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音楽を巡る環境はどう変わる? 建築する音楽家・小野寺唯に学ぶ
インタビュー・テキスト:杉原環樹 撮影:中村ナリコ(2015/04/22)
娯楽として聴くための楽曲だけが音楽ではないし、自らの感情を曲に込めて作曲し、ライブをすることだけが、必ずしも現代における「正しい」音楽家のあり方ではない。そう指摘するのは、先日約8年ぶりの新作ソロアルバム『Sinkai』をリリースした音楽家・小野寺唯だ。今回のリリースまでの数年間、小野寺は他の音楽家だけでなく、パフォーマー、建築家といった様々な表現者たちとも旺盛に交流してきた。さらに、音響建築設計や空間・プロダクトのためのサウンドデザインなども手掛けながら、音楽とそれを巡る環境について考え続けてきたという。
そんな小野寺の対談相手を務める荏開津広は、長きにわたりDJとして活躍した経歴を持ち、日本のクラブカルチャーを牽引してきた人物の一人。そんな彼は、近年では現代アーティストの竹内公太や大山エンリコイサムらも出展する展覧会『SIDE CORE』や、ポンピドゥー・センターの実験映像祭『オール・ピスト』の日本版にキュレーターとして参加。ストリートカルチャーを足がかりに、音楽だけでなくアートの領域への造詣も深い人物だ。
「音楽」に向き合い続け、日常空間と芸術の境界を志向する旧知の二人の話題は、小野寺の新作のリリースの話題をきっかけに、あらためて見直されるべき音の社会的機能や意義、そこに現れる未来の音楽家像にまで話が及んだ。これは、ストリートカルチャーの愛好者や都市計画関係者、そしてなにより音楽ファンにこそ知ってほしい世界が、そこには広がっていた。
小野寺唯(おのでら ゆい)
音楽家。音楽と建築を学び建築音響設計に従事の後、TV/WEBなどの音楽制作、プロダクト/インターフェイスのサウンド・デザイン、建築空間のためのサウンド・スペース・デザインなど手掛ける。2007年にソロアルバム『sinkai』をリリースの後、ダンサー、彫刻家、建築家など他分野のアーティストとのコラボレーションや、海外のサウンドスケープ研究プロジェクトに携わるなど、従来の音楽家の枠にとらわれない建築/空間/環境と音(楽)の関係性を追求している。2015年4月16日、「AN/AY」傘下のDub・Ambientレーベル「ARCTIC TONE」より約8年振りとなるソロアルバム『Sinkai』をリリース。
CRITICAL PATH>>Top
[AT02] Yui Onodera – Sinkai | ARCTIC TONE
荏開津広(えがいつ ひろし)
執筆家、DJ、『オール・ピスト京都』プログラム・ディレクター。京都精華大学/東京藝術大学非常勤講師。90年代初頭より、執筆、翻訳、選曲などを生業とし、クラブ、ストリートカルチャーの領域において国内外で活動。近年はより批評的なアプローチをとり、展覧会、映像祭のディレクションなどを手がける。翻訳書に木幡和枝、西原尚との共訳『サウンドアート ──音楽の向こう側、耳と目の間』日本語訳(2010年)など。
HORS PISTES TOKYO | New image film festival
音楽そのものだけでなく、それが鳴らされる空間にも向き合いたい。(小野寺)
―小野寺さんは、主にフィールドレコーディングで採集した音を用いての楽曲制作を続けていらっしゃるそうですね。2007年にソロアルバム『suisei』を発表された後、音楽以外の分野、特に建築の分野と積極的に関わってこられたそうですが、なぜ「建築」に向かわれたのでしょうか?
小野寺: 前作をリリースした直後、当時やりたかった事をすべてそこにつぎ込んだので、アルバムを制作する動機がもう無いな、と思ってしまったんです。そこから、国内外の音楽家や他分野のアーティストとのコラボレーション、サウンドインスタレーションなどを行うようになったのですが、次第に音楽そのものに向き合うだけでなく、それが鳴らされる空間にも手を加えたくなっていきました。音楽が「料理」だとしたら、それを盛りつける「器」まで責任を持ってデザインしたい。そんな思いから建築の世界に飛び込み、「音響建築設計」という分野に辿り着きました。
―「音響建築設計」というのはあまり耳慣れない言葉ですが、どういった領域なのでしょうか?
小野寺:一言で言うと、音楽を奏でるための空間の設計です。コンサートホールやスタジオなどで、部屋の形や窓の位置、壁や床の材質、電気設備などが音に対して与えるあらゆる影響を考慮した設計を行います。ただ、僕が最も興味を持っていたのは、より日常に近い環境での音と空間との関係でした。たとえば、ある部屋を設計しようとするとき「外や隣の部屋からの音を完全に遮断する」というような課題は、ごく自然に設定されますよね。つまり音というものは設計の世界ではネガティブな要素として扱われがちなんです。一方で、オフィスや店舗においては、オーナーの好みや有線放送など、漠然とした理由で音楽が流れているケースも多い。
―以前、蕎麦屋でR&Bが流れていたことがあって、店主の趣味なのかもしれませんが「どんな気分で蕎麦を食えばいいんだ」と戸惑った経験があります(笑)。あと、歯医者でジャズが流れていたりもしますよね。
小野寺:実は歯医者は、この分野では先進的なんですよ。待合室の奥から聞こえてくるドリルの音は受診前の患者に対して精神的な影響を与えるので、それを緩和すべく、他の医療機関よりも比較的先んじて、現場の音環境を意識的にデザインすることをはじめたんです。
―あのジャズにはそんな背景があったんですね。
小野寺:メンタルを気遣う場では、そのような取り組みも早いです。最近だと、アロマテラピーサロンやカフェなどの音環境に音楽家が携わる例もあります。このように、ネガティブでも無関心でもなく、ポジティブかつ積極的に音を空間に取り入れる試みがもっとあっても良いんじゃないか。それがモチベーションとなり、空間のための音をデザインするといったサウンドデザインの仕事もするようになりました。この領域は、すでに海外では空港やオフィス、ショップなどの商業・公共空間に取り入れられていて、徐々に一般化しつつあります。
都市的で混成的な体験の可能性を探りたい。(荏開津)
―一方の荏開津さんは、かねてよりDJをされており、クラブカルチャーシーンやストリートカルチャーシーンにお詳しいですが、近年は展覧会企画『SIDE CORE』のキュレーターをされていますね。
荏開津:『SIDE CORE』は、アーティストとアートアドミニストレーター、デザイナーなどによる企画で、これまで4回の展覧会を行ってきました。僕がディレクションを務めた第2回の『SIDE CORE -身体/媒体/グラフィティ-』は現代美術とグラフィティやポップカルチャーの重なりあう領域に何かを見いだせないか、という試みでした。もうひとつ、パリのポンピドゥー・センターが始め、今年の6月17日より京都で開催される『オール・ピスト京都』という実験映像祭にも、プログラムディレクターとして携わっています。そちらに関わるきっかけとなった2012年の『オール・ピスト東京』では、椅子に座り黙ってスクリーンを見るような映像の上映会だけでなく、たとえば、パフォーマンスグループcontact Gonzoとダンスカンパニーのクリウィムバアニーが入り交じって走っている中、サックス奏者の清水靖晃さんが即興演奏を行い、そこに映像作家クリス・マルケルの映像が流れているというような、従来とは異なる鑑賞の場も設定されていました。
―日常生活と芸術との関わり方や、その「あわい」を追求されている辺りが、先ほどの小野寺さんの活動と通じる部分のように思います。
荏開津:そうかもしれません。現実の街の中では異なる領域の表現や現象が意図せず重なり、どちらとも言えない状態で存在していますよね。いろんな物事が同時多発的に起きている。美術館や映画館で作品に向き合うような鑑賞形態も良いですし、大好きですが、長年DJをやり、クラブカルチャーやストリートカルチャーに青春を捧げた身としては(笑)、さきほどご紹介した『オール・ピスト』のように都市的で混成的な体験の可能性を探りたい。そういう視点で考えるとき、小野寺さんの活動にもシンパシーを感じ、強く興味を引かれるんです。
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