イベントレポート
Location Business Japan 2015
ビーコン導入で人流解析などに効果あり――名古屋PARCO、武蔵小杉、東京ドームのビール販売員の事例
(2015/6/15 13:48)
6月10日から12日まで幕張メッセで開催された「Location Business Japan(LBJ) 2015」では、展示会のほかにもさまざまな企業や団体によるセミナーや講演が行われた。今年のLBJは、併催イベント「Interop Tokyo 2015」と同様にIoT関連の話題が多く、中でも多かったのが、位置情報を収集したり、位置情報に基づいてサービスやコンテンツを提供したりするためのBLEビーコンに関連した発表だ。
名古屋PARCOの実証実験をもとにロケーション・マーケティングを展開
基調講演では12日、株式会社パルコ・シティ代表取締役社長の川P賢二氏が「Beaconを活用した人流解析が示すロケーション・マーケティングの可能性」と題した講演を行った。パルコ・シティは2014年7月と10月に、株式会社エンプライズおよび慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科(慶應SDM)の神武直彦准教授の研究室と共同で、名古屋PARCOにてBLEビーコンを350個設置し、人流解析の実証実験を実施した(本誌2014年8月14日付記事『iBeaconで人流解析、名古屋PARCOに300個のビーコン発信機』を参照)。
川瀬氏の発表によると、名古屋PARCOにおいて8〜9月に大掛かりなショップの入れ替えを行い、改装前と改装後の人流を比較したところ、ショップを入れ替えることによって確かに人流が変化したことが確認できたという。例えばエスカレーターを降りた地点から右・左・直進の3方向の人流を解析したところ、改装前は右方向への人の流れが弱かったのが、改装後は意図した通り3方向に流れる人の数をほぼ同じに平準化することができた。「平準化したことを、目視ではなくきちんとデータで確認できたことが大きかった」と川瀬氏は語る。
このほか、屋内での滞留ポイントや滞留時間などについても明らかになったとともに、ある部分の供用通路で長く滞留する傾向があることにも根拠を見出すことができた。さらに、上下階への移動や垂直回遊の状況も分かった。今回はA・B・Cの3館の全動線をカバーし、例えば「B館から入った人はA館やC館に行く人は少ない」「下から上の階に行くにつれて訪れる人が少なくなるのかと思ったら、ある階から上は同じくらいの人数に落ち着く」といったことなどを確かな数値でつかめた。
「このような人流解析実験を行ったことにより、ビッグデータを解析して屋内の人流を定量把握できることに確信を持った」と川瀬氏。今後は、実証実験の際に人力に頼った部分やノウハウを“仕組み化”した上で、恒常的なロケーション・マーケティングの手法として展開する方針だ。そのために必要なこととして、「顧客がすでに使い慣れているアプリにSDKとして追加したり、顧客にメリットのあるアプリを新たに構築したりすることで測位できる数を増やすこと」「分析結果を誰でも簡単に把握できるシステムを構築すること」などを挙げた。今後の展望としては、「ロケーション・マーケティングを活用して、都市生活とリアル店舗を、もっと楽しく、ワクワクする場所にしていきたい」と語った。
武蔵小杉の実証実験ではポイントアプリ「ショプリエ」を活用
もう1つビーコンを使った人流解析の報告として、12日に行われたセミナー「位置情報の商業利用 最新事例」において、株式会社東急アド・コミュニケーションズの天野真輔氏(メディア企画事業室マネジャー)が発表した武蔵小杉エリアでのBLE実証実験が挙げられる。
この実証実験は、東急がリクルートライフスタイルと共同で2014年8月1日〜9月30日に行ったもので、武蔵小杉エリア内にBLEビーコンおよび音波機器を設置した。ビーコンの設置箇所は30カ所で、東急スクエアに加えて東急ストアの店舗の中や武蔵小杉駅のホーム、改札、コンコース階など面的に設置した。
実験に使ったのはリクルートが提供するスマートフォン向けアプリ「ショプリエ」。このアプリは来店するだけでポイントを貯めることができるアプリで、貯まったポイントはリクルートポイントになる。このアプリを使って、最初の1カ月に準備段階として人流データを取得した上で、後半はBluetoothによるクーポンのプッシュ配信を実施し、クーポン配信による来店・購買促進効果を調べた。
すると、過去(最初の1カ月)に来店経験があった人の場合は来店効果にほとんど変化がなかったのに対して、過去に来店経験のなかった人については、プッシュ通知による来店効果は7倍もアップし、新規顧客の獲得に有効であることが確認された。さらに、新規顧客の約半数がその後リピート来店し、複数回来店した人が7割以上にも上った。このほか、今回の実験ではリクルートIDと連携したため、「来店者は非来店者と比較して年齢層が高い」など、今まで分析しきれなかった顧客属性を分析することができた。
天野氏は、「リアルタイムでのプッシュ通知による来店効果は間違いなくあった」と語る一方で、「Bluetoothをオンにしているユーザーが少ない」「ビーコンの電池交換式が裏目となり、メンテナンスコストが高くなる可能性がある」といった課題があることも説明した。
ビーコンを使った東京ドームのビール販売員呼び出しサービス
このほか、ビーコンを使った事例としては、11日に行われたセミナー「IoT×ロケーションが作る新しいサービス」において、株式会社ACCESS取締役CTOの植松理昌氏が行った事例紹介が挙げられる。植松氏は、ACCESSがさまざまな規模での位置情報をIoTに役立てている事例の1つとして、東京ドームで開催される読売ジャイアンツ主催試合の特別シート「レジェンズシート」向けの売り子(販売員)呼び出しサービス「座席de注文」を紹介した。
同サービスはACCESSの位置連動型コンテンツ配信サービスプラットフォーム「ACCESS Beacon Framework(ABF)」を利用したもので、座席の裏側にビーコンを設置し、6席ごとに呼び出し番号を付与している。観客にはタブレットを貸し出し、それを使ってオーダーをすると、販売員のスマートウォッチにクラウド経由で注文情報が表示されて、販売員はその情報をもとに、注文した人が待つ座席に向かうという仕組み(「クラウド Watch」2015年5月12日付記事『Beaconアプリで売り子さん呼び出し、東京ドームも正式対応』を参照)。
観客は販売員が近くにいなくても簡単に注文することが可能で、受注データはそのままクラウドで管理される。これにより、従来は漠然としか分からなかった季節・時間・エリアごとのドリンクの売れ行きや、どの売り子がどのエリアでどれくらいの範囲で販売を行えば効果的なのかを分析し、効率的なオペレーションに近づけていくことができると語った。
ビーコンを使ったマーケティングの具体的な事例が豊富に登場した今回のLBJでは、さまざまな企業が位置情報を活用したマーケティングに対して期待を持っており、その効果的な活用法を模索していることが随所で感じられた。この流れが来年以降、どのように発展していくのか興味深い。
URL
- Location Business Japan 2015
- http://www.f2ff.jp/lbj/2015/
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