気軽な自転車の怖い真実…自転車運転の違反、損害賠償、保険について

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自転車事故の違反・損害賠償・保険

身近で気軽に楽しめて便利な自転車ですが、じつはその裏には大きな危険が隠れています。

誰もが自転車事故の加害者にも被害者にもなる可能性があります。
軽く考えていると、自分が犯罪者になってしまったり、数千万円という高額な損害賠償金を支払わなければいけないことになるかもしれません。

そこで今回は、自転車による事故と損害賠償金、そして自転車保険の関係について解説します。

取り返しのつかないことになってしまう前に、今そこにある危険を未然に防いでいきましょう。

交通事故は増えている?減っている?

まずは、統計データを見てください。
2015年1月、警察庁が公表した統計データ「平成26年中の交通事故死者数について」によると、事故件数は、前年より5万4783件少ない57万3465件で、ピーク時の平成16(2004)年の95万2709件と比較すると約40%も減少しています。

死者数は4113人で、前年(平成25年)よりも260人(5・9%)減少。
負傷者数は、70万9989人で前年よりも7万1505人の減少。
交通事故件数も死傷者数も減少していることがわかります。

実際、自転車による事故件数も、ここ数年は減少傾向にはあります。

これも、警察庁が発表している「平成26年中の交通事故の発生状況」の統計データによると、平成26年の自転車関連の事故は10万9269件で、交通事故全体に占める割合は約2割ですが、平成25年度の12万1040件から1万1771件減少しています。

自転車による事故が減少しているという事実は、私たちにとってひとつの安心材料になります。
しかし、だからといってすべての問題が解決されているわけではありません。

じつは、その裏に大きな問題が潜んでいます。
自転車が加害者となる悪質な危険運転による事故の増加と、それにともなう死亡や後遺障害に対する損害賠償問題です。

自転車の悪質な危険運転には厳罰が待っている!?

日常の生活の中で、危険な自転車運転を目撃した、あるいは危険な目にあった経験、ありませんか?

たとえば、歩道を猛スピードで走ってくる自転車や、平気で右側通行してくる自転車、
さらには信号無視やスマホなどを操作しながらの「ながら運転」
など、危険を感じたことのある人も多いのではないでしょうか。

こうした自転車の危険運転が重大な死傷事故を引き起こすケースが増えている事態を受けて、政府は平成27(2015)年6月の施行に向けた新たな「改正道路交通法」の施行令を閣議決定しています。

この施行令では、次の14項目の悪質運転を危険行為と規定しています。

・信号無視
・酒酔い運転
・通行禁止違反
・歩道での徐行違反
・一時停止違反
・通行区分違反
・歩道での歩行者妨害
・路側帯の歩行者妨害
・交差点での右折車優先妨害
・遮断機が下りた踏切への立ち入り
・交差点での優先道路通行車の妨害
・環状交差点での安全進行義務違反
・ブレーキなし自転車の運転
・携帯電話を使用しながら運転するなどの安全運転義務違反

これらの違反を犯した運転者はまず、警察官から指導・警告を受け、これに従わない場合には交通違反切符を交付されます。
3年以内に2回以上の交付で講習の対象となり、受講しないと5万円以下の罰金が科せられることになるようです。

それでも悪質な危険運転は後を絶ちません。
こんな事故も起きています。

「“自転車の事故はお互いさまでは…”自転車ひき逃げの19歳女子大生を書類送検」
(2015年4月17日 産経新聞)

自転車同士の衝突事故で相手にケガを負わせたにも関わらず、そのまま走り去ったとして、
大阪府警高石署は府内の女子大生(19)を重過失傷害と道路交通法違反(ひき逃げ)の容疑で書類送検しました。

女子大生は、テレビで事故のニュースを見た家族に付き添われ、事故当夜に自首。
「通学で急いでいた」、「自転車の事故なのでお互いさまと思って立ち去ってしまった」と話しているということです。

ところで、交通事故の加害者には、「刑事責任」、「民事責任」、「行政責任」という3つの責任が科せられます。

刑事責任としては、道路交通法上、自転車は軽車両ですから、自転車の事故は犯罪となる可能性があります。

自転車でのひき逃げの場合は、1年以下の懲役又は10万円以下の罰金に処されます。(第117条の5)

また、重過失傷害罪については、業務上の注意を怠って人を死傷させた場合、5年以下の懲役若しくは禁固又は100万円以下の罰金に処されます。(刑法第211条)

自転車でぶつかっただけという安易な考えが、道路交通法違反と重過失傷害罪容疑という重大な罪を招いてしまいました。

そして、もうひとつ重要なのが民事責任です。
今後、被害者が訴えを起こすことで、この女子大生は民事訴訟により決定された損害賠償金を支払わなければいけなくなる可能性があります。

そのとき、彼女は損害賠償金を支払うことができるでしょうか?
もし、支払う能力がなかった場合、被害者は金銭的な保証を受けられず、泣き寝入りするしかないのでしょうか?

自転車の事故による高額賠償金の判決が続出している

万が一、自転車で事故を起こしてしまった場合、加害者は被害者から損害賠償請求される可能性があります。

被害者が死亡したり、重い後遺障害が残った場合など、近年、自転車による事故では高額な損害賠償金の支払いが命じられるケースが増えています。

・15歳の中学生が日没後、幅員が狭い歩道を無灯火で自転車走行中、反対側歩道を歩行中の男性(当時62歳)と正面衝突。男性は頭部を強打して死亡。賠償金額は約3970万円。母親の監督責任は否定された。
<平成19年7月10日 大阪地裁判決 交民集40巻4号866頁>

・男子高校生が自転車横断帯のかなり手前から車道を斜めに横断。対向車線を自転車で直進してきた男性会社員(当時24歳)と衝突。男性は言語機能の喪失等、重大な障害が残った。賠償金額は約9266万円。親の責任は求めず親が支払約束したと請求したが、請求は棄却した。
<平成20年6月5日 東京地方裁判所判決・自保ジャーナル1748号>

また、平成25(2013)年に報道された、自転車事故の高額損害賠償金のニュースは多くの人に衝撃を与えました。

平成20(2008)年、神戸で当時11歳の少年が起こした自転車事故について、裁判所が母親に対して約9500万円の損害賠償金を被害者に支払うように命じた判決は、自転車事故と損害賠償に関して人々が考えるきっかけとなりました。

被害者は、いまだに意識不明の寝たきり状態。
加害者の少年は、一生その罪を背負って生き続けなければいけなくなり、監督責任者である母親には高額な賠償金支払いという現実。

誰一人として幸せではないという重い現実を、あらためて考えさせられた事故でした。

8割以上の人が自転車保険への加入義務付けに賛成している!?

ここで、我々が全国で自転車の損害賠償保険についてのアンケートを集計した結果があるので、ご紹介します。

Q:自転車に損害賠償責任保険等の加入を義務付けるべきか?

013
A:
はい  84人
いいえ 16人

■調査地域:全国
■調査対象:年齢不問・男女
■調査期間:2014年7月20~7月28日
■有効回答数:100サンプル

主な回答は以下のようなものでした。

・過去に自転車同士の事故に遭遇したことがあり、損をした経験があるから。
・自転車でも、人身事故の場合には死亡事故の可能性も考えられるからです。
・知り合いが自転車に追突されて後遺症が残る大ケガをしたことがあるから。
・もし、自分の子供が自転車でケガを負ったらと思うと怖いし、不安です。
・相手にケガをさせて、数千万円の損害賠償を請求されたという事故のニュースを観ました。おそろしい…。

一方、必要ないと回答した人にはこんな意見も。

・損害保険の前に、まずは交通規制や交通ルールを教育に取り入れるほうが効果的だと思う。
・子供の場合、結局、親が保険料を支払うから事故自体の責任を本人が認識できないだろうし、保険に加入したからといって事故自体が減るとは思えない。
・保険に入ると、それなりにお金がかかるし、あまり自転車を使わない人は損してしまうと思うので。

いずれにせよ、圧倒的に8割以上の人が「自転車の損害保険を義務付けるべき」と回答しました。

前述の神戸での高額な損害賠償金支払いの判決などもきっかけとなり、兵庫県では自転車事故の損害賠償保険への加入を県条例で義務化しています。

現状、無保険を取り締まるのは困難なことから、自動車のような登録制度は実施せず、違反者への刑罰は設けないようですが、どの程度の効果があるのか、全国初の試みとして今後も注目していく必要があるでしょう。

自分の身は自分で守る!自転車保険への加入も検討するべき時代

さてここまで、自転車による事故と刑罰、損害賠償金と保険などの関係を見てきました。

人間が存在し、何十億人もの人々が日々の生活を営んでいる現実を考えると、地球上から自動車や自転車などが1台残らずなくならないかぎりは、交通事故問題に対して、根本的で完璧な解決策はないのかもしれません。

しかし、被害者と加害者双方にとって少しでも悲劇的な状況や負担を減らすために、万が一のときの補償や保険については各自が考えていくべきです。

法律の面からは、自転車の危険運転抑止と被害者救済への措置は急務だと感じています。
自動車と同じように、法律によって自転車の自賠責保険加入を義務付けてもいい時代になってきているのかもしれません。

また、自動車の任意保険の加入率が約70%なのに対して、自転車保険への加入率は1%ほどとも言われていますが、最近では各保険会社などが提供する任意の自転車保険の数は以前よりも増え、補償内容も充実してきています。

交通事故による死亡や、ケガで入院・手術・通院した場合をカバーする「交通事故傷害保険」と、相手に損害を与えた場合を補償する「個人賠償責任保険」とがセットになったプランなどもあります。
さらに、火災保険や自動車保険、傷害保険の特約で自転車保険をつけられる場合もあります。

まずは、自分の身を守るためにも、万が一のときに備えて、これらの自動車保険を検討する価値はあるでしょう。
そして同時に、安心して自転車を利用するために必要な知識を、ぜひ身につけていってほしいと思います。

ただ、交通に関する法律は複雑で、実際の訴訟などで保険会社の担当者と交渉していくには専門知識と経験が必要になります。

交通事故に関する問題でお困りの場合は、弁護士などの専門家に相談することをお薦めします。

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