北京の人民大会堂で5月23日、日本人訪中団3000人を前にして行われた習近平国家主席の歓迎演説には驚いた。もともとこの歓迎レセプションには副総理クラスが出席の予定で、習主席の出席は一部要人には前日に伝えられたものの、大多数の参加者にとってはハプニングだったと聞いた。
スピーチ全文の日本語訳は、日本にある中国大使館のホームページなどに掲載されているのでご興味ある方は参照いただきたいが、全体の8割方が日中間の歴史や自身の日本訪問時の体験などに基づく「日中友好論」で、過去の日本によるアジア・中国侵略の歴史について触れたくだりにしても、極めて抑制的で、未来志向の濃いものだった。
もちろん政治家の発言だから、そこに政治的な意図があるのは当然で、額面通り受け取れないのは当然だ。しかしほんの少し前までのあの刺々しい、罵倒にも近い中国政府高官の対日発言と比べるとまさに天地の開きがある。かくもあからさまに対日姿勢を転換した背景には、相応の内部事情があるのだろうし、国際情勢も関連しているだろう。それはそれとして、中国で生活する身としては、毛沢東以来ともいわれる強力なパワーを持つリーダーが、ここまで日中関係重視を高らかに宣言してくれたことはやはりありがたい。日本人や日本企業が中国で安全かつ効果的に商売をするうえで、これ以上の援軍はない。
というようなことで、日本人、日本企業の中国での商売はやっとこれからが本番である。中国経済全体は減速感が強くなっているが、消費市場の伸びは恐るべきものがある。そこで今回は改めて中国人の「お金の使い方」の話をしたい。
中国人のお金の使い方には、いくつかの日本人とは異なる際立った特徴がある。その特徴を一言で表現すれば、以下のようになると私は考えている。
日本社会 → 論理で判断してお金を使う
中国社会 → 払えるか払えないかで判断する
もう少し詳しく説明しよう。「論理で判断してお金を使う」とはどういうことか。
日本人は「このお金を使うかどうか(この商品やサービスを買うかどうか)」を判断する際、まず考えるのは、その論理的根拠である。「この商品は本当に必要か」「何の目的で買うのか」「もっと良い(安い)商品はないか」など、自分がこの商品を買うべき理由をまず考える。そして、この商品が「必要だ」「買うべきだ」となったら、金額が多少大きくても、買う。いまの自分に十分なお金がなければ、ローンを組んだり、人に借りたりして、多少無理をしてでも買う。つまり「この商品を自分は買うべきかどうか」という論理的根拠が判断の基準になる傾向が強い。
では中国人はどうかというと、自分の興味ある商品やサービスを前にした時、その行動を左右するのは「どれだけのお金が自分にあるか」である。もちろん中国人とて自分の欲しいものを買うのであって、お金があるからといって欲しくもないものを買うわけではないが、やや極端に言えば「商品やサービスは高ければ高いほど良いものに決まっている」、さらに「モノは多ければ多いほど豊かな人生である」という観念がベースにあって、自分が「お金が払える」範囲で、できるだけ高いものを、できるだけたくさん買おうとする――という傾向がある。
具体的にどういう感じで行動に現れるかというと、例えば、こんなことだ。日本社会では、相当に資産や収入がある人でも地下鉄や電車、バスなどの公共交通機関を使って移動するのはごく普通のことである。別に資産が何億円あろうと、年収が何千万円あろうと、健康状態が良好で、荷物が多いわけでもなく、特に天候が悪いということでもなければ、公共交通機関に乗ったり、自転車や徒歩で移動したりすることは日本人にとっては当たり前のことであって、むしろ奨励されるべきことだ。よく大企業の経営者が電車で通勤しているという話が「美談」としてニュースになったりする。
これはなぜかというと、日本社会には「そうあるべきだ」という観念があり、いかにお金をたくさん持っていて、運転手付きの車での移動が経済的に可能であるとしても、特に事情がないのであればそんな(無駄な)ことをする必要はないと多くの人が思っているからである。つまりぜいたくな通勤方法の「論理的根拠」が見出しにくいのである。
一方、中国人はどう考えるかというと、歩いて移動するより地下鉄やバスに乗るほうが楽である。地下鉄やバスに乗るより、タクシーに乗るほうが楽で便利である。タクシーに乗るより自分で車を運転して通勤するほうが快適である。自分で車を運転するより、運転手付きの車で送迎してもらったほうが楽で便利かつ快適である――と誰もが思っている。ではなぜ地下鉄やバスで移動しているのか。それは要するにお金がそれしかないからである。経済的に負担できるのだったら、誰だって迷わずタクシーに乗るし、自分の車で移動するし、もちろん運転手付きが一番いいに決まっている。そんなことは当然で、議論以前の問題である――というのが中国社会の感覚である。要するに「(お金を払えるのであれば)こうするのが良いに決まっている」という観念が社会の「相場」として存在し、それを自分が実行するかどうかは、ひとえに「払えるか払えないか」によるのである。
だから中国社会では、相応の資産や収入がある人が地下鉄やバスに乗ることはまずない。私も中国ではほとんど乗らない。それは、いくら私が「地下鉄のほうが健康によいし、エネルギー資源の節約になる」などと言い張っても、社会のほうは「詰まるところお金がないからやっているのだ」と受け取るからだ。中国社会では、これは結構大きなことなのである。
もちろんこの説明は話をわかりやすくするために、かなり極端な言い方をしており、日本の読者の皆さんは「お金があるなら私だって運転手付きの車がいい」とおっしゃるであろう。それはそうであろうけれども、日本社会には「お金を払えるか、払えないか」以外に「お金をどう使うべきか」について暗黙の共通観念が存在し、個人の「お金の使い方=社会での行動」がそれに強く影響を受けていることは、同意いただけるのではないかと思う。中国社会にはその意識がない、もしくは非常に薄いのである。
【講師:田中 信彦 氏】中国・上海在住。1983年早稲田大学政治経済学部卒。毎日新聞記者を経て、90年代初頭から中国での人事マネジメント領域で執筆、コンサルティング活動に従事。(株)リクル ...
平均的日本人さん
天津工場建設時の出来事です。現地調達品の中でかなりの部分を現地責任者(中国人)に要求スペック表を与えて購入させました。ところが入荷資材を見ると大理石床材やら高級テーブルなど豪華なものばかりでかなり慌てさせられました。調達責任者は『没関係、予算内に納まる。買えるのだから豪華なものを買いましょう』とにこにこ説明するのです。極めつけは50トンのコンプレッサーです。 25トンを2台据え付ける心算で指示していましたが入荷したのは堂々たる50トンのコンプレッサーなので驚いて経緯を調べると調達責任者が『25トンはどこにでもあるが大きな工場には50トンの方が相応しい』と独断変更していました。メンテナンスの関係で必ず二連設備が(日本では)常識なために敢えて説明もしていなかった自分を悔いましたがさすがにこの時は入れ替えさせました。現地の事情に慣れて振り返れば購入品が豪華になる程、担当者の面子が上がり、受け取るリベートの額も大きくなる事も大きな原因だった様です。
2015年06月10日 09:32
choikawaさん
まだ理解できるには距離感あり。なぜ・なぜ・なぜ
2015年06月09日 15:42
初老人さん
ただいま投稿しましたがニックネームを『平均的日本人』と誤記致しました。お手数をかけますが『初老人』に変更して頂きます様、お願い申し上げます。
2015年06月09日 09:56
平均的日本人さん
長く続いた計画経済の時代、市場には国家規格に嵌め込まれた商品しか無く、スペックの上下=価格の上下であった。しかも【無駄排除】の号令のもとにスペックバリエイションは存在しなかった。だから【良い物=高価な物】と考える。日本の様な自由市場の場合、同一商品(例えば自動車)でも複数のメーカーが・機能・デザイン・価格を組み合わせて商品展開をする。顧客はその中から嗜好と価格を秤にかけながら商品を選択する習慣が身に着く。そんな社会で育った人間は【良い物=自分に合った物】と考え『高価な物を買える人』よりも『適切な組み合わせが出来る人』の方を尊敬するのではないでしょうか。
2015年06月09日 09:47
Misa Hayashiさん
シナに対してアレルギーのある私。
但し、「嫌い」だからこそ、そして危機感をおぼえているからこそ、敵のあり方もしっかり把握しておきたいと思ってさいごまで拝読いたしました。
なるほどと腑に落ちる点多々あり、勉強になりました。
2015年06月09日 09:21
kenさん
韓国に長く住んでいますが、韓国人のお金の使い方と非常に似通っています。
2015年06月09日 01:26
ちーさんさん
勤務先が日本有数の観光地にあるため、毎日目にする外国人の圧倒的多数が中国人観光客。
記事を読んで、なるほどそういうことか。と納得です。
2015年06月08日 10:55
かつぴんさん
中国人の考え方が日本人と違うことがわかり、とても参考になりました。
2015年06月08日 09:07
ぶーさん
納得
2015年06月08日 08:23
田中 信彦たなか のぶひこ
中国・上海在住。1983年早稲田大学政治経済学部卒。毎日新聞記者を経て、90年代初頭から中国での人事マネジメント領域で執筆、コンサルティング活動 に従事。(株)リクルート中国プロジェクト、 ...
経営・戦略 2015年03月20日
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第66回 2015年02月20日
第65回 2015年01月23日
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