したり、自身がピアノ演奏をしたCDを出したりもしているが、本領はやはりその端正な落語にある。まだ発展途上のところもあるが、間合いの巧さなどは、やはり血筋としか言いようがない。
古今亭菊之丞
古今亭菊之丞「夢金」
上品な語り口に定評があり、そして女性を描いてピカイチなのが、この古今亭菊之丞だ。志ん生の弟子であった古今亭圓菊の門下。風貌からしても、鯔背な若旦那、もしくは人気の歌舞伎役者のような風情がある。この菊之丞が演じるおかみさんが実に艶っぽい。仕草がきれいなのは、坂東流の日本舞踊を習っているからだろう。
柳家三三
柳家三三「釜泥」
柳家三三と書いて「さんざ」と読む。十代目柳家小三治の愛弟子であり、少し硬派な芸風も師匠譲りだといえる。数々の賞を受賞し、すでにベテランの風格があるが、真打ちに昇進したのは2006年のこと。その若くして老成したような雰囲気が三三の持ち味であり、そして聞きどころにもなっている。国分太一主演の映画『しゃべれどもしゃべれども』では、落語指導と監修をおこなった。
立川談笑(六代目)
六代目立川談笑「イラサリマケー」
異彩ぞろいの立川流において、新作落語の分野で大きく花開いたのが談笑だ。彼の新作はひと味違っていて古典落語がベースになっている。「壺算」が「薄型テレビ算」になったり、「紺屋高尾」を「ジーンズ屋ようこたん」にしたり、途轍もないほどの才能を発揮している。「芝浜」を改作した「シャブ浜」はその過激さ故に、談志師匠から口演の禁止を申し渡されたという。「イラサリマケー」は、「居酒屋」が元になっているのだが、ともかく会話が爆発的に面白い。
立川談春
立川談春「紺屋高尾」
まるで、上手くなるがために落語を続けてきたような男だ。若い頃は、志らくと立川ボーイズを組んで漫談のようなこともやっていたが、真打昇進後は古典ひとすじ。「芝浜」など師匠の談志が得意としていた演目を次々に極め、「包丁」に至っては、談志にして「俺よりうめぇな」と言わしめた。ある意味では、現在の落語界で頂点に立つ男であり、まさに今きいておくべき落語家だ。
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