システムの時代と日本人
(文・木村英紀)
「システム工学の7人の侍」(The Seven Samurai of Systems Engineer-ing)ということを言い出した人がいる。アメリカの著名なシステム工学者であるJames Martin氏である。システム工学に7名のリーダがいるという話かと思ったらそうではなく、システムの七つの見方、あるいは種類を言うそうである(SEC journal 2015年3月号参照)。筆者はこの言葉を聞いて全く別の連想をした。
ご存じのように黒澤明の映画ではそれぞれ個性豊かな7人の侍が見事な連係プレーで野武士を撃退するが、これこそシステムの原型ではないか、と思ったのである。まず野武士の襲撃から村を守る、という目的が設定される。仕事を請け負ったリーダ格の勘兵衛は、目的を達成するには最低限7人の侍と農民の武装が必要であると考える。これは一種の設計である。7人の侍をリクルートするプロセスも実に興味深いが、目的達成に必要な要素技術を取り揃えるシステム構築の考え方と似通っている。
7人の侍は繫がることによって、一見不可能と思われる目的を達成した。今は時間や空間を超えて「人と人」だけでなく、「ものともの」、「人ともの」の間を繫げることが容易かつ安価になった。繫がることによって初めて生み出される新しい価値がどんどん増えてきた。「システム化」はそのような状況を象徴する現代科学技術のキーワードである。私たちの周りにはシステムが無数にあり、私たちはそれらを無意識に使い、またそれらに使われて生活している。
しかしシステムにもいろいろある。うまく作られたシステムは豊富な機能を備えて多くの人々に恩恵を与え、取り扱いや管理も容易で、しかも丈夫で長持ちする。粗雑に作られたシステムは貧弱な機能しかなく使い勝手が悪い。管理にも手がかかり故障が頻発する。システムが複雑になればなるほど、よいシステムと悪いシステムの差がますます顕著になってきている。
いくらよい部品を使っていても、それらをうまく繫げることが出来なければよいシステムにはならない。日本はよい部品を作る技術では追随を許さないが、よいシステムを作る技術は貧弱である。携帯電話、手術ロボット、半導体製造装置、医療機器、モーションキャプチュアなど日本が海外のシェアを失ってしまった製品群も、部品だけは日本製が多い。しかし部品の価値が全体の価格に占める割合は急速に減ってきているから、日本の企業の利益は薄くなる一方である。
世の中に悪いシステムが多いのは繫ぐことが難しいからである。「七人の侍」ではリーダの勘兵衛には大将の器量があったから個性的な人間同士を繫ぐことが出来た。しかしどうやら現実の日本人は昔から繫ぐことが得意でないらしい。そう思う理由をいくつか挙げよう。
日本人は職人が好きである。「匠の技」に日本人は弱い。かつて農民は「水吞み百姓」と蔑まれたが、職人にはそのような蔑称はない。繫がることには目もくれず自分の技だけで生きる一本気の職人(例えば幸田露伴の「五重塔」の主人公)は日本人のロールモデルであった。日本人の好きな「ものづくり」という言葉にはそのような職人の体臭が付きまとう。
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