日本の第一三共が開発した、世界4番目の抗凝固薬の飲み薬「エドキサバン(一般名、商品名はリクシアナ、米国ではSAVAYSA)」が今年1月に米国でも承認された。
今回、エドキサバンの有効性と安全性に関する報告がなされた。
エドキサバンが米国で承認
薬の有用性と副作用に関する新しい情報を提供するザ・メディカル・レター誌で2015年3月30日に報告された。有力医学誌ジャマ(JAMA)誌2015年7月号に転載された。
日本の製薬会社、第一三共は、米国で2015年1月に抗凝固薬「エドキサバン」について「非弁膜症性心房細動患者における虚血性脳卒中および全身性塞栓症のリスク低減」および「静脈血栓塞栓症(深部静脈血栓症および肺塞栓症)の治療」の両適応症で、米国食品医薬品局(FDA)より承認を取得した。
簡単に言うとエドキサバンは、血液をサラサラにする薬。専門的には、血の塊によって血管が突然詰まる病気「血栓症」の薬となる。さらに具体的に言うと、血を固める役割をしている「活性化凝固第X因子(FXa)」の働きを邪魔する薬だ。
脳の血管に血の塊が流れて詰まる脳梗塞や肺で詰まる肺塞栓症を防ぐためにこの薬を飲もうという治療になる。心房細動という心臓の動きが悪くなる病気になると、心臓で血の塊ができやすくなる。またいわゆるエコノミークラス症候群と言われるような、じっとしている時間が長くなっても脚の血管で血が固まりやすくなる。
エドキサバンは、1日1回服用する飲み薬。抗凝固薬の飲み薬では4番目に開発された。
ワーファリンの欠点を克服する新薬
50年以上使用されている代表的な抗凝固薬の飲み薬に「ワーファリン」がある。ワーファリンは、その人が食べた物や他に飲んでいる薬との相性によって、効き目に変化が生じる。
そのため、出血の副作用を起こさないで効果を保つために、「INR検査」と呼ばれる定期的な血液検査を行ったり、食事制限をしたりする。他の薬による作用の変化も測定して、細かく服用量の調整をする必要がある。
エドキサバンは、ワーファリンに劣らない効果を発揮しつつ、ワーファリンの欠点を克服する薬として開発された。INR検査が不要で、食事制限も要らず、他に飲んでいる薬に効き目が左右されにくい。
今回は、エドキサバンの効果と安全性に関して行われた、2つの大きな臨床試験の結果がまとめて報告された。
安全に肺塞栓を防ぐ
まずは、世界38カ国における国際共同試験「ホクサイ(Hokusai)-VTE試験」の結果だ。この試験は、痛みのような症状のある深部静脈血栓症、肺塞栓症の8240人を対象として行われた。深部静脈血栓症は、脚をはじめとした場所を流れる血管の中で血が固まる病気。そうした血液の固まりが肺の血管まで流れて詰まる病気が肺塞栓症となる。
抗凝固薬のヘパリンを注射して治療した後、対象者は2つのグループに割り振られ、片方はワーファリン、もう片方はエドキサバンを飲んで治療を続けた。1年間治療を続けた結果を解析して、2つの薬の有効性と安全性を比較検証した。
エドキサバンがワーファリンに劣らず、同程度に血栓症を防ぐ効果があると判明した。静脈血栓塞栓症(VTE)を起こしたのは、エドキサバングループでは3.2%、ワーファリングループでは3.5%だった。
さらに、エドキサバンの方がワーファリンよりも安全性が高いと判明した。副作用である出血を起こした割合は、エドキサバングループでは8.5%、ワーファリングループでは10.3%だった。ワーファリンを飲んだ6人は頭蓋内出血を起こして亡くなったが、エドキサバンでは致死的な出血を起こした人は一人も出なかった。
安全に脳梗塞を防ぐ
次に、世界46カ国における国際共同試験「ENGAGE AF-TIMI 48試験」の結果だ。この試験は、非弁膜症性心房細動の2万1105人を対象として行われた。
対象者はワーファリン、エドキサバンのどちらかのグループに割り振られ、それぞれの薬を飲んで治療を行った。平均2.8年間の経過観察を行った結果を解析して、2つの薬の有効性と安全性を比較検証した。
エドキサバンがワーファリンに劣らず、むしろやや優れた効果を持つと確認された。脳梗塞および全身性塞栓症の年間発症率は、エドキサバンが1.18%、ワーファリンが1.50%だった。このとき飲んだエドキサバンは60mgだった。
ここでもワーファリンよりもエドキサバンの方で安全性が高いと判明した。副作用である出血を起こした年間の割合は、エドキサバンが2.75%、ワーファリンが3.43%だった。頭蓋内出血は、エドキサバンが0.39%でワーファリンが0.85%、心臓血管病による死亡はエドキサバンが2.74%でワーファリンが3.17%だった。
ただし、腎障害がある人では、虚血性脳卒中の発症率がワーファリンで0.4%だったのに対し、エドキサバンで0.9%と高かった。
主な副作用は出血
エドキサバンで注意したい副作用は「出血」だ。
エドキサバンは飲んでから24時間効き目が続くだけに出血のリスクに用心したい。抗凝固作用がいったん発揮されると、解除するような薬は今のところ存在しない。透析しても薬の効果を除けない。
脊髄くも膜下麻酔、硬膜外麻酔、骨髄穿刺のためにエドキサバンを使用した場合、まひにつながる硬膜外血腫、脊髄血腫が起こる可能性がある。
妊婦には使用しない
エドキサバンは、FDAの胎児危険度分類でカテゴリーCに属する。カテゴリーCは、動物実験で胎児への有害作用が証明されていて、妊婦では検証が行われていないもの。原則的に使われることはなさそうだ。
飲み合わせの悪い薬
アスピリン、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)など、血を止まりづらくする薬との併用は、出血リスクの増加につながる。
エドキサバンは、Pグリコプロテイン(P-gp)の作用を受ける薬。P-gpを体内で増やすような薬と併用してはいけない。例えば、結核の薬「リファンピン」が当たはまる。しかもP-gpの作用を邪魔する薬も飲んではいけない。エドキサバンが代謝されず、血中濃度が上がるからだ。
米国から欧州へと広がる
結論として、エドキサバンの効果はワーファリンに劣らず、安全性はワーファリンより高いと証明された。ただし、腎障害がある人では、血中のエドキサバン濃度が高くなるため、注意が必要だ。
エドキサバンは、2015年6月に欧州でも承認が取得され、現在日、米、欧州で販売、使用されている。
エドキサバンの名称の頭にある「エド」は、第一三共葛西研究開発センターがある江戸川区の江戸から取ったとのこと。効果を検証した研究の通称であるホクサイ試験のホクサイは、芸術好きのオランダの医者が浮世絵師である葛飾北斎にちなんで名付けたという。薬も欧米から支持されるか。
文献情報
Edoxaban (Savaysa)–The Fourth New Oral Anticoagulant. JAMA. 2015;314:76-7.
https://jama.jamanetwork.com/article.aspx?articleid=2382976
http://secure.medicalletter.org/w1465a
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