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 ついに、その日が来てしまった。予想してはいたものの、やはりオーストラリア中が衝撃を受けた。

 4月29日未明、麻薬密輸の罪でインドネシアで収監されていた31歳と34歳のオーストラリア人死刑囚に対して銃殺刑が執行された。2人は2005年、ヘロイン8キロ以上をオーストラリアへ密輸しようとしたとしてインドネシアのバリ島で逮捕され、約10年間を刑務所で過ごした。

 アボット首相の反応は早く、執行から数時間後にはビショップ外相と記者会見を開いて「残酷で不必要だった。駐インドネシア大使を召還する」と表明。閣僚レベルの行き来も停止された。首都キャンベラにある肖像画専門の美術館、国立ポートレート・ギャラリーでは、「展示物に危害が加えられる恐れがある」としてインドネシアのジョコ・ウィドド大統領のポートレートが展示から外されたという。

 オーストラリアには死刑がなく、最も厳しいのは終身刑だ。今回、自国民の2人の命をなんとか救おうと、アボット首相やビショップ外相をはじめとするあらゆる政府関係者や国会議員たちが国際社会へアピールしたり、インドネシア政府へ働きかけたりしてきた。

 「死刑反対」という基本姿勢があるのはもちろんだが、オーストラリア側の主張は「2人はこれまでの10年間の服役期間中に、完全に更生した」というものだ。実際、2人は他のインドネシア人の囚人らのために絵画の描き方やパソコンの使い方を教えるなどしていたそうだ。ビショップは「模範囚になっている。罰を与える以外に更生させることも司法システムの目的ならば、それを果たしたのではないか」と、何度も何度も訴えた。

 それでも、もちろんインドネシアには国内法があり、外国人でも国内で犯した罪には適用される。インドネシアの法的主権は尊重されなければいけない。オーストラリア政府は「そこを何とか」と懇願したわけだ。