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起業家がエンジェル投資家から出資してもらうときの注意点を司法書士さんに聞いた

2015.10.08

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(司法書士合同新綜合渋谷事務所 司法書士 松本かずえ氏 取材:Gozal編集部 )

 起業家にとっては自己資金で事業を展開していくだけではなく、外部に株式を発行して資金を調達することも選択肢として有用です。その際に、個人投資家、いわゆるエンジェル投資家から出資してもらうことも有効な方法と言えます。しかし、個人投資家から資金調達することにリスクやデメリットもあると思います。そこで今回は、多くの起業家の創業時のファイナンスを法的にサポートされている、司法書士の松本かずえさんにエンジェル投資家から出資をしてもらう時の注意点を解説してもらいました。




エンジェル投資家とVCとの違いはどんなことがあると思われますか?



 エンジェル投資家と、VC(ベンチャーキャピタル)の最も大きな違いは、エンジェル投資家の中には、ベンチャーへの投資に慣れていない方がたくさんいるということです。エンジェル投資家としての実績がない方でも、投資家として大きな価値を発揮できる方も沢山いらっしゃいます。しかし、投資契約の知識がない方や、ベンチャーへの投資によって得られる利益や報酬について理解していない方もたくさんいらっしゃいます。VCはプロの投資家として業をおこなっているため、多くの場合、ベンチャーへの投資とはどういうことかについて、深く理解されていると思われます。両者にはそのようにベンチャー投資に対する理解度の違いが少なからずあると思います。





エンジェル投資家との関係は、法的にはどのような形式になることが多いのでしょうか?



 非常に色々なパターンがありますし、絶対的にこうした方が良いという契約形態はないと思います。しかし、シンプルに普通株式を発行して、それに対応する金額を出資してもらう形を目指すのがまずは良いのかな、と思います。種類株式や新株予約権付社債などスキームは多様な選択肢があります。しかし、まずは事業に集中して、余計な登記手続きや、資本政策上の論点を増やさない形で進める事がオススメです。その考えに沿って、投資家とのリスクリターンのバランスを考えながら、交付する株式数や、株価を調整していきます。交渉の中で、どうしても種類株式や新株予約権付社債を検討する必要が出たら、そちらのスキームについて検討していくことが必要だというスタンスで良いかと思います。しかし、どのような契約形態で投資家と関係を構築するのか、という話は多様な要素を考慮して決定することですので、自社の状況に応じて判断をすることが求められますね。





個人投資家から資金調達を行う際にはどういった事に注意することが必要だと思われますか?



 第一に、その投資家が自分たちの会社に何を期待して、投資を申し出ているのかを明確にしておきましょう。ビジョンに共感しているのか、お金が余っているかとりあえず投資したいのか、将来のエグジットによるキャピタルゲインを期待しているのか、配当がもらえると誤解しているのか、など投資家によって期待する対象が違うと思います。期待してもらっている事をきちんと理解した上で、話を進めなければ、最終的に「話がちがう!」と契約が破綻する可能性もありますし、最悪の場合には投資後に離反するケースもあります。さらに自社が出資を受けたい理由もかならず、伝えておきましょう。資金が欲しいのか、エンジェル投資家の方のアドバイスや人脈の紹介が欲しいのか、などの根拠を明確にし、本当に有意義な資金調達を一緒に作っていくことが重要だと思います。





エンジェル投資家とのコミュニケーションがうまくできていないと、どんなリスクがあるのでしょうか?



 描いている将来の絵が異なるという状態に陥るリスクがあると思います。つまり、将来どんな会社を目指し、投資家はどのようなリターンを受け取る事ができ、社会にどんなインパクトをあたえるのか、という未来図を共有できず、会社に協力する意思がない株主として残ってしまうということです。ピンチのときに会社を支えることもなく、会社を見放すこともあるかもしれません。会社が成長しているときには株主としての利益を更に増やし、守ろうとする可能性もあります。良い投資家を株主として会社に迎えるための武器である株式が、ムダに使われていること自体が、大きな機会損失と言えるでしょう。そうさせないためにも、事前のコミュニケーションを十分におこなうことが大切です。





エンジェル投資家とのやりとりを適切に進めるためにどういったことを意識すべきか教えてください。



 株主は会社のオーナーであり、成長を共に目指すチームメンバーでもあります。だからこそ、その投資家がチームに加わることで会社として成長が加速するかどうかを考えて、できれば「投資家を選ぶ」ことができれば良いと思います。運転資金が不足していると、お金を出資してくれる人がいれば、どうしても早く出資してもらいたいと気持ちが焦ることもあるとおもいます。しかし、可能な限り自社の成長を加速できる方を選びたいところです。投資家候補の方の評判を周りの方にヒアリングすることや、どのような分野の方と人脈を持っている人なのかなどを確認することも大切です。またそういった情報を入手するためにも、質の良い起業家コミュニティには積極的に顔を出して頂きたいです。





個人の投資家にも色々な方がいます。どういった方に出資してもらうと良いと思われますか?



 会社の成長に、貢献してくださる方に株主になっていただくというのが基本方針になるとおもいます。その方針を実現するために、人脈、業界知識、細かいノウハウ、支援内容などを話しておくことが必要です。とはいえ、まずは世界観に共感してもらえる方を前提にすることが良いと思います。その前提に見合う方で、かつ事業の成長を加速させるための様々な要素を備えている方から出資していただくことが望ましいでしょう。




最後にこれから創業し、資金調達を目指している起業家に総括的なアドバイスをお願い致します。



 資金調達を早く実現させて、事業に集中したいという想いは当然あるとおもいます。しかし、株主は本当に重要な存在ですので、十分に投資家とのコミュニケーションを行うことが重要だと思います。本当にビジョンがある、素晴らしいビジネス・プロダクトであれば資金提供者は数多く候補がいる可能性がたかいはずです。焦って出資を受けず、十分に将来のビジョンを共有し、一緒にその世界を作っていけるように準備して頂ければと思います。