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2015-06-08

「馬はいつから人間の家畜になったのか」論争(「興亡の世界史」2巻)

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スキタイと匈奴 遊牧の文明 (興亡の世界史)

スキタイと匈奴 遊牧の文明 (興亡の世界史)

馬駆ける草原に興った、もうひとつの文明 黒海北岸スキタイモンゴル高原匈奴。「蛮族」とみなされた彼らが築いた広大な国家と、独自の文明とは。ヘロドトス司馬遷が描いた騎馬遊牧民世界を探る

内容(「BOOK」データベースより)

前七世紀前半、カフカス黒海北方に現れたスキタイ。前三世紀末、モンゴル高原に興った匈奴。彼らはユーラシアの草原に国家を築き、独自の文明を作り出した。ヘロドトス司馬遷が描いた騎馬遊牧民の真の姿は近年の発掘調査で明らかになってきた。

この本では第一章で「騎馬遊牧民誕生」を取り上げている。

「野生の獣はいつ、どこで、誰が、いかにして家畜化したか」

これは「銃・病原菌・鉄」でも語られたホホーッ、なんとも興味深い…な論争だが、少なくとも馬に関しては、まだ定説が無い大論争状態らしい。

羊、ヤギと牛の家畜化に関する問題はある程度明らかになってきたが、馬の家畜化に関しては、残念ながらまだ五里霧中と言わざるを得ない。

(P47 )

、「興亡の世界史スキタイ篇では、定説を探す努力を放り投げて、論争をそのまま掲載する方針をとった。これがけっこう面白いのだ。

擬人化して、対話形式で要約する。Aはアンソニー、Bはレヴァインという人の説が中心。

A「ウクライナドニエプル川中下流のデフレイカ遺跡紀元前4000かそれより数百年前の遺跡から、馬の骨がごっそり出てきた(獣の骨の52%)!オマケに鹿の角もだ! 馬のハミを留めて、同時に手綱にもなる「鏡板」という道具は鹿の角で作られることが多い。これもそうだ!当時から馬は家畜で、騎乗したんだ!」

「さらに馬の骨は、下の第二前臼歯が磨耗している!!ハミを装着したからそこが磨耗してるんだ」

B「おい、そのハミの材質は何だよ」

A「・・・銅?」

B「その時代に銅製品ができるわけねーだろ」

A「じゃあ、縄とか、革とか、骨とか」

B「歯が磨耗しねーだろ!」

A「何言ってやがる、実験してやらあ…ほら磨り減った!!」

B「まてまて、派の磨り減りだけどな、それで年齢も分かるよな。出土した歯で調べると、5歳以上8歳未満で死んだ馬が一番多いんだが。それに雄と雌の比率が9:1だ」

A「だからなんやちゅーねん」

B「ふふふ、馬が家畜ならばだ、肉で食うのに一番いいのは2−3歳。逆に騎乗労役に使うなら働き盛りで殺すわけない、15-16歳ぐらいの骨が多いわな・・・つまり当時の人たちは!!野生の馬を狩って肉にしてただけなんだよ!!」

A「なんでそれがわかるんだ!」

B「年齢と雄の比率が、それで説明が付くからさ。野生の馬の群れのリーダーは5−8歳の牡馬だ。人間が狩りにきたら(ほかの獣でも)リーダーは仲間を逃がして自分は狩りに立ち向かう。だから勇敢かつ危険なリーダーは狩りで殺される確率が高い。ゆえに骨の雄の比率が9:1なのさ」


著者は

「同じ遺跡の馬と歯の分析からまったく相反する二つの結論が出るという事態を前にして、どのように折り合いをつければよういのか。私も当時(1990年代初め)大いに困り…(略)折衷的な判断お茶を濁すしかなかった」と率直に語っている(笑)


そしてAことアンソニーはその後もあちこちで論文を書きまくり、欧米人ごのみの印欧語族原郷問題欧米では邪馬台国的な人気がある歴史ミステリー)にも頸を突っ込んで一躍売れっ子に・・・カザフスタンのボタイ遺跡調査した。

Bことレヴァインも、このボタイから、またもやアンソニー氏と正反対の結論を出した

A「おい、ボタイは雄と馬の骨比率が1:1だぞ!どう説明すんだBよ!」

B「うっせーな・・・デフレイカは小さい集落だろ?向かってきた雄一頭を倒すのが精一杯だし、それで十分だったんだよ!ボタイは大集落だろ?一つの狩りではリーダーだけじゃなく、逃げたメスも捕まえたんだよ!!」

 

C:「あのーお取り込み中すいません。デフレイカ集落と、馬の骨の年代推定、新しい調査法で思いっきり変更することになったんですけど」

A,B「なんだってー!!!!」

まったく曖昧で、ナイトスクープ北野武調査のように中途半端だけれども、これが「いいなあ、学問だなあ」と思うよ。

まったく未解決の論争を、そのまま歴史概説書で紹介してくれた著者・林俊雄氏に感謝


参考図書

馬の世界史 (講談社現代新書)

馬の世界史 (講談社現代新書)

人が馬に乗ったとき世界は変わった!戦車と騎馬が生んだ戦争のかたち、東西の道、世界帝国。馬から歴史を捉え直す。

著者について

本村凌二(もとむらりょうじ)

1947年生まれ。東京大学大学院総合文化研究科教養学部教授。専攻は西洋古代史。著書に『ローマ人の愛と性』――講談社現代新書、『ポンペイグラフィティ』――中公新書――など。馬についての造詣も深く、別名で競馬エッセイ万馬券は馬情に散った』――晶文社――なども執筆している。


ヤン・ウェンリーいわく(?)

ユリアン、馬という生物地球にいなかったら、この宇宙歴799年は、まだ古代だったろうね」。

http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20130924/p4

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