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「Xiaomization(シャオミ化)」に抗え~コピー製品天国の中国で始まったHAXのモノづくり革命【連載:高須正和】

2015/05/15公開

 
高須正和のアジアンハッカー列伝

高須正和(@tks

無駄に元気な、チームラボMake部の発起人。チームラボニコニコ学会βニコニコ技術部DMM.Makeなどで活動中。MakerFaire深圳、台北、シンガポールのCommittee(実行委員)、日本のDIYカルチャーを海外に伝える『ニコ技輸出プロジェクト』を行っています。日本と世界のMakerムーブメントをつなげることに関心があります。各種メディアでの連載まとめはコチラ

前回紹介したHAXLR8R(ハクセラレータ)は、深圳のイノベーションをけん引する存在の一つです。

彼らはハードウエアスタートアップのアクセラレートという、まだはっきりした成功事例が存在しないリスクの大きいビジネスを行っているため、頻繁にセミナーなどで講演し、資料をWebに公開して、ハードウエアスタートアップにチャレンジする人を増やそうとしています。

今年5月には、名称を今までよりも分かりやすいHAX(ハックス)に改め、その活動領域を広げようとしているようです。

Xiaomization(シャオミ化)の恐ろしさ

最近彼らがキーワードにしていることの一つに、「Xiaomization」という言葉があります。中国の大手携帯メーカーの一つである小米(Xiaomi)にちなんだ言葉で、文字通り「小米(シャオミ)化」を意味します。

Xiaomは、比較的きちんと動くハードウエアを、きれいなデザインと安い価格で出すことを売りにしています。

Xiaomiのプロダクト群(提供:HAXLR8R)

上の画像はXiaomiの製品の一部ですが、どれも何となく「ベンチマークにしている製品」が窺えるものです。

『Miband tracker』はNike FuelBand、『Bluetooth speaker』はJAWBONEなどのスピーカー製品、『Action camera』はGoProを彷彿とさせます。

(提供:HAXLR8R)

これらの製品からは、「紛らわしいロゴをつけて、間違えて買わせよう」などという考えで消費者をだます意図は感じません。まっとうな製品開発だと思います。とはいえ、価格は圧倒的に低いです。

13USドルで売ってるMiband trackerに対して、FitbitやNikeの製品は100USドル以上、64USドルのAction cameraに対してGoProは一番安い(しかもXiaomiの製品より機能の少ない)モデルでも129USドル、レギュラーモデルは299USドルもします。

値段が数倍違うと、よっぽどの品質差がないとひっくり返せません。Xiaomiは大企業で、しっかりした生産ラインを持っているため、彼らの製品はSONYやSAMSUNGやAppleなどの製品と比べても、品質や初期不良率、製品の外観、パッケージのどれについても大きく見劣りすることはありません。

いくつか買ってみたところ、すごく細かく見ると日本企業の品質にはまだ及ばないような気がしますが、SAMSUNGと同程度ぐらいには思えますし、そこまで細かいところにこだわる人は少なそうな気もします。

そして、深圳の街にはさらに安い、動くかどうかさえ怪しい他社製のハードウエアも並んでいます。携帯電話であれば10USドル以下、スマートフォンでも40USドルぐらいからあります。去年の12月の時点で、僕は何個ものApple Watchもどきのスマートウォッチを見ました。

Apple Watchのような形をした電話機。これは「電話機」なんです

このデュアルSIM/カメラ付きの電話機(上の写真)は45USドルで売られています。おそらく製造ロットも数千個・数百個で、ラーメン屋が新メニューを出すぐらいの勢いで新しいハードウエアが市場に出てしまう深圳のパワーはすごいものですが、品質はそれなりです。

もちろん、ここで作られた新品を買う場合、きちんと動くかどうか、見た通りのモノかは、買う時に確かめる必要があります。僕は趣味で中国製品の通販をよく利用しますが、届いてすぐに壊れることも少なくありません。

Xiaomiの製品は、そうやって売られているものとは一線を画しています。1970年代に日本車が「貧乏人のポルシェ」、「貧乏人のアウディ」と言われていたものを想起させるような感じです。つまりXiaomizationとは、ある程度みんながほしがり、コピーが容易なものをXiaomiが作ることによって、市場に流通する製品をコモディティ化(均質化)してしまうということなのです。

先行する製品の競争力を削いでしまうことのが、Xiaomizationの恐ろしさと言えます。

Xiaomizationを回避した『Darma』の取り組み

HAXは持ち込まれるアイデアに対して、どうやってXiaomizationされにくいモノを作るかを評価しています(評価が高いものはハードウエア・スタートアップが避けるべき12の「○○ウエア」で公開されている分類にあてはまらないものをイメ―ジするといいでしょう)。

深圳の街には偽物のApple製品があふれていますが、実際に使っている人を見るのは非常にまれで、人々は型落ちでも本物のApple製品を求めます。ロゴがついても形がそっくりでも、消費者はAppleのプロダクトだと思わないのです。

Appleの製品であるiPhoneやiPadの価値は、iOSとiTunes、App Storeにあります。それらにつながらないハードウエアは、いかに似ていてもAppleを求めるユーザーの希望と異なります。GoProや4Kのテレビのように、手元にあるモノがすべてであればXiaomizationの対象になりますが、形を持ったインターネット(Internet of Things)の外形だけをコピーしても魅力にならないのです。

アクティビティトラッカー(活動量計)がコピーされやすいのは、それにつながっているWebサービスが「比較的簡単に作れる」ものだったからだと思います。

ここで、Xiaomizationを回避した事例を一つ紹介しましょう。HAXの門下生で、先日Kickstaterで22万ドル以上の支援を集めた『Darma』というプロダクトがあります。クッション型のデバイスで、座っているときの心拍数や血圧、姿勢などを計測することでストレス値を診断し、「ちょっと集中切れてるからストレッチしてみれば?」などとアドバイスしてくれるハードウエアです。

クッション型のデバイス『Darma』

シンガポール国立大学で医学を修めた中国出身のDr. Junhao Huをリーダーとする人たちが始めた『Darma』開発プロジェクトは、ズボン越しに血流を測ることのできる技術がコアで、HAXへの提案時は「睡眠の品質を計測できる毛布」という内容でした。

HAXとしては、メンバーの優秀性とコア技術の面白さは認めつつ、「スリープトラッカーは市場にあふれ過ぎている」と難色を示しました。この技術を使えばより正確に測定できるかもしれないが、消費者が正確さでトラッカーを選んでいるようには思えなかったからです。

しかし、彼らは「コア技術を活かして別の製品を考えよう」という条件でプロジェクトを採択しました。そして製品になったのは『Darma』です。

アクティビティトラッカーは市場にあふれていますが、『Darma』のように「アクティブじゃない時のトラッカー(InActiviti Tracker)」は、ほかにありません。Junhaoの技術をもとにした、オリジナリティの高い製品といえます。

また、オフィスの椅子で使えば、グループ全体のストレス値を取る方向に進化させたり、飛行機の椅子に組み込んだりすれば、BtoB(こちらもXiaomizationされづらい分野です)に伸ばしていくこともできるでしょう。

いずれもWebサービス側でできることが多く、良い製品を良いWebサービスで強くして、Xiaomizationを避けることができそうです。

連載第1回のエリック・パンの時の記事で、「どんなものでもコピーしてしまい、改善してしまう深圳の生産能力はすごい」と書きました。深圳に生きるMakerは、深圳との付き合い方をうまく知っている、たくましさを持っています。

告知です

【1】Maker Faire 台北 2015が、5月30日(土)~31日(日)開催と告知されました。東京からは最も身近で、安く行けるMaker Faireなので、日本のMakerを集めて共同出展を考えています。ご興味ある方はこちら

【2】Maker Faire 深圳 2015は6月の19日~21日に行われます。こちらについては実行委員をやっているので、日本語で申し込みできるようになっています。

【3】Mini MakerFaireシンガポールが、7月の11日~12日に開かれます。こちらも日本語で申し込みができるようにするつもりです。

>> 高須正和氏の連載一覧


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