朝井リョウがいま輝いている3つの理由
平成生まれの直木賞作家!
2010年、大学在学中に『桐島、部活やめるってよ』でデビュー。13年には『何者』で直木賞を、男性作家として最年少で受賞! 快進撃を続ける「若き巨匠」です。
等身大で時代を描く!
スクールカースト、就活など、時代性の高いテーマに鋭く切り込み、同世代から、また周辺世代からも、「次に何を書くのか?」と期待が寄せられています。
この春、ついに大きな決断を。
大学卒業後、3年と1ヵ月勤務した会社を退職。いよいよ執筆活動に専念か、と思いきや、そこにはある事情と心情が……くわしくは、インタビューで!
アイドルを描いたふたつの「理由」
—— 最新刊の『武道館』、一気に読み終えました。
朝井リョウ(以下、朝井) ありがとうございます。
—— 主人公の属するアイドルグループが夢の坂道を駆け上がっていく物語でありながら、彼女たちの置かれた現実を克明に、かつ冷静に見つめておられたと思います。
朝井 アイドルを主人公にしたのには、理由がふたつあって、ひとつは、時代を象徴しているものをここでもう一度書きたかったから、です。これまで10冊の本を出してきたんですが、中でも、高校生が主人公の『桐島、部活やめるってよ』と、就活生の物語『何者』が、すごく反響が大きかったんです。
自分ではそこを強調して書いたつもりはなかったんですが、それぞれ「スクールカーストを書いた」「若い世代の厳しい就活の現状を描いた」と言われたんですよね。想像よりも、現代を生きる若者が現代的なものをどう捉えているか、ということに注目してくださる方が多いんだなと感じました。『何者』を書いてから3年近く経って、ものすごい早さで世の中が変わっていく中で、もう一度、前の2作品のように、私が現代的なテーマで書くとしたら何だろう? そう考えたときに浮かび上がってきたのが、「アイドル」だったんです。
—— 「アイドルは時代の“異物”である」という位置づけをなさっていますね。
朝井 はい。よく、外国の映画なんかで、宇宙人とか、地球外生命体みたいな異物がやってきて、それによって現実の人々の思想が浮き彫りになる、というような話がありますが、現代の日本人にとって、その宇宙人的な異物にあたるのが、アイドルなんじゃないかと思って。
たとえば、CDを買ったぶんだけ握手ができるというような、それまでいなかった存在が姿を表すことによって、ものすごく熱狂する人がいるし、一方では、「そんな売り方おかしい! アイドルは音楽業界を潰す癌だ」と強烈に批判する人も現れる。その過剰な反応を社会学者が論じ始めたりする状況を見ていて、ああ、彼女たちはあらゆる人にとっての異物だったんだろうなぁと思ったんですよね。そうした「異物」への一般大衆の反応を事細かに描けば、現代特有の精神性みたいなものが浮き彫りになるのではないか……というのが、ひとつめの理由です。
—— なるほど。雑誌の特集や新書でも、ファンを公言する学者もいました。
朝井 もうひとつは、僕がもともと、つんく♂さんのファンだったこと。アイドルには「恋愛しちゃいけない」という暗黙の了解のようなものがありますが、つんく♂さんは以前から、いろんな歌の歌詞で、女の子が持っている性欲みたいなものをすごく普通に語っているんですよね。そういうところから、すごくアイドルに対して、責任を持って歌を作られている方なんだというイメージを抱いていて、大好きなんです。
—— 責任を?
朝井 ええ。「今はアイドルだけど、そのあとの人生もすごく長いんだよ」というようなことを、いろんな歌詞に染み込ませている気がするんです。そんな歌を提供することで、アイドル自身に、自分がアイドルじゃなくなったあとの人生を想像できるようにしてあげているんじゃないだろうかと思っていたんです。
少し前に「モーニング娘。」のOGたちが集まって「ドリームモーニング娘。」を結成して活動していたんですが(2011~13年)、OGたちの中には、恋愛スキャンダルでバッシングされたり、強制的に脱退させられた人もいたわけですよね。その彼女たちが、結婚して子どもを産んで、人としての欲望や幸せを叶えてステージに帰ってきたとき、ファンが変わらずに熱狂し、声援を送っていたんですよ。その様子を見たとき、ある種、アイドルの「解放」のようなものを感じて……。人間とアイドルの両立というか。それを小説にできたらいいなぁと思ったのが、ふたつめの理由です。
「タブー」と「理想」の間で
—— 実際に作中では、最大のタブーである「アイドルの恋愛」に踏み込まれています。
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