中山由美
2015年6月8日15時23分
ほおを突き刺す風の中、10頭の犬が雪をけり、そりを引いて疾走する。著書「エスキモーになった日本人」で知られる大島育雄さんは、グリーンランド北西の北極圏の村で43年間、猟師として生きてきた。10日で68歳。標高1300メートルの氷原を越え、半月で600キロを走る犬ぞり猟は「体力的に今回が最後」と話している。その旅に同行した。
「アウリッチ(動くな)!」。出発を前に興奮する犬たちの上で、大島さんの鞭(むち)がヒュンと風を切る。
零下30度、太陽が4カ月出ない冬が明けた4月。海氷や雪がとけるまでの数カ月間が、「犬ぞり猟に一番いい季節」と大島さん。シロクマの毛皮のズボンに、アザラシの皮のブーツのいでたち。「シロクマを捕り、孫にもズボンを作ってあげたい」と笑う。
■廃れる伝統
大島さんが暮らすデンマークの自治領、グリーンランド北西のシオラパルクは人口約30人の「地球最北の村」だ。千年余り続く犬ぞり猟文化を取り巻く環境は厳しさを増す。温暖化で海氷や雪は減り、猟師はこの10年間で半減した。先住民の伝統の防寒服や猟具を作れる人が減り、大島さんの元には注文が絶えない。民族衣装に使うアザラシの皮の処理方法を教えに遠方の学校にも出向く。
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