イラストをアップロードするだけで服ができるサービス「STARted」。ホントに何でもできるのか！？　あんな服もこんな服もできちゃうのか？
妄想マンガ服は、フリーライターである筆者がマンガに出てくる服を「ホントにできるのかオラオラ」と中の人にムチャぶりするコラムです。

※妄想マンガ服は、「もしマンガの服を実際に作ったら」と勝手な妄想をするもので、作品や著者様との公式企画ではありません。
（画像の使用許可はとっています）

画像提供：白泉社

だいたいにおいて、羽海野チカの描く女性は、体型が「ズルい」んですよ。まず『ハチミツとクローバー』。花本はぐみの壊れそうなほど華奢な体に、山田あゆみのすらりと長い手足。『スピカ』美園優香の、細いながらもしなやかな強さを感じさせるバレエ脚。もう全部何かの罪に問いたいくらいズルい。

何より反則なのが『3月ライオン』の長女、川本あかりです。どこを触っても柔らかそうな、肉感的なシルエットながら細くあるべきところはしっかり細い。5巻グラビアの裏、スケスケすぎるシミーズ姿でくつろぐあかりお姉ちゃん……『ヤングアニマル』（注：掲載誌）のヤングなアニマルたち、いや、もとい読者たちをどうしてくれるつもりなのでしょうか。

3巻の表紙も大変にエロい。どちらかというと、セクシーからは程遠いカジュアルなワンピースなのに、んもうシルエットのエロさがとんでもないのであります。『ヤングアニマル』は『ナナとカオル』『Re:まりな』『うそつきパラドクス』など、ちょっと服の構造がおかしい（通称：乳袋）巨乳作品のるつぼなのですが、仮にSTARtedで作れるとしたら、このへんはどうするんでしょうか。

どうでしょうか、この3巻表紙のワンピース。

STARtedでは、描かれたボディラインが忠実に出るよう配慮してパターンメイキングします。カットソー生地で作ると立ったときにストンとしたラインになってしまうと思いますので、フレアっぽい感じを再現するために布帛（伸縮性のない織物生地）を使いたいですね。胸の生地は、ボディラインを優先して伸縮性のあるカットソー生地に切替する方法もありますが、こちらも布帛にした方が全体的な質感が良くなるように思います。

もうすこしあかりお姉ちゃんに食いついた感じの話が聞きたいです。乳袋になるのかとか。

えっ。

……。

そ、そうですね。いわゆる“あかりお姉ちゃんサイズ”で作るのでしたら、スリーサイズを元にパタンナーがパターンを起こします。胸のラインはそんなに難しくありませんよ。絵を見る限り胸の下にギャザーが入っていますので、それで十分きれいなラインが出せます。パターンメイキングの際、脇にダーツを入れてもいいかもしれません。

なるほど。

いや、でも何より僕が燃えるのは胸やお尻じゃない。アンダーバストからウエストのお腹まわりです。ここ、すごいピッタリしてるんで、下から履くにしても上から被るのにしても着るのが難しいですよね。マンガ服とホンモノの服の違いはここなんです。絵として表現されたものを生かしつつ、どう快適に着られるものにするか。これを考えると、大変興奮します。ドンドン！

机叩かないでください。

脇にコンシールファスナー入れてもいいのですが、こんな家でリラックスしているときに着ているワンピースなのにコンシールファスナーでウエストをギッチリ締めてるとかおかしいですよね。アンダーバストからウエストまわりにシャーリングとゴムを入れれば、リラックスウエアとして成り立つかもしれませんが、デザイン変ってしまいますから悩ましいです。

すごい。いろんな可能性を検討されるんですね。

当然じゃないですか。あかりお姉ちゃんのボディラインを、じゃない、この服をどう再現するか考えると夜も眠れませんよね正直。よくよく考えたらストレッチ性とフレアになるラインの両立っての大変ですね。ダーツ入れたり切り替えし入れたりしてパターンで頑張る感じですかね。

そろそろ長くなってきたのでまとめてください。

二次元ものは、デザインを崩さずに着られる服にするのが難しいことがありますが、そこが面白いですよね。
これに関しては3月のライオンの世界観から考えて、おしゃれ着というよりもデイリーウエアだと思うんです。スーパーストレッチ生地使って、パタンナーが頑張ればイラストを再現できる気がしてきたんですけど、その……。

はあ。

この際言っちゃいますけど、あかりお姉ちゃんのスリーサイズってどうなってるんですかね！？　も、もしも、もしもですよ。ウエスト60cm、バスト100cmとかあったら、これは一大事です。いくらスーパーストレッチでも倍近くまでは伸びない。ファスナーで開くようにしないと着られないっすよ！！

中の人のヤングなアニマルが目覚めた気がします。

「あかりお姉ちゃんサイズ」で、お腹まわりがタイトなのに、座ったときにお腹苦しくないリラックスウエアっていうのが辛いんですよね。ストレッチ生地＋ファスナーで作る感じかなあとは思いますが、ここはひとつ羽海野先生に意図を聞いてみたいですね（笑）

ありがとうございました。

さて、実はこの川本家3姉妹、ファッションには裏設定があります。『まんがファッション』（パイ インターナショナル）では羽海野先生自らがこう語っています。

「あかりお姉ちゃんは全部自分で縫ってます。（中略）日暮里に布を買いに行って、1メートル380円とかでミラクルを起こしてくれているはずです。あと、あかりお姉ちゃんはおっぱいが大きくておしりも大きくてウエストが細いので、既成品が入らないという設定で、自分で縫ってるというのもありますね」

STARtedの中の人を大きく悩ませることとなったボディライン、実はお姉ちゃん自身も悩みのタネだったのかもしれません。ちなみに次女・ひなちゃんの服は「お年玉500円でしまむら行くか！」みたいなイメージ、三女・モモちゃんは近所の人からもらったお下がりや、プチプライスのワンピースなどをイメージしているのだとか。

ちなみに『ハチミツとクローバーの』花本はぐみが着る服も、1枚だけ買ったワンピースから型をとり、自分で作っていたイメージで描いたのだそう。いかにもはぐちゃんらしいエピソードです。「ちょっとパフスリーブにしよう」「つるつるした生地でつくってみよう」なんて、ちまちまと手を動かしている様子が目に浮かぶ人も多いのではないでしょうか。

こうした「ものづくり」を含めた視点は、ご実家のかばん店でご両親の仕事を仔細に見つめていたことによるのかもしれません。『ハチミツとクローバー』1巻には、花本はぐみが欲しいと思ったファッションアイテムをスクラップする「はぐノート」が出てきますが、羽海野先生自身も良いと思ったものを絵で書き留めているノートは100冊以上にのぼるとのこと。（2005年時点）。そこから、あの豊かなキャラクターが生まれたのですね

心のノートに描いた服は、ファッションに興味を持つ人なら誰でも持っていることでしょう。STARtedなら、それを実現できるかもしれません。

＜参考文献＞
『3月のライオン』羽海野チカ（白泉社）1〜10巻
『ハチミツとクローバー』羽海野チカ（集英社）1巻
『スピカ』羽海野チカ（白泉社）
『spoon』2005年4月号（角川書店）
『まんがファッション』竹村真奈　編・著（パイ　インターナショナル）

（文／赤木麻里）