動き出したEC業界再編の流れ - 大規模買収・提携でEC業界地図はどのように塗り替わるのか
歴史がそれほど長くないEC業界では、新しいサービスが市場を賑わせることで活性化が続いていたが、ここ最近比較的大型の買収・提携の話題が業界を賑わせている。徐々に市場に成熟感が漂い出し、新規サービスが革命的に市場を席巻することが難しくなってきたこともあり、事業拡大を短期間で加速するためには、買収・提携という選択肢が有効になりつつあるようだ。今回はここ最近の主な買収・提携の動きとその意図を探っていく。
アラタナ
アラタナはECパッケージやコンサル等のサービスを提供する、宮崎発のITベンチャー企業だ。
「宮崎に1000人の雇用をつくる」というビジョンを掲げて2007年に設立され、現在は社員数100名以上の企業へと規模を拡大させた。ECサイトの構築から運営までをワンストップでサポートする「CAGOLAB」、商品ページやバナー向けのデザインツール「SketchPage」、EC専門のコンサルティング「ECコンサル」など多様なサービスを提供している。2013年9月にはNTTドコモ・ベンチャーズ、リブセンス、ジャフコなどから総額約5.5億円の資金調達を行い、同年10月には国内最大級のファッションウェブマガジン「honeyee.com」を運営するハニカムをグループ化するなど、ECとメディアの連携にも力を入れている。また2014年6月にはセキュリティ診断やソリューションを提供している「ゲヒルン」、商品撮影や物流などのフルフィルメント業務や小売販売を行う「ターミナル」の2社も子会社化することによって、より戦略的なECに特化した企業として成長してきた。
そんな中、今年3月「ZOZOTOWN」を運営するスタートトゥデイが、アラタナの全株式を取得し完全子会社化した。スタートトゥデイはZOZOTOWNなどのEC事業に生かすため、「ECに特化したテクノロジーとサポート力によるECソリューション」を持ったアラタナを必要としたようだ。アラタナの2014年4月期の売上高は5億7,800万円、純利益は5百万円の赤字となっており安定した経営状態とは言い難いが、国内で800以上のECサイトを構築した実績を評価されての買収だろう。またスタートトゥデイも千葉に拠点を置く企業であり、地域貢献への思いが重なった結果でもあるようだ。
スタートトゥデイは2013年7月にも、ECサイト作成サービス「STORES.jp」を運営するブラケットを子会社化している。また2014年7月には電子雑誌「マガストア」を主力サービスとするヤッパも子会社化しており、一連の買収によってECサイト運営のノウハウやテクノロジーをより強化した形となる。
ルクサ
ルクサは、ブランドコスメなどの商品やクルージングといった「贅沢体験」を最大90%オフで購入できるタイムセールECサイト「LUXA」を運営している。
LUXAの商品ページには商品価格や商品の写真・詳細とともに、通常価格・割引額・割引率・残り時間のカウントダウンが表示される。「GROUPON」のような共同購入の形は取っておらず、バイヤーが厳選した商品やサービスを時間限定・数量限定で購入できるタイムセールサイトとして運営されている。LUXAで販売を行う企業や店舗側は、販売数に応じて広告費を支払う「成果報酬方式」によって効率的にプロモーションを行うことができる上、より良いプロモーション効果を得るためにルクサのコンサルタントが販売プランを提案してくれる仕組みだ。2010年8月にビズリーチの事業の一環としてサービスを開始し、同年11月には事業譲渡を受けて株式会社化した。当初は飲食店や美容施設の利用チケットを1日に1つだけ提供していたが、現在は家電や食品・コスメといった幅広い商品も多数取り扱う「高級志向のタイムセールサイト」として独自のポジションを確立している。
ルクサは先月、KDDIが発行済株式を取得することによってKDDIの連結子会社となることを発表した。2013年9月にはグローバル・ブレインと共同で運営するベンチャーキャピタル「KDDI Open Innovation Fund」を通じてKDDIから3.3億円の出資を受けており、かねてからの業務提携の流れが実現した形だ。
KDDIは食品・日用品から体験型商品などの「日々の生活に役立ついいもの」を提案し、通信料金やau WALLETで購入できる新サービス「au WALLET Market」の開始を今年夏に控えている。ルクサ買収の目的は、全国各地の厳選商品を提案・提供できるルクサの経験豊富なバイヤーのノウハウを獲得するためだろう。 au WALLET Marketはauショップとオンラインの両方で商品提案を行う予定だが、ECサイトでの運営をルクサと協業で行なう予定だ。
千趣会
千趣会は「ベルメゾン」のブランドを中心としてEC事業を展開する大手通信販売会社だ。
千趣会の歴史は長く、1954年にこけし頒布会を行った「味楽会」が前身となっている。翌年の1955年に株式会社千趣会を設立して料理雑誌の刊行などを行い、1976年にはカタログ「ベルメゾン」を創刊。その後長らくカタログ事業を展開し、1990年に東京・大阪証券取引所第一部上場、2000年にはECサイト「ベルメゾンネット」をオープンさせた。企業ビジョンとして「ウーマン スマイル カンパニー」を掲げ、徹底した女性目線でニーズの分析を行い、生活用品や衣料品・家具などを企画販売している。千趣会の2014年度のEC事業での売り上げ高は831億円で、通信販売事業全体の売上の6割以上を占めている。三年連続で発行部数を減らしているカタログからの販売売上の縮小を、EC事業が支えている状況だ。実際に2014年から2018年までの中長期経営計画では、ブライベートブランドの企画の他にもオムニチャネル化の推進、物流・ITシステムへの投資などを中核戦略としており、更にECに力を入れた経営になることが期待される。
先月、大丸松坂屋百貨店やパルコなどの持ち株会社であるJ.フロント リテイリングが千趣会の発行済株式総数のうち 22.62%を取得し、関連子会社化することを発表した。現在、J.フロント リテイリングはかつての大丸大阪の通信販売部門を起源とする「JFR オンライン」を所有し、大丸松坂屋の商品をカタログとECで販売している。また、オフィス用品などの業務用消耗品を取り扱う連結子会社フォレストウェイでも大丸松坂屋のお中元などを販売を行っている。今回の買収によって更にECのノウハウやリソースを強化した形だ。
J.フロント リテイリングは、2014年から2016年までの中期経営計画のひとつとして「リアル店舗の強みを活か したオムニチャネル・リテイリングの推進」を掲げている。同じく「オムニチャネル化の推進」や「物流・ITシステムへの投資」を中長期戦略として掲げてい る千趣会と業務提携を行うことによって、より効率的にシェア拡大や事業展開、オムニチャネル化の推進を進められるだろう。
大規模買収・提携でEC業界地図はどのように塗り替わるのか
企業がEC関連事業に着手するためには商品選定などのマーチャンダイジングや集客と売上を上げていくためのマーケティングだけでなく、ITインフラやWeb技術などのテクノロジー、受発注や物流といったバックヤード業務など様々なノウハウが必要となってくる。そのためECに軸足を置いて事業を行ってきている企業を買収することで、足りないパーツを埋めていくことができる。また特に大企業においては経営層への安心感の訴求にも繋がることが想定される。
また逆に買収される側の企業は、現状のサービスや市場に閉塞感を感じていたり、ドラスティックな改革が必要だと感じているケースが多いのではないだろうか。特に大企業のブランドを掲げて営業活動を行ったり、その企業からの案件が定期的に流れていくことは既存の体制にも活力を与えるだろう。
特にトレンドの移り変わりが激しいこのEC業界において、相互の技術・ノウハウ・ブランドを補完しあうことができる買収提携の流れはさらに加速していくのではないだろうか。
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