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31-05-2015 「日本的な働き方」の社会的帰結
■[評]『仕事と家族:日本はなぜ働きづらく、産みにくいのか』
筒井淳也
(2015年5月25日刊行,中央公論新社[中公新書・2322],東京,x+209 pp., ISBN:9784121023223 → 目次|版元ページ)
【書評】※Copyright 2015 by MINAKA Nobuhiro. All rights reserved
「日本的な働き方」の社会的帰結
本書は,現在みられるような「日本的な働き方」がどのようにして成立したのかを現代史的に振り返り,さまざまな国際比較データを用いて,この国の「かたち」を浮かび上がらせようとする(第1〜2章).そして,未婚率の増加と出生率の低下,そして女性の社会進出を阻むのはこの「日本的な働き方」にほかならないと著者は指摘する.第3章ではその「日本的な働き方」の正体に迫る.
まずはじめに,著者は欧米に広く見られる「ジョブ型職務給制度」に対する日本の「メンバーシップ型職能資格制度」について次のように定義する:
日本独自の人事システムとして知られる職能資格制度とは,仕事(職務)ではなく人,あるいはその人の潜在能力を評価する制度である.これはある意味,日本人にとって「わかりやすい」システムだ.(pp. 101-102)
この職能資格制度は,1970年代〜80年代にかけて広まった「日本的な働き方」にマッチしていたと著者は言う.その「日本的な働き方」とは以下のような働き方だ:
日本企業の基幹労働力として採用された者は,仕事に関する三つの「無限定性」を受け入れることを要求される.職務内容の無限定性,勤務地の無限定性,そして労働時間の無限定性である.(p. 103)
この「日本的な働き方」は,「内部労働市場における柔軟な人員配置」(p. 106)という日本企業ならではの強力な武器を提供する反面,業績評価の主観性や女性・外国人の基幹労働力からの排除,さらにはワークライフバランスへの障害という副作用をもたらすと著者は指摘する.そして,「コミュニケーション力」などという得体のしれない能力が日本企業で評価されるのも「日本的な働き方」の無限定性が根底にあるからだと説明される(p. 107).
第4章では現状の分析を通して,今後どのような道を国として選択すればいいのかを論じる.残念ながらモデルとなる国は世界にはないという指摘,そしてどの選択肢を選ぶにせよ光と影がついて回るという結論は,ハッピーエンドを期待してはいけないというやや苦い読後感を残す.しかし,そういう現実は直視せざるをえない.
次の第5章は,社会から家族へと視点を移し,家庭内で生じる労働問題(家事や育児,介護などのケアワークなど)を論じる.この章がまたとても興味深い.ケアワークを支えるのは「企業と家族」であるという「日本型福祉社会」がこれまでの基本的な路線だったが,そのほころびがいま顕在化し始めている.では,家庭内でこれらのケアワークをどのように分担すればいいのか.
ここで表面化する問題が家庭内での「男女のスキル格差」(pp. 178-181)と「希望水準の不一致」(pp. 181-184)である.とくに,日本の家庭では日々の食事に関する希望水準が高すぎるらしい(pp. 184-185).ハイレベルな食事を家庭で求めるのは確かに負担が大きすぎるだろう.料理スキルは個人差と格差が大きすぎるだろうから.そして, “おふくろの味” を配偶者に気軽に求めてはいけない(自分でつくれるように努力せよ).ウラを返せば,欧米の家庭では多少の “手抜き” でも許されるという希望水準の低さがあるということだろう.だから家族間スキル格差が日本ほど表面化しない.これらは確かに現実の家庭生活ではどこでも起こりえる問題群であり,しかもあまりにパーソナル過ぎて一般的な解決策があるとはとうてい思えない.
本書の文体は最初から最後までいささか “冷静” すぎるような気がするけど,よくよく考えてみればヘンにあおられるよりははるかに誠実かもしれない.いずれにしても,とてもおもしろい本なので,多くの読者の手に届きますように.
以前読んだ:中野円佳『「育休世代」のジレンマ:女性活用はなぜ失敗するのか?』(2014年9月20日刊行,光文社[光文社新書・713], 東京, 349 pp., ISBN:9784334038168 → 書評|目次|版元ページ)とテーマや内容そして主張がかなり重なっているが,統計的なデータ解析の姿勢に関しては本書の方がワタクシには “有意” に好ましく思われる.
三中信宏(2015年5月31日)
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