​『マッドマックス 怒りのデス・ロード』 そして神輿が走りだす

「ヒャッハー!」と思わず雄叫びをあげたくなるような、ハイテンションの映画『マッドマックス 怒りのデス・ロード』。血湧き肉躍る本作の魅力はどこにあるのか? ブロガーの伊藤聡さんが、読み解きます。

79年公開の『マッドマックス』以降、『マッドマックス2』(’81)『マッドマックス/サンダードーム』(’85)と製作された3本のシリーズに続いて、30年ぶりの新作として発表されたのが、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』である。

見渡す限りの砂漠という不毛な土地に、絶対的な支配者として君臨する男、イモータン・ジョー。ある日、イモータンに虐げられていた女性たちがいっせいに脱走するという事件が起こる。主人公マックス・ロカタンスキーは、あるきっかけから否応なしに彼女たちの脱走へ加わることとなる、というあらすじ。核戦争後の荒廃した世界という設定にくわえ、登場人物たちの奇抜なファッション、過剰にデコラティブな改造を施された車輌を用いたカーチェイスといったビジュアルのユニークさが前面に押しだされた新作は、過去作の方向性を踏まえつつ、さらに発展させたものだといえる。アクションシーンの迫力、徹底してこだわり抜いたデザインの新鮮さなど、シリーズ最高傑作と呼ぶにふさわしい内容だ。

「たくさんの車が、荒野を走りながら争う」というひとことで、この映画は説明がついてしまいそうである。砂ぼこりを上げながら激しく前進する数多くの車が、終始スクリーンに写しだされる映画。ゆえに作品を見終えた観客は、まずはそのシンプルさに圧倒されるほかない。120分の上映時間に充満する、アドレナリンの爆発するようなスリルは、「猛スピードで車が走る」というひとつの単純な運動によってもたらされる。さまざまな映画で無数に繰りかえされてきた動きに、これほどのポテンシャルが潜んでいたのかと、その意外性に唖然としてしまうのである。

たいていのアクション映画にはカーチェイスの場面が用意されているが、観客がどれほど危険な信号無視や逆走を目にしてもさほど驚かなくなって久しい。しかし『マッドマックス 怒りのデス・ロード』で、女性グループの逃亡を企図した中心人物フュリオサが、巨大トラック「ウォー・タンク」のハンドルを握り、アクセルを踏み込むとき、疾走する車はまさしくスペクタクルそのものと化す。なぜ、この映画で車が走る場面は、これほど真に迫るのか。監督のジョージ・ミラーはいったいどのようにして、失われて久しいカーチェイスのスペクタクルを復活させたのか。本作いちばんの謎である。われわれ観客は、馬や列車、車、バイク、飛行機から宇宙船にいたるまで、さまざまな乗り物が動く映画を何度となく見てきたのではなかったか?

映画をさらに推進させるのは、登場人物たちのエネルギーの爆発に呼応したかのように、過剰な改造を重ねてパワーアップした車輌の数々である。資源の不足した核戦争後の世界では、旧世界のスクラップや残骸をつなぎあわせて車を作るほかない。そのため劇中に登場するどの車も、無数の部品を脈絡なく流用しながら強引に組み立てられる。その結果、車はあたかも神輿や山車をおもわせる異形の移動型モニュメントとなって、画面内を縦横無尽に躍動することとなる。

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sigekun 今週ずっとマッドマックスという車に後ろから煽られてる感あるwww >『マッドマックス 怒りのデス・ロード』 そして神輿が走りだす|およそ120分の祝祭 最新映画レビュー|伊藤聡 https://t.co/yyVrGxACqe 約5時間前 replyretweetfavorite

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