2015年6月20日05時02分
神戸市の連続児童殺傷事件の加害男性(32)=事件当時14歳=が書いた手記「絶歌」が、ベストセラーになっている。遺族は出版中止と回収を求めたが、出版社は「社会的な意味がある」として増刷を決めた。表現の自由と遺族への配慮を巡り、書店や図書館は対応に頭を悩ませている。
■出版社は増刷、遺族は回収求め反発
版元の太田出版は初版の10万部に加えて17日、5万部の増刷を決めた。増刷分は、早ければ26日にも書店に並ぶ予定。岡聡社長によると、同社には抗議の電話が続いているが、「出版する意義があった」と肯定的な意見も寄せられ始めたという。岡社長は「元少年の原稿を読んだ上で、出版社としては、非難を引き受ける覚悟で世に出した。その気持ちは変わらないが、一方で、結果的にご遺族を傷つけたことは重く受け止めている」と話す。
17日には、ホームページに「加害者の考えをさらけ出すことには深刻な少年犯罪を考える上で大きな社会的意味があると考え、最終的に出版に踏み切りました」とするメッセージを掲載。回収を求める遺族の申入書に対しても同様に、出版の意義を説明する回答を送ったという。
殺害された土師(はせ)淳君(当時11)の父・守さん(59)は突然の手記出版に反発。今月12日には、太田出版に手記の回収を求める申入書を送った。土師さんは「最愛の子が殺害された際の状況について、18年を経過した後に改めて広く公表されることなど望んでいない」とし、「精神的苦痛は甚だしく、改めて重篤な二次被害を被る結果となっている」と訴えた。「(事件は)極めて特異で残虐性の高い事案」とし、経緯などを公開することが「少年事件を一般的に考察するうえで益するところがあるとは考えがたい」とも指摘。加害者による手記などの出版は「被害者側に配慮すべきであり、被害者の承諾を得るべきである」とした。
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