北陸新幹線:金沢延伸の光と影 ローカル線乗り継ぎルポ

毎日新聞 2015年05月29日 16時24分(最終更新 05月29日 16時52分)

泊駅の同じホームで、あいの風とやま鉄道の車両(手前)から、えちごトキめき鉄道の車両に乗り継ぎをする乗客。週末なのに、人もまばら
泊駅の同じホームで、あいの風とやま鉄道の車両(手前)から、えちごトキめき鉄道の車両に乗り継ぎをする乗客。週末なのに、人もまばら
IRいしかわ鉄道
IRいしかわ鉄道

 ◇特急は廃止、在来線は三セク化で分断・運賃値上げ、寂れる通過駅…

 北陸新幹線が3月14日に金沢まで延伸されて2カ月が過ぎた。金沢をはじめとした北陸沿線地域は「新幹線ブーム」に大きく沸いている。しかし、その裏で新幹線のルートから外れた地域や、通過されるだけとなった駅周辺は、そのブームから取り残されている所もある。記者の趣味である鉄道旅も兼ねて、先週末、新幹線開業により第三セクターとなったローカル線を乗り継いでみた。

 北陸新幹線延伸と同時に、長野−金沢間を結んでいたJR信越本線・北陸本線は、地方自治体と民間が出資する第三セクターに移管された。石川、富山、新潟、長野の4県で分割され、それぞれIRいしかわ鉄道、あいの風とやま鉄道、えちごトキめき鉄道、しなの鉄道の4社による運行となった。これにより新潟県から北陸方面へ直通していた三セク移行前のJR特急「はくたか」「北越」は廃止された。

 22日夜に上野駅前を出発し、夜行高速バスで金沢駅まで乗車。翌朝8時前、まずは第三セクター移行区間の西端となる金沢駅から出発することにした。北陸新幹線の終着駅となっただけあり、外国人を含めた観光客が多い印象だ。金沢駅は新幹線開業前にも訪れたが、駅前も当時に比べて発展を遂げていた。

 ここからいよいよJR北陸本線から移管された「IRいしかわ鉄道」に乗車。この路線はたった5駅しかなく、石川県側最東の倶利伽羅(くりから)駅(同県津幡町)の先は「あいの風とやま鉄道」の管轄。ただ、利便性を配慮して2社間で直通運転がされ、普通列車はJRだった頃の感覚で利用できる。

 しかし、異なる会社間をまたぐため、運賃は三セク移行前に比べて跳ね上がり、金沢から富山まででも、970円から1220円になった。ただ、利用客に配慮し、普通列車の本数はJRの頃と同数が維持されている。

 乗った電車は富山駅止まりだったので、ここで次の電車に乗り換える。この辺りは北側に日本海、南側に北アルプスを望み、風光明媚(めいび)な区間である。そして途中の魚津駅(富山県魚津市)で下車。魚津はJR時代にはほぼ全ての特急が停車し、新潟、金沢どちらの方面からもアクセスのよい駅だった。

 しかし三セク化によって特急が全廃され、普通列車を乗り継ぐしかアクセスの方法がなくなった。「蜃気楼(しんきろう)の見える町」をアピールしているが、駅構内や駅周辺を見渡しても、新幹線開業を歓迎するポスターは見当たらない。金沢駅や富山駅とは対照的な印象だ。

 観光地としてのみならず、魚津駅は黒部ダムで有名な宇奈月温泉へ向かう地元の私鉄、富山地方鉄道の乗換駅である。ここも、より温泉地に近い場所に北陸新幹線「黒部宇奈月温泉」駅が開業。魚津の果たしてきた玄関口としての役割も低下しているようだ。富山地鉄の駅員も、「新幹線が開業して以来、魚津から宇奈月温泉へ向かう乗客は明らかに減った」と語る。

 一方、新駅開業となった黒部宇奈月温泉駅周辺は駅前がきれいに整備され、新幹線開業ムード一色という印象。開業後2カ月余りで、まだそれほど発展しているとは言い難いが、レンタカー店など、観光客向けの店舗もできている。これに対応して、富山地鉄はほど近い場所に新黒部駅を新規開業。新幹線駅から降りた客の多くが富山地鉄に乗り換え、宇奈月温泉方面へと向かっていった。

 大半の乗客の流れとは反対に魚津へ戻る。やはり駅前は活気がなく、もの悲しさが漂う。再び東を目指し、泊駅(富山県朝日町)で、「えちごトキめき鉄道」に乗り換える。本来の鉄道会社間の境界は2駅先の市振(いちぶり)駅(新潟県糸魚川市)だが、運行上は泊が境界駅となっている。JR時代同じだった路線がここでも分社化され、乗り換えが必要となる。

 「あいの風とやま鉄道」と「えちごトキめき鉄道」の2社は、同一ホームでの乗り換えができるよう便宜を図っているが、何とも面倒だ。ここから終点直江津駅まで乗車する。

 日本海を望む直江津は、かつては、JR信越線と北陸線が交差する接続点で、北陸新幹線開業前は上越新幹線「越後湯沢」駅と金沢駅を結ぶ特急「はくたか」の停車駅でもあった。しかし、北陸新幹線のルートから外れた上、「はくたか」の廃止に伴い各地へ向かう利便性は大幅に減少した。

 駅構内には直江津駅と同じ上越市の南方に位置する北陸新幹線「上越妙高」駅の開業を祝うポスターが掲げられていたが、上越妙高から直江津までは、トキめき鉄道で4駅約15分間乗り継がなければならない。

 直江津は、交通の要衝としてのみならず、近くに位置する戦国時代の名将、上杉謙信の居城・春日山城など観光拠点へのアクセスとしても利用されていた。だが、上越妙高駅からも春日山城へはバスで行けるので、新幹線利用客が直江津を経由する必要も無くなった。

 直江津から長野方面は、トキめき鉄道の妙高高原駅(新潟県妙高市)で、「しなの鉄道」に乗り換え。ここも約2カ月前までは信越線として一つの路線だったことを思うと寂りょう感を感じざるを得ない。

 こうして1日かけて金沢から直江津経由で長野まで乗車したが、北陸新幹線開業によって光の当たった地域と、当たらなかった地域の差を目の当たりにした。

 新幹線停車駅周辺は、観光地への誘客の期待が大きい。一方で、地方自治体や三セク各社は、新幹線の通らなかった地域に対しては、運賃値上げ幅の縮小や普通列車の増便、所要時間の短縮などによって、沿線住民の負担軽減に注力している印象だ。新幹線の通らなかった地域にも、他にはない観光資源が存在する。地方自治体が主体となって積極的に観光地としてアピールしていけば、新幹線利用客を取り込むことができると確信した。【一橋大・武智研吾】

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