バイナリ畑で心がチクチクした件

「バイナリ畑でつかまえて」という電子書籍のマンガがある。

ITmediaの読者なら知っているだろう。山田胡瓜さんによる、ITを題材にとったマンガだ。これまで21話がITmedia PC USERに連載されたが、電子書籍ではそれをまとめている。


こちらは、その最新話だが、電子書籍となったものとはスタイルが違う。電子書籍版は、普通のコミックのように右上から読んでいくおなじみのフォーマットだが、PC USER版は上から1コマずつ読んでいく、ケータイコミックみたいな形式。だから、電子書籍化するにあたっては大幅に加筆している。

山田胡瓜さんは、かつてITmediaの記者をしていて、いっしょにAR関連の取材をしたりもした、元同僚。ガジェットやテクノロジーが秘めたストーリーを見抜く目は本物だ。

で、どんなストーリーかというと、ぼくらの周りの、話題になったりならなかったりするITガジェット、テクノロジーにまつわる小品。

そのうち、古い携帯電話、テレプレゼンス、AIアバター、クックパッドなどのエピソードは、ぼくと、ぼくの妻にまつわる出来事を思い出させるものだった。

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古い携帯電話。2年前に他界した妻が使っているiPhone 4は回線も含めていまも残している。iMessageでのやりとり、ボイスメールの録音をときどき眺め、再生している。どれもMacに保存はしてあるけど、実際に本人が触れているものにはなにか残っているのだと思う。

テレプレゼンス。抗がん剤の副作用で歩くのが困難になった妻。近所の農家では有機野菜を直販してるのだが、その日その日で売り物が違う。それを見て確かめたい妻のために、Skypeで野菜中継しながら、どれを買うか決めてもらった。

他界する1週間前、友人の個展の様子を、本人がiPhoneからFaceTimeで中継してくれて、それを介護ベッドの上に置いたiPad miniで見て、話をしていた。

妻のがん友。Twitterへの投稿が途絶えたのに気づいたが、尋ねることもできない。その数週間後、訃報を知る。妻の死後、3回目。

クックパッドに残された妻のレシピ。直近2回の結婚記念日にはぼくが、それを見ながら作っている。来週はその3回目。

mixiに残されたむかしの「日記」。黒歴史と思って退会しても、他人の日記への書き込みは「退会されたユーザー」によるコメントとして残っている。妻の日記を読み返して、それを知る。

14,317通のツイート、2つのブログ、mixi日記。2年間の交換日記からAIを生成し、残された歌声からUTAUの歌声データベース、さらにそこから組み立てた会話からOpen JTalkで音響モデルを作り、写真から3Dモデルを構築する。AI以外はいまの技術でもできない話ではないし、実際に途中まではやっている。

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そんなことを思い出しながら、この短篇集を読んでいた。

どれも心をえぐるようなものではなく、あくまでも心をチクチク刺激する21の物語が収められた、「バイナリ畑でつかまえて」。あなたの体験とニアミスするようなエピソードもあるんじゃないかな?