日本を覆う「ジジサヨ問題」とは?
開沼博(以下、開沼) では、震災以降の変化について質問させてください。震災を契機にして、ある種の秩序が崩れる瞬間があって、無秩序のなかで上下関係も崩れ、それまで活躍できなかった若い世代や女性たちが活躍している事例とか、これまでは注目されてなかったような地域が突如脚光を浴びているようなケースはたくさんあります。
糸井重里(以下、糸井) ああ、そうですね。
開沼 とくにこれは、被災地の現場に密着すればするほど、実感します。たとえばいま、わたしがこうやって糸井さんと対談させていただいているのも、その一貫かもしれません。
一方で、ずっとネガティブな方向に語る人も、いまだ多い。少なくともわたしの立場から見ると、「福島のことをネガティブに語るほうがかっこいい」と思っているように映る人は、とても多いわけです。実際、わたしのもとには脅迫状めいた手紙とかもよく届くのですが、メールで来るのは若い世代の、311以降に目覚めた社会運動系の方々。もうひとつ、手書きの長い手紙をいただくのは……。
糸井 ぼくらの世代。
開沼 ええ、団塊の世代なんですね。わたしはこれを「ジジサヨ問題」と呼んでいるんですけど、「ネトウヨ」とは逆の「おじいちゃんサヨク」たちがフェイスブックに毎日延々激しいことを書き込んだり、脅迫状めいた長い手紙を送ってこられる。やはり団塊の世代なので、学生運動の記憶が残っているのかなという感じがする。そして、これは少なくない事例として、元教師とか元新聞記者とか、ある程度ステータスのあった方々が引退して、ジジサヨ化している。
糸井 うん。
開沼 それで、どうしてそれだけの知識やご経験があり、これまで社会正義を考えてきたであろう方々が、「正義」の暴走をされているのか。きっとわたしが対岸から見る風景とは違って、糸井さんはそうした方々を横目で見る立場にいるのかと思うのですが、いかがでしょうか?
糸井 うーん。……ほんと、なんだかすみませんねえ(笑)。
開沼 いえ、糸井さんは悪くないです(笑)。
糸井 ぼくも、その人たちにずぅーっと「あんなやつが」と言われて生きてきた側の人間なんで。もう、どうしようもないんですね。あの……ぼくもですが、寿命がきますから、そのうち。
会場 (笑)
開沼 待つ(笑)。
糸井 うん、まあそれは冗談として、その前に出た話で、ぼくちょっと思ったんですけど、開沼さんがいま31歳でしたっけ?
開沼 はい。
お侍さんの時代、町人の目線
糸井 いま31歳で、ぼくと話している。年齢で考えたら親子ですよ。
開沼 ええ。
糸井 それはねえ、「震災以後に若い人が活躍できる場ができた」んじゃなくって、むかしはもっとあったんです。
開沼 ああ、そうですね。
糸井 最近が、なくなりすぎてただけなんですよ。だってぼくは、開沼さんくらいの年齢のころに、歌舞伎役者のおじいちゃんをゲストに迎えて「さて、本日のゲスト、片岡仁左衛門さんですけども」とかやってたわけですから。むかしは、ガキンチョがなにかやってることもオッケーだったんですよ、人手が足りなかったのか。
開沼 はいはい。筑紫哲也が朝日ジャーナルでやった『若者たちの神々』とか読むと本当にそう思います。
糸井 いまはね、専門になにかやってないと、いっちょまえになにかを語れないんで。こう、武士に仕官している人ばっかりになっちゃったんですよ。それで開沼さんも、社会学者という武士階級なんだと思うんです。
開沼 なるほど、なるほど。
糸井 ぼくらは町人なので、なにか騒ぎがあったときにはお侍さんを雇うわけですよ。仕事の上でも、言論でも。それでお侍さんは、なんだかむずかしい話をしているわけですよ。町人にはわからない、薩摩藩の示現流の一派がどうしたとか、尊皇攘夷がどうだとか。
それで、さっきおっしゃった団塊の世代のおじさま方は、一杯飲み屋でくだを巻いてる老武士なんですよ。それを聞かされる町人は「飲むのはいいけど、ちゃんとお金払っていってくださいよ?」としか思ってないんです。
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