おそらくパンクロックはほとんど聴いてこなかったと思われる村上さんが、パンクの女王パティ・スミスから「あなたが生きていてうれしい」と言われ、歌まで贈られてどう思いましたか?
(匿名希望、男性、52歳)
実を言いますと、僕は彼女がパンク・ロックの人だとはぜんぜん知らなかったんです。僕は何がパンクで、何がパンクじゃないか、みたいなことはあまり考えずに音楽を聴いてきました。グランジだとか、ユーロなんとかだとか、ヘビメタだとか、そういうものの定義もよくわかりません。でもジャンルとは関係なく、いくつかの彼女の曲は昔から聴いていました。彼女がブルース・スプリングスティーンとつくった「Because the Night」は素敵な曲ですよね。このあいだWOWOWで「ブルース・スプリングスティーン・トリビュート」を見ていたら、彼女がこの曲を歌っていました。素晴らしい歌唱でした。
昨年ベルリンで彼女と会ったとき、息子さんの話をしてくれました。ご主人のフレッド・スミス(MC5)が生きているあいだ、息子さんは父親に反抗して、一切音楽に興味を持たなかったそうです。でもスミスさんが急死したとき、彼はずっと何日も口をきかずに沈み込んでいて、それから急にギターを手に取り、数週間部屋に閉じこもって、その楽器を独学で完全にマスターしてしまった。そのとき13歳くらいだったそうです。「今ではまさにギターのヴィルトゥオーソになっているわ」と彼女は言っていました。なかなかすごい一家みたいですね。
村上春樹拝