15年7月7日付・夕刊
(7)サッカー したたか 園児にまで食い込む
野球の常識を破るシステムで少年プレーヤーを育てていた高知県内のサッカー。それはサッカー界で「グラスルーツ(草の根)」と呼ぶ施策の一環だ。プロだけでなく、老若男女、障害の有無を問わず、みんなで盛り上げるという考え方。「上手でなくても全員が試合に出場できる」「子どもは出場の場を求めて気持ち良く移籍できる」を掲げ、2050年には選手、観客、スタッフを含めた「サッカーファミリー」を1千万人に増やすと昨年5月、宣言していた。
取材を進めるにつれ「野球の遅れ」を痛感したが、「完敗だ」と確信したのは高知大学サッカー部の取り組みを知った時だった。
高知大学は週2回、「少年少女サッカー教室」を開いていた。月、水曜の午後7時から1時間半。学生が自分たちの練習終了後に指導する。サッカー部は社会人も含めた県内最強チームで、全日本大学選手権にも四国代表で21年連続出場中。野地照樹(てるき)監督(65)は教育者であり、ユニバーシアードの元日本代表監督。さらに、高知県サッカー協会副会長でキッズ委員長も兼ねる。
現役学生選手の指導で、しかも格安(1回当たり125〜375円)だから、積極的な募集もしないのに毎年100人以上が集まる。初心者もいれば、所属チームの練習がない日に、レベルアップのために来る子もいる。スタッフが約30人もいた。
教室が始まったのは2002年。理由は「地域貢献」。その後、ワールドカップ日韓大会の収益を基に日本サッカー協会が始めた「キッズプログラム」の補助金が追い風となって毎年開催。最近では地元スーパーがスポンサーに入り、学生が自分たちで運営。ボランティアに近い報酬で開いている。
だが、もっと驚いたのは、この夜間教室とは別に、サッカー部は高知県内全域の幼稚・保育園へ無料の出張指導もしていたのだ。希望を募り、高知県協会所有のワゴン車で出向く。ボールやゴール、ビブス(敵味方判別用のベスト)も持参する。これも日本協会の補助があり、学生には日当が出る。
「子どもの体と脳が刺激を受けるから、発達に相当いいと思いますよ。中には『週1回、月1回、定期的に来てほしい』という園もある。そういう場合は、学生に謝金を払ってもらうんです」と野地監督。
サッカー部員は教職志望の教育学部生も多い。「学生にとってもいい経験です。教えることの面白さと難しさを肌で知る。教えすぎると型にはまってしまう。個性を生かすのは非常に難しい。教師として、社会人として自立する準備も兼ねているんです」
教育実習も兼ねたような理にかなった幼児の“囲い込み”戦略だった。
◇ ◇
だが、園児たちへのアプローチは、さらに踏み込んだ現実があった。高知市内のジュニア対象のクラブチーム「アスルクラロ」(スペイン語で「水色」)は高知市内の幼・保8園と提携し、課外教室で遊びを中心に教えていた。月4回で1人5400円。8園で合計、約100人。野球がこれまで見向きもしてなかったキッズ普及にサッカーは力を入れていた。
【写真】月、水曜の夜、100人を超す子どもでにぎわう高知大少年少女教室(高知市曙町の高知大学朝倉キャンパス)
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