この分析によると、焼き鳥屋業界で物議が起きているらしい。
「鳥貴族」にそっくりな新参者がやってきてパクリ騒動になっているんだとか。それを記事は、わざとネガティブな話題を作る炎上商法ではないかとしている。
ちなみに鳥貴族自体はそんなに有名なチェーンではない。店舗一覧によると10都府県にしか展開しておらず、神奈川県店舗は県東部に18あるのみだ。湘南・三浦にも未進出で、ない場所の方が目立つ。
つまり、この騒動は特定の場所に生活する「鳥貴族をよく知っていて類似品に違和感を抱く人」か「ネット上の炎上ネタを常日頃血眼で探し求めているネット原住民」しか便乗することのできないきわめてローカルな事案だ。子どもでも知ってる全国居酒屋チェーンであるモンテローザの店名騒動とわけが違うのだが、そんなことにマスコミがこぞって飛びつくのは、ネット原住民がじわじわと台頭していることに原因があるだろう。
本当にここ数年の出来事であるが、ネット原住民の憎悪文化を「マスメディアが先走る」ようになってきている。
従来、ネット原住民はマスメディアが全く関知しない場所で独自のインナーサブカルを形成していた。それが、2000年代半ば以降は「クイズヘキサゴン嘲笑ブーム」や「フジテレビ韓流反対ブーム」のように、テレビが流行らしたことに対して後から逆張りをするようになった。
それがここ数年では、テレビが率先して憎悪のネタを発掘し、それにネット原住民が釣られる傾向がある。一昨年のビッグダディブームがまさにそうだったし、去年は小保方や佐村河内守や野々村などの毎月ペースで嘲笑文化に最適な「ニュースな人」が発掘され続けていた。「テレビのネット原住民化元年」だった。
ここ数日の放送番組でも、ニート芸人炎上商法疑惑が例によって「不幸系情報バラエティ」の特集ネタになっていたようだし、別の不幸系情報バラエティのスペシャル番組では、加藤茶の病気が明かされたようだ。加藤茶を悪しざまに罵る風潮はネット原住民の定番である。
テレビが「炎上的な企画」を打ち立て、そういう映像を放送すると、直後にネット原住民が大盛り上がりとなり、掲示板やツイートのバズが発生し、キャプチャー画像や抜粋の映像がまとめサイトを通じて拡散されるという一連の流れはもう鉄板だ。
しかし炎上商法なんてまっとうな商売だろうか?文化的な行為だろうか?私はそのことに、大変大きな疑問を感じている。
最近ではワイドショーに、よくネット原住民の間で炎上する論客がコメンテイターになる場合が少なくない。フジテレビ「とくダネ!」の面々はあからさまだし、のネットナビゲーターも歴代から現役にかけアルファツイッタラーと呼ばれる人たちと重なることが多い。もよくワイドショー番組で話している印象がある人が、炎上してアカウントを閉じてしまった。
こうしたワイドショー論客の中には、あえて世間のヒンシュクを買う発言をし、炎上商法を行う人も少なくない。放送事故に等しいパフォーマンスをして番組を去った人もいるが、これも果たして全うなことのようには思えない。まるでプロレスである。わざと危なっかしい人間たちを集めてて、ヤバいハプニングを起こさせまくって観客を熱狂させ、運営側に火の粉がかかるようなことがあれば追放するというああいう娯楽興業のやり口が、仮にも報道番組であるワイドショーで横行しているのだから、不健全である。
インターネットもテレビ文化もアメリカが最も栄えているが、アメリカには炎上商法というものはない。ネット原住民的なものはナードの中でもかなり特殊な部類によるインナー空間と認知されており、一般大衆の世界とは別にある。大衆の中でも質の悪い下流層は、スポーツやリアリティ番組でのお芝居を見てストレス発散をするため、誰かに憎悪をぶつけるだけのコンテンツはテレビ空間にも表のソーシャルメディア空間にも出てこないものだ。
韓国でもネット原住民は「イルベ民」として隔離されており、テレビは豊かな韓流番組で満たされている。国策的にIT普及を進めたため、ネットのリテラシー教育が進んでおり、日本であればソーシャルメディアをよく使えない人も多い4・50はもちろん、高齢者もバリバリでインターネットを用いている。韓国のマイナーな地名を画像検索すると、公務員退職者の田舎の老人が青々とした田園風景や山の写真を上げながら文学的な口調で人生を語るブログとかによく引っかかる。
こうしたマトモな国々にはネットでの表現の自由と豊かなテレビ文化がある。日本では「普通の世間の人は気にしないがネット原住民なら叩きたがるだろうネタ」もいくらだってあるわけだが、そんなことにいちいち燃える暇人はいない。得るものもないし、こんなこと恥ずかしいことだと思える自制心が咎めているようだ。
日本の大失敗は、ネット上での「憎悪の線引き」が一切なかったことにある。高齢化傾向にある社会構造のため、世の中に影響力のある公人やエリート層がことごとくネットそのものに疎かったために憎悪表現は野放しにされてしまった。そういう人たちにも隅々にまでネットが行き届くようになったら、現役の首相が憎悪まとめサイトを拡散するような世界の恥のようなことが起きてしまった。有名企業の社長なり大学教授などのその道のプロのような中高年が、ネット原住民同然の書き込みをしたりするようになった。ネット原住民の憎悪が週刊誌や夕刊紙を踏み台にしてテレビ空間を支配しているのが今だ。最終的にはNHKや朝日新聞もネット原住民化するんじゃないかとすら思う。
このままでは「炎上商法したもの勝ち」になる。ブログ界はいい加減で一方的な煽り文句を書き連ねる人間だらけになり、国会論戦も与野党議員が左右ネット民の脳内陰謀論をぶつけあう空中戦が行われるようになり、成り立たなくなる。どんどんメチャクチャになってしまうだろう。外国人や、帰国した駐在員は日本に来るたびにビックリしちゃうんじゃないかと思う。
今こそ、やはり炎上商法のような手法を防ぐように一人一人が心がける必要がある。このやり口によって成功した事例を私は一度も見たことがない。正攻法的に成り上がることに失敗し、あからさまなトンデモな発言を連発して自爆を繰り返したあげく消えた有名人はいくらでもいる。世の中の秩序が乱れて日本社会の質が低下するのみで、当事者を含め誰も得をしないのだ。