絶滅近づくクロマグロの“放置”を
国際会議で訴える日本政府の愚かさ


伊藤 悟 (いとう・さとる)  月刊「Wedge」編集部員

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WEDGE REPORT

ビジネスの現場で日々発生しているファクトを、時間軸の長い視点で深く掘り下げて、日本の本質に迫る「WEDGE REPORT」。「現象の羅列」や「安易なランキング」ではなく、個別現象の根底にある流れとは何か、問題の根本はどこにあるのかを読み解きます。

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8月31日から9月3日にかけて、北太平洋のマグロ資源を管理する国際委員会「中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)北小委員会」が開催された。この会議では、絶滅が危惧されている太平洋クロマグロ(以下、クロマグロ)について、緊急ルールの策定を「来年」行うことなどが大筋合意となった。

“官製報道”の違和感

 翌日の新聞報道では、水産庁の遠藤久審議官による「進展があった」等と評価するコメントが掲載され、クロマグロの資源管理が一歩進んだと報じられていた。

 だが、会議に出席した長崎県の壱岐で一本釣り漁師を行う富永友和さんは、「水産庁の大本営発表を鵜呑みにした記事が多くてがっかりした」とため息を漏らす。「今回のWCPFC北小委員会では、クロマグロを減らさないための緊急・予防的な措置が採択されることを期待していたが、来年に先送り、つまり今年は何もしないということに決まり、心から失望した」と落胆する。壱岐ではクロマグロの漁獲が年々困難になっている。

 同じくWCPFC北小委員会に出席した早稲田大学地域・地域間研究機構客員次席研究員の真田康弘氏は「アメリカは2010~12年比で漁獲量を半減した場合、どのように資源回復するかなど、科学者に様々なパターンのシナリオ分析をしてもらおうと提案した。しかし、日本のみが強硬に反対し、『現行規制』と『現行から10%削減』の2パターンのみのシナリオ分析を科学者に依頼することに決定した。とにかく余計なことはしたくない、そんな水産庁の姿勢が際立っていた」と話す。「職業柄、様々な国際会議に参加しているが、ここまでひどい会議はなかなかない」と呆れる。

 真田氏にはWedge Infinityへ緊急寄稿していただいたので、詳しくはこちらを参照していただきたいが、「会議はクロマグロに関して有意味な合意を全く得ることができず、資源管理にまたもや失敗したと言わざるを得ない」と断じている。また、「日本政府を代表して交渉に臨んだ水産庁の担当官の資源管理に対する極めて消極的な姿勢は明白であり、同種の資源に関する過去の教訓、漁業化学、及び関連国際法の諸規定の主旨のいずれにも則していない交渉態度と評価せざるを得ない」と憤りをみせる。

太平洋クロマグロの悲惨な状況

 クロマグロは悲惨な状況に置かれている。資源量は「歴史的最低水準付近」にあり、北大平洋マグロ類国際科学委員会(ISC)は、クロマグロは初期資源量(人間が漁をしていなかった時代の資源量)の3.6%しかいないと報告している。昨年11月には、国際自然保護連合(IUCN)が絶滅危惧種に指定した。クロマグロの資源については、こうした悲観的な情報で溢れている。

 こうした状況にもかかわらず、今回の会議では、日本は「クロマグロの新規加入が減少したとき」に適用される緊急ルールを提案した。すでに激減している状況にあるにもかかわらず、「来年もしまずい状況だったら緊急時のルールを議論しましょう」と言っているのだ。認識が甘すぎると言わざるを得ない。仮に来年ルールが決められたとしても、適用されるのは再来年以降となる。

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