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 朝日新聞デジタルでのアンケートや、ロボット取材班が5月に試みた公開編集会議では、ロボットのいる暮らしへの期待や不安の声が寄せられました。ロボットを活用する試みは、すでに様々な分野に広がっています。その現場を訪ねてみました。触れあいは、人間の側にも変化をもたらすことがあるようです。

■かえって気楽に話せる

 アンケートでロボットに「任せたい」が多かったのは、介護です。病気で言語障害を来した妻が発声練習を繰り返して改善したという70代男性は「話を持続してもらいたい」とロボットに期待を寄せました。すでに導入している施設を訪ねました。

 神奈川県中井町の特別養護老人ホーム「中井富士白苑(なかいふじしろえん)」では、2014年4月から、富士ソフト(横浜市)が開発したロボット「パルロ」3体を、レクリエーション時の司会や入浴を待つ間の話し相手などに活用しています=写真、日吉健吾撮影。

 高さ40センチ、重さ1.6キロ。100人以上の顔と名前を覚えて「○○さん、もうすぐ誕生日ですね」と話しかけます。歌や踊り、体操、クイズを通じて心身の機能低下を防ぐ役割も担います。会話でわからなかった単語はインターネットから学習する機能も。

 「介護は人の手で」との教育を受けてきた現場スタッフの間には当初、抵抗感が強かったそうです。むしろ「歓迎」したのは入居者やデイサービスの利用者でした。

 相手の言うことがうまく聞き取れない高齢者は、会話を遠慮しがち。「ロボットだとかえって気楽に話せる、と言われました」と稲生純也施設長。顔認識のために首を回し正対して話をするので、不安になりがちな認知症の人に落ち着きが戻る例も相次いだと言います。

 「感情を伴う人と人との関係は、安らぎと同時に緊張感も生むものです。ロボットが間に入ることで場の雰囲気が変わり、会話が増えることで高齢者の社会性も保たれる」。パルロに触りたがる利用者が多いので、頭をなでると顔にあたる画面にハートが浮かび、笑い声を出すように改良もしてもらいました。

 ただ、「入居者の方々が歩んできた80年、90年の人生の背景を理解し、どんなことを望んでいるかを考えるのは人間の仕事。ロボットで何ができるか、スタッフ全員で考えることが不可欠」だそうです。

 全国の介護施設で使われているパルロは約250体。1体につき、月3万円でのレンタルが主流です。富士ソフトは、約150の大学や研究所と提携して、商業や教育への応用を模索しています。

 また、パルロが知らないことを学習するために接続するサーバーには、反社会的な情報を入れないようにし、ロボットが人間に悪さをしないような工夫も講じています。

 ロボット事業担当の本田英二執行役員は、こうしたコミュニケーション型ロボットが「今後5~10年で急速に普及するのでは」と話します。(高橋万見子)

■介護の現場で力仕事

 アンケートには「長時間の重労働から介護職員が解放されると、温かな思いやりを示す心の余裕が生まれる」(40代女性)などの意見もありました。「i―PAL」は介護職員の負担軽減を目指しつくられました。要介護者をベッドから車椅子へ、車椅子からトイレの便座へ。抱えて移す作業を補助します。

 車椅子に座り、試しました。機械の腕が前からわきの下に入り、体を前方に引き上げてくれます=写真。「大柄の男性だと2人がかりだったのが、1人でも安心してできます」。試験導入した特別養護老人ホーム、岐阜県立寿楽苑(じゅらくえん)の沼波百里(ぬなみももよ)さんは言います。開発を担当した今仙技術研究所(岐阜県各務原市)の佐藤雅之さんは「人の立ち上がりと同じ動きをさせるのが大変でした」。

 大阪市のベンチャー企業、RT.ワークスが7月に売り出す電動歩行アシストカートは、見た目はお年寄りが歩行補助につかう買い物カートですが、センサーと電動モーターを備えています。上り坂では楽に押せて、下り坂ではブレーキがかかり、無線通信で居場所もわかります。社長の河野誠さんは「使ううちに歩く距離や速さが増した、といったデータが集まってきています」。

 東京都大田区にある介護老人保健施設、アクア東糀谷は昨秋から歩行リハビリに使っています。93歳の女性は「杖で歩くと不安定でしょ。これは、ぐらつかずに歩けるのがいいわ」。施設を運営する社会福祉法人「善光会」は介護ロボット研究室を設け、ロボット開発に現場の声を反映させようとしています。(田中郁也)

■ホテルでお出迎え

 主な従業員はロボットというホテルが誕生します。

 ハウステンボス(長崎県佐世保市)が今年7月に敷地内で開業する、その名も「変なホテル」。技術の発達に合わせ仕様を進化させる意味を込めたそうです。人件費・光熱費・建設費を大幅に下げ、新しい「スマートホテル」として海外展開をにらみます。

 第1期として営業を始めるのは72室。チェックイン時にはフロントで3体の接客ロボットが対応します。人間の女性そっくりなロボット=写真=など複数のタイプを用意し、お客さんが選べるようにしました。

 型どおりのやりとり以外は難しいため、不測の事態をできるだけ減らす必要があります。フロント業務で多いのが鍵のトラブル。このため、顔認識だけで部屋を出入りできるようにしました。

 部屋にも小型ロボットがいて、話しかけると照明のオン・オフやモーニングコールのセットなどをしてくれます。ホテル入り口近くに設けたロッカーでは、工場などで使う大型アーム型ロボットが手荷物をさばき、部屋へ荷物を運ぶポーターや掃除もロボットがやります。

 私たちロボット取材班が5月に試みた公開編集会議では「雇用をロボットに奪われるのでは」との懸念が参加者から出ました。実際、このホテルの人間の従業員は10人程度。安全管理や企画が主な仕事で、客周りはほとんどロボットの役割です。

 「マイクロソフトやグーグルを見てください。コンピューターだけが動いている会社でしょうか? むしろ、世界で何万人もの雇用を生んでいます」と沢田秀雄社長。ハウステンボスでも、スマートホテル事業を別会社化するなどして、これまでホテル経営とは関係の薄かった、工学の知識やシステム管理にたけた人材を集めることを検討中と言います。

 ただし、規則的で単純な労働は「ロボットのほうが正確で安上がり」という時代が来そうです。人間は何をするのか。教育も見据えた議論が必要かもしれません。(高橋万見子)

■「マツコロイド」が出演

 日本テレビ系が土曜深夜に放送する「マツコとマツコ」は、マツコ・デラックスさんと、等身大アンドロイドの「マツコロイド」が出演するバラエティー番組です。

 アンドロイド研究の第一人者、石黒浩・大阪大学教授がつくったマツコロイドを遠隔操作して一般の人と交流したり相談相手になったり。その場の人々の反応を通じ、面白さの中に「人間とは何か」「コミュニケーションとは何か」を探るのが狙いだと吉無田(よしむた)剛プロデューサーは話します。

 マツコさんという個性あっての企画ですが、番組内での様々な実験を通じ、マツコロイドも独立した人格として人気を集め始めているそうです。「ほかのタレントさんたちが『マツコさんてさあ』と語るときも、本人の前では言いにくいことが、マツコロイドの前だと言える。ロボットを介することで、自分の考えを客観的にとらえ言葉にできる」と語るのは、番組の裏方を務める電通社員の一人。

 同社はロボットのもつコミュニケーション力に着目、社内に「ロボット推進センター」をつくりビジネス展開を模索しています。2013年にはトヨタ自動車などと共同で国際宇宙ステーション(ISS)に小型ロボット「キロボ」を送りました。宇宙飛行士・若田光一さんの話し相手になり、特異な環境下での作業ストレス解消や集中力アップなどへの影響を探りました。石黒研究室との連携も、こうした試みの一つ。ロボットのタレント「デジタレ」を開発していくといいます。(高橋万見子)