コンサルタント出身者が起業をするときに考えておきたいこと


by 川鍋一朗 (経営者)


私は以前、マッキンゼーで戦略コンサルタントをやっていました。しかし、実際に自分で会社を経営してみると、会社経営はクライアント企業をコンサルティングするのとは全然違うということに気付かされました。

事業に関して口だけ出すのを1としたら、実行するのは10ぐらいで、実行し続けるのが100ぐらい、ということをユニ・チャーム社長の高原豪久さんがおっしゃっていました。まさにその通りだったのです。

そこで、コンサルタント出身者が、起業をしたり、会社経営をするときに、考えておいたほうがいいことを紹介します。

コンサルと事業では、時間感覚が違うことを知っておく


コンサルタントは頭の体操のように、物事をロジックにあわせてぱっぱっと進めていきます。

しかし、実際の事業は、自分一人では何も実現できません。社員、お客様、株主など、ステークホルダーたちに納得・理解してもらわなければいけないのです。良いサービスでも世の中に出すまでにも時間がかかりますし、出したあとでも、世の中に受け入れられるのには時間がかかります。コンサルタントが考えている時間感覚とはまったく別の時間の流れがそこにはあります。

コンサルタントは自分の頭の中の組み立てで、「あるべき姿」を追求しています。しかも、コンサルタントが関わるプロジェクトは大体3カ月ぐらいなので、その期間で結果を出すように設計されている。つまりコンサルタントには、事業を立ち上げてからお客様が実際に使って、リピーターになって、それが口コミで広がって…ということに半年や1年も時間がかかるという肌感覚が乏しい人が多いのです。

ロジックではすぐに組み立てられるので「こうすればいい」というものを考えることはできますが、実際にやるとなると全く別の話になります。コンサルタントをやっていると提案したあとに物事が動かないと「何をグズグズやっているんだ」という考えを持ってしまうこともあるかもしれませんが、頭で考えたようには進まないことは知っておいたほうがいいでしょう。

命綱をつけて山を登るのが大事


2つ目は、「命綱をつけて山を登ったほうがいい」ということです。

コンサルタントは、頭の中だけで事業が成功するイメージを作れてしまいます。なので、すぐに会社を辞めて、すべてを費やそうと考えてしまうかもしれません。

しかし、実際にやってみると、競合もいますし市場環境も考えていたときと変わります。だから事業は、何が起きても生き延びられる設計にしておかないといけないと僕は考えています。

僕のマッキンゼー時代の後輩で、起業して成功している柴田陽という人間がいるのですが、彼の起業パターンは、コンサルタント出身者はもちろん、これから起業する人の参考になるのでご紹介します。

彼はフィールドマネージメントという会社で、コンサルタントとして働きながら、Spotlightという会社を立ち上げました。つまり、起業しながらコンサルタントの仕事もして、自分の給料はある程度確保していたのです(フィールドマネージメント代表の並木裕太さんが、起業にサポーティブだったという前提もありますが)。

彼は起業について、「命綱をつけないで山登るのはおかしいですよね?」という表現をしていました。つまり、起業するからといって、会社を辞めて新しい会社にすべてを費やすのではなく、ある程度のリスクヘッジをしておくべき、と言っているのです。

その考え方は、起業して生き残っていくうえで大事だと思います。いくらインターネット事業といっても、事業が軌道にのるまでにはある程度の時間的猶予があった方がいいのです。

自分の起業した会社が生き延びるチャンスを増やすためにも、最初から退路を断って(会社を辞めて)月給ゼロで食いつなぐよりも、10万円でも20万円でもレベニューソース(収入源)を別に維持して、命綱としてとっておくのは大いにありだと思うのです。

インターネット業界で起業しようという意思をもっている人であれば、なんとか生き延びられるだけの請け負える仕事が何かあるはずです。自分の夢にストイックに、純愛主義みたいになってしまい「副業をやっているから成功しない」なんて言う方がいるかもしれませんが、そんなことは決してありません。

もちろん失敗しないのが大前提でなければいけませんが、万一、2、3回事業が失敗してもなんとか生き延びられるだけの、別の収入源を確保しておくことも大事なのではないかと正直思うのです。

やはりスタートアップは生き残ってなんぼです。ビジネスモデルも何度変わってもいいんです。死んでしまったらそこで終わりですから。

コンサルタントを経験しているメリット


もちろん僕は、コンサルタント自体を否定しているわけではありません。頭で考えてばかりで、現実離れしてしまうのはマイナスですが、物事をある程度ロジカルに考える姿勢を学ぶという点では、コンサルタントの仕事は頭の体操や物事を整理する力が身につきます。

僕個人の話でいえば、コンサルタントは、プロフェッショナリズムというものを持っています。プロとしてきちっとやらなければいけない、成果を出さなければいけない、そういう感覚が身につくのです。僕自身、3年間マッキンゼーにいて、コンサルティングのツールやスキルセットはもちろんですが、何よりも、プロは自分が引き受けた以上はたとえフィーが変わらなくても自分の最大の結果をお届けする責任がある、ということを学びました。

そういった経験を生かしつつ、この記事でポイントをおさえて起業するといいのではないかと考えています。


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