「超一流」ジョコビッチvs.「一流」錦織圭の差にビジネスマンが学ぶべきこと - プレジデント探検隊【1】

「超一流」ジョコビッチvs.「一流」錦織圭の差にビジネスマンが学ぶべきこと - プレジデント探検隊【1】

  • PRESIDENT Online
  • 更新日:2015/05/26

ビジネスマンが学ぶべき「超一流」の作法

現在、男子テニス世界1位のノバク・ジョコビッチ(セルビア)。

そのジョコビッチ自身が書いた『ジョコビッチの生まれ変わる食事』(三五館刊・筆者翻訳)は3月下旬に発売するや、たちまち5刷を数えベストセラーとなっている。

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杉山愛 (すぎやま・あい) 日本人選手として初めてWTAダブルス世界ランキング1位になるなど、シングルス・ダブルスともに実績を残したオールラウンドプレーヤー。09年に現役引退後はテニス普及活動のほか、テニス中継の解説なども務める。

かつて世界の頂点の壁をどうしても崩せなかった男が、ほんの少し食事を見直し、別人に変身した(2週間で5kgやせた)ことで、世界王者の座を手中にした。今まさに無敵で現役バリバリの世界王者がその「最高企業秘密」を明かしたのだ。面白くないはずがない。

そんな本書を訳した私のところに「プレジデントオンライン」から、「超一流のジョコビッチと一流(超一流にもう一歩)の錦織圭の差を解説してほしい」という依頼が届いた。

本書の巻末には、ジョコビッチや錦織圭に関して元プロテニス選手の杉山愛氏にインタビューしたものを載せているが、今回、両者の実力差を聞くべく、改めてインタビューをお願いした。(以下文中敬称略:ランキング順位や勝敗数などは4月下旬の取材時点のもの)

【杉山】そこがトップの共通点ですね。ここという場面でどれだけギアをあげられるのかという話になるわけですが、あの次元になるとストロークの質などに圧倒的な差があるはずがありませんよね。でも、トップは互角に戦っているように見えてもここという場面を見極めて、確実に取ることができる。No.1のジョコビッチはそこが際立っているといえるでしょう。一旦相手にいった流れを引き戻すのは簡単ではないのですが、会場の一体感を作り出す力、流れを自分に引き寄せる力がジョコビッチは抜きんでていますね。

【杉山】もう技術や精神面など全てにおいて優勝してもおかしくないものを持っていますし、今年は特にクレーコートに強い「クレーキング」といわれるナダルが不調ですからね。ですから、現時点でジョコビッチが優勝最有力というのは間違いないでしょう。何かが足りないとか、足さなければならないというのはないと思います。

【杉山】難しいところですね。錦織選手は今年好調ですし、実力をつけてきているのも間違いありません。ただ、過去の大会でも不調だったナダルが立て直して優勝したという例もありましたから、不調とはいえ、2番手はやはりナダルだと思います。ここまでナダルの調子が悪いシーズンは初めてですけれども……。そして3番手は、錦織選手というのが順当な見方ではないでしょうか。

超一流まで「あと一歩」を越えるヒント

*編集部注:一見、ファンサービスの曲芸のように見えるが、相手を幻惑するなど戦略的に有効と言われる。

【杉山】一番はハンド・アイ・コーディネーション(目と手の連動力)ですね。テニスは道具を使うスポーツですから、ボールと自分との空間を把握し、どこにボールがくるのかという判断力が求められます。股抜きをしようと思ったら、タイミングが全てになります。ボールが地面につくかつかないかスレスレのコンマ数秒の間に手首をうまく返してラケットのヘッドを利かせられるかどうかがカギとなります。手首のスナップは鍛えたほうがいいですが、どこの筋肉というよりはタイミングですね。股抜きだけを練習するというより、遊び感覚で色々なショットを試すうちにできるようになるというのが本当のところですね。

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読めば肉体改造のみならず、人生好転するとダイエット理論本『ジョコビッチの生まれ変わる食事 あなたの人生を激変させる14日間プログラム』(三五館)はベストセラー。

【杉山】正直なところ、あのときほどの差はないと思います。フェデラー・ナダル時代は3番手のジョコビッチ以下との差が大きすぎて、誰もそこを狙うことすら考えられない状況でした。今のジョコビッチはもちろん世界1位で素晴らしい選手であることは間違いありませんし、今年のジョコビッチは2011年に初めてウィンブルドン優勝を果たし、世界1位に上り詰めたジョコビッチよりさらに強いです。それでも、「フェデラー・ナダルとジョコビッチ」の差と比べると、「ジョコビッチと錦織」の差は明らかに小さいです。

これは、直接対決の成績を見ればわかるのですよ。今でこそ互角に近くなっていますが、かつてのジョコビッチはフェデラーとナダルには全く歯が立たず、圧倒的な差がついていました。それに対して錦織対ジョコビッチの対戦成績は2勝3敗です。0勝10敗ではありませんから、決して圧倒的な差があるわけではないということです。

【杉山】いや、まだ大丈夫ですね。食事もそうですし、トレーニング手法もそうですが、スポーツ全体が科学となり、昔よりも効率のよい時間の過ごし方がわかってきていますから、みんな緻密に動いています。だからこそ、34歳になったフェデラーが今も第一線で戦えていますし、(グルテンフリー=小麦などに含まれるタンパク質などを一切摂らないなど徹底した食事管理などをする*)ジョコビッチがまだ老け込むとは思えませんね。

*次回のテキストで、ジョコビッチの食事管理法を詳述

超一流になる人は、虎視眈々と上を狙い続けられる人

【杉山】ウィリアムズ姉妹ですね。瞬発力・パワー、その他すべてが半端なくて、どうしようもないと思いました。時速200kmを超える男子並みのサーブを打てるのは女子でも片手くらいしかいませんからね。セリーナとヴィーナスの2人と対戦するときは恐怖心を覚えました。ヴィーナスには彼女が出始めのころに1回だけ勝ったことがありますが、セリーナには1度も勝てませんでした。

私が小さい(161cm)ながらも世界で戦えたのはバランスの良さやフットワークの速さといった身体能力が世界的にも並み以上だったからだと自負しているのですが、あの2人だけはケタ違いでした。

【杉山】ヴィーナスとは30cmくらい違うと思いますよ。190前後ありますからね。セリーナは180cm台だったと思いますが……178cmの錦織選手も今まさにイーズナーとか南アフリカのケヴィン・アンダーソンといった2m台の選手と対戦することも多いわけですが、互角以上に戦えていますからね。パワーや体格に圧倒的な差があっても何とかできるのがテニスの魅力でもあります。パワーに対してパワーだけで対抗する必要はありませんし、錦織選手もそこでは対抗していません。

*筆者注:なお、実際のヴィーナスの身長は185cm、セリーナは175cmである。つまり、現役時代の杉山はこの2人に実態以上の威圧感を覚えていたということになる。

杉山氏の結論は、1位と4位の間に差があるのは当然だが、決して圧倒的な差ではなく、全仏では大いに期待してもよい、というものだった。

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5月中旬、「イタリア国際」準々決勝でジョコビッチと錦織の直接対決の結果を報道するニュース番組より。イージーミスを減らすことも超一流への課題だ。

『ジョコビッチの生まれ変わる食事』巻末のインタビュー時、杉山氏は錦織をこう評した。

「スピードとか展開の速さ、ショットのバラエティの豊かさ、奇想天外な展開力があり、ジョコビッチとは違うすごみがある」

一方、ジョコビッチに関しては「ディフェンスは間違いなくナンバー1」とした上で、「ディフェンスがそのままオフェンス(攻撃)につながっているという側面があって、そこが彼の魅力」。だが、杉山氏がもっとも衝撃を受けたのは、今回のインタビューにもあったように、かつての3番手時代のジョコビッチが見せた「常に上を目指す」メンタルの強さだ。

「なまじプロだからプロのすごさがわかってしまうことがあるわけです。将棋でも、プロだからこそ羽生(善治)さんには勝てないみたいな話があるでしょう。でもそんな時期にも彼は気持ちを切らさずに虎視眈々と1番を狙い続けていた」(本書より)

考えてみれば、こうした姿勢が大事なのはビジネスの世界でも同じだろう。「絶対的なエース社員」や「実績十分の上司」をリスペクトする一方で、いつかその大きな存在を超えてやるという気概をキープし続けることが、ワンランク上に上がるためには必須だ。

錦織は5月中旬のイタリア国際の準々決勝でジョコビッチと直接対決、3-6、6-3、1-6と1セットを奪ったものの敗れ、対戦成績は2勝4敗となった。その大会で、ジョコビッチは優勝した。

「超一流」と「一流」は似て非なるものだ。今後、その差が縮まるか、広がるか。それは錦織が「3番手時代のジョコビッチ」のような「虎視眈々」ができるかにかかっているのではないか。

その他、私が見るところ、ジョコビッチと錦織の間に横たわる差とは「食事」「歯」「人間の器」の3点である。これらについて、次回以降のテキストで検証していきたい。

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