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線と形が気持ちいいドローイングアニメーション 石田尚志を知る

インタビュー・テキスト:内田伸一 撮影:越間有紀子(2015/04/13)

「いまにも動き出しそうな絵画」。躍動感あふれる絵をそう表現することがあるが、石田尚志の絵は比喩ではなく、実際に踊り、伸び、動きまわる。「ドローイングアニメーション」という手法を使い、本能的な見る快楽、動きの快楽を存分に楽しませてくれる石田の作品は「動く絵(ムービングピクチャー)」と称され、その独自性とクオリティーの高さから、これまでも現代美術と映像の領域で高い評価を獲得してきた。

10代での画家宣言から、やがて「音楽そのものを描いてみたい」と始めた路上でのライブペインティング。また、沖縄で働きながら見つけた光明や、帰京後に害虫駆除の仕事さえ創作につなげた日々。20年余の創作活動は、彼の筆使い同様、紆余曲折しながら空へ伸びるツタのように広がり続ける。

2006年、横浜美術館で滞在制作を行い、そこで生み出された作品は世界30か所以上で上映され、代表作となった。今回、横浜美術館で開催されている個展『石田尚志 渦まく光』では、初期の未発表作から多彩な代表作、さらに新境地の新作品が集結。彼のキャリアにおいて重要な意味を担ってきた美術館での個展開催を機に、本人に話を聞いた。

PROFILE

石田尚志(いしだ たかし)
画家 / 映像作家。1972年東京都生まれ。1990年より本格的な絵画制作、92年頃より映像制作を始める。以降、愛知芸術文化センターオリジナル映像作品『フーガの技法』(2001)、横浜美術館での滞在制作作品『海の壁-生成する庭』(2007)等で注目を集める。2007年に『第18回五島記念文化賞美術部門新人賞』受賞。多摩美術大学准教授。トロント、ロッテルダム、バンクーバーほか各国の国際映画祭への参加、パフォーマンスや他分野の表現者とのコラボレーションなど、ジャンルを横断した活動も展開している。
takashiishida

中高時代の強烈な音楽体験、「音楽を絵に描きたい」という欲望の目覚め

―「動く絵(ムービングピクチャー)」とも称される石田さんの作品ですが、子どものころから絵やアニメーションに関心があったのですか?

石田:日本画家だった祖父に連れられて美術館にはよく行っていましたが、さかのぼると幼稚園のころ、人形作家の祖母の仕事場で過ごした体験が大きかったと思います。そこでいつもクレヨン画を描きながら過ごしていました。当時は空想上の怪獣などを描いていましたが、今それらの絵を見ると、後の作品に出てくる「ムニュムニュ」とした線がすでにあるんです。

『海の壁-生成する庭』制作風景(横浜美術館、2006年) ©Takashi Ishida
『海の壁-生成する庭』制作風景(横浜美術館、2006年) ©Takashi Ishida

―細かな曲線の描き込みをコマ撮りして生まれる、石田さんの代表的な表現法「ドローイングアニメーション」ですね。その「ムニュムニュ」した線の原点は当時からあった、と。

石田:ええ。その線がなぜ生まれたのか、なぜ描きたくなるのかは感覚的なところで、今でも理由がわからないんですけど(笑)。あと、祖母はけっこうモダンな人で、絵本でも安野光雅の『ふしぎなえ』『旅の絵本』などを買ってくれたのを憶えています。

―『ふしぎなえ』は、美しい水彩画による不思議な世界が描かれた絵本、『旅の絵本』は詳細に描かれた世界各国の風景に物語がいくつも潜む、文字のない絵本ですね。

石田:今思うと『旅の絵本』って、現代の絵巻物ですよね。『鳥獣戯画』『地獄草紙』などの12、13世紀の絵巻物も、祖母の部屋にあった画集で見ていました。

―絵巻といえば、今回の横浜美術館『石田尚志 渦まく光』展の第1章が、まさに「絵巻」です。

石田:はい。長さ10数メートルの紙の上に少しずつ線を描いていったものをコマ撮りし、映像化したものを、その絵巻と共に展示するインスタレーションなどがあります。いわばフレームをはみ出して「伸びてしまった絵画」であり、その絵画と映像の関係を、一緒に並べることで示してみたんです。

『海坂の絵巻』2007年、ビデオインスタレーション(横須賀美術館での展示風景、2007年) ©Takashi Ishida
『海坂の絵巻』2007年、ビデオインスタレーション
(横須賀美術館での展示風景、2007年) ©Takashi Ishida

―映像では、どんなものにふれて育ったのですか?

石田:幼稚園のころ、やはり祖母の部屋で夕方から『ルパン三世』第1期(原作に近い劇画風のテレビシリーズ)などを見せてもらっていました。彼女が人形を作りながら「いいね~」なんて言うそばで……。劇場版『ルパン三世 ルパンVS複製人間』(監督:吉川惣司 / 1978年)は、今日までに500回は見ています。絵的にも、あり得ない空間構成の斬新さが衝撃的だったんです。後に自分の作品が、思いがけずその影響を受けているのに気付いて愕然としたことも(笑)。あとは、『さよなら銀河鉄道999』とか、実写だとデヴィッド・リンチ監督の『砂の惑星』などを祖母に連れられて、映画館に観に行きましたね。

―お祖母さん、かなり尖ってますね(笑)。

石田:中学生の頃になって、オスカー・フィッシンガーという抽象アニメーションの大家を知って、音と造形が連動していくような映像作品に強く惹かれたのですが、同時に、こうした日本のアニメも原体験として大きかったと思います。

―ちなみに『ルパンVS複製人間』の影響が出ていたのは、どの作品ですか?

石田:『フーガの技法』という作品です。もちろん意図して真似したのではなく、それらがもう、自分の視覚言語の一部になっていたんだと思いましたが。

『フーガの技法』(原画)2001年、インク・鉛筆、紙 ©Takashi Ishida
『フーガの技法』(原画)2001年、インク・鉛筆、紙 ©Takashi Ishida

―『フーガの技法』は、バッハの同名楽曲を視覚化したいという発想から生まれたそうですね。音楽に連動した映像ではなく、音楽そのものを映像にすべく、約1万枚もの原画を描いて、数年かけて映像化したと聞きました。今展の第2章「音楽」のハイライトでもあり、音楽と絵画の関係性は、石田さんの作品を構成する大きな要素の1つとなっています。こういった作品を作り始めたきっかけは?

石田:中学生のころ聴いて衝撃を受けたグレン・グールド(旧来とは異なるバッハの解釈と、躍動感あふれるプレイで歴史に名を残すピアニスト)の演奏だと思います。巨大な渦をイメージさせるような演奏で、「音楽を描きたい」という欲望の原点になりました。また高校生の頃に聴いた、ヌスラト・ファテー・アリー・ハーンというパキスタンの歌手も衝撃的でした。はっきり目に見えるようなうねりのある歌声で、こんなふうに絵が描けないものか……と思ったのを憶えています。実際に自分で描き始めたのは、20歳のころ。CDラジカセでバッハの音楽を流しながら、即興のライブペインティングを新宿アルタ前などで始めました。


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