国内AIトップ研究者とのタッグで世界最先端狙う26歳経営者 ABEJA岡田陽介氏
- UPDATE2015.4.7
- WRITER湯川 鶴章
株式会社ABEJA(本社東京・岡田陽介社長)が快進撃を続けている。創業わずか2年半という若い企業であるにも関わらず、主力商品のインストアマーケティング技術が人気で、大手小売店などへの導入が続いている。
これまでのリアル店舗のデジタルマーケティングといえば、POSデータを解析する程度のものが中心だった。ところが同社の技術は、店内に設置されたカメラで来店者の年齢層、性別などを推定し、人の流れ、滞留場所を記録、分析する。また在庫データやシフトデータなどと連動させることで、店舗運営の最適化が可能になるという。ネット上のECサイトでは、ユーザーの行動を記録、分析し、最適の広告や商品を提示することが可能だが、同様のことをリアル店舗でもやろうというわけだ。
「棚割りのA/Bテストもできます。どの商品をどの棚に置けば、最も高い売り上げにつながるのかを実際に検証できるわけです」と岡田陽介氏(26)は言う。
使われているのは最新鋭の画像認識技術だ。画像認識技術はDeep Learningと呼ばれる人工知能(AI)分野のブレークスルーのおかげで急速に進化している技術で、私が先月訪問した米スタンフォード大学の人工知能研究所でも集中的に研究していた。同研究所で見せてもらった、カメラから年齢、性別を推定する技術や、人の流れを計測する技術を、ABEJAは既に実用化しているわけだ。(関連記事「人工知能が急に進化し始めた」)
「世界でも実用化している企業は数えるほどしかありません。海外の競合他社は、画像認識に力を入れているところが多いですが、われわれは画像認識だけではなくERPやCRMなどと連携させ、複合的なシステムとして提供している。そこまでしているのは、世界でも弊社だけかもしれませんね」。岡田氏は、自慢するふうでもなく、淡々と語る。
このような世界のトップレベルの技術は、どのように手に入れたのだろうか。岡田氏自身小学校五年生のときからプログラミングを始め、大学2年生の時には国際学会で発表した経歴を持つほど優秀な技術者だし、同社CTOの緒方貴紀氏もIPA未踏プロジェクトの採択クリエイターだ。しかしだからといって、二人だけで世界の最先端を走り続けられるわけでもない。
実は同社は、東京大学の國井利泰名誉教授、名古屋大学安田孝美教授を始め、国内のトップレベルの研究者と共同研究体制を構築している。(関連情報「東大國井名誉教授がABEJAの最高技術顧問に」)
人工知能研究のブレークスルーであるDeep Learningは、トロント大学のGeoffrey Hinton教授が開発したことで有名だが、実は日本の研究者も早くから同様の考え方を提唱している。コンピューターの処理能力が向上し、ネット上に十分なデータが集まったという時代背景を受けて、Hinton教授のDeep Learningがたまたまタイミングよく大きな脚光を浴びただけだという意見もある。日本国内の人工知能研究が遅れていたわけではなく、ABEJAは日本のトップレベルの研究者からの協力を得ているので、世界に伍しても遜色のないサービスを作れるのだという。
ではどのようにして国内トップレベルの研究者の協力を得ることができたのだろうか。「最先端の研究を社会に還元してイノベーションを起こしましょうと持ちかけただけです」と岡田氏は、事も無げな様子で語る。しかし実際には起業してからの半年間で国内の有力な研究者を訪問して、自分の考えを説明して回ったという。紹介された場合はアポを取り、紹介がなくても飛び込みで研究室のドアを叩いた。
まるでセールスマンのどぶ板営業だ。その「営業」活動で得たのはトップ研究者とのパイプだけではなかった。研究者との繋がりの中で、優秀な学生たちがABEJAへの就職を希望するようになったのだ。高額の給与で引き寄せたわけではない。世界の最先端の技術を追求する仕事に惹かれて、就職を希望するようになったのだと言う。
Googleが、ロボット、人工知能、宇宙開発といった、一見突拍子もないような研究を続けるのは優秀な技術者を集めるため。GoogleのCEOのLarry Page氏がそう語っているのを聞いたことがある。高額の給料で引き寄せても、別の会社がより高額な給料を提示すれば、そうした人たちは去っていく。それよりも、ほかではできないような最先端のワクワクする仕事を与えれば、世界中から優秀な技術者が自然と集まってくる。Page氏はそう考えているわけだが、ABEJAに若い技術者が集まるのも同様の理由からなのだろう。
逆に言えば、優秀な人材を集めるには、常に最先端を走り続けなければならない。同社のモットーは、「5歩先の未来を想像し、4歩先を具体的に考え、3歩先の研究をし、2歩先の開発し、1歩先にだれもが使えるような事業に落としこんでいく」というもの。「テクノロジーの最先端を走り続ければ、優秀な研究者、技術者が集まってくる。そうしたとんでもない技術を事業化できるようなビジネスプロデューサーも集まってくる。重要なものは、人。この仕組みを回していけば、無敵の企業になれるんじゃないかなって思っています」。
5歩先の未来を読むために、勉強は欠かせない。社内で論文の輪読を行っている。難しい論文を理解するのに必要なのは、努力の積み重ねとひらめき。専門的な知識を持った仲間のだれかが、「これはこういうことだ!」とひらめく。それを全員に共有する。輪読を行うことで、効率よく世界の最先端の研究動向を学べるのだという。
「実はわれわれは、既にDeep Learningの次を見ています。次の注目技術はTopological Data Analysis(TDA)です。インストア・マーケティングだけの会社で終るつもりはありません」と岡田氏は言う。TDAとは位相幾何学をベースにした新しい技術で、「計算リソースを少なくして今までの100倍くらいの性能でデータ解析ができるようになったり、従来手法では相関性が見えにくかったところが見えるようになるんです」。
では、果たしてその技術でどのようなことが可能になるのだろうか。どのようなビジネスに発展するのだろうか。
そのビジネス化こそがABEJAの役割だ、と岡田氏は言う。「技術の種からビジネスを作り出して、イノベーションを起こす。それで得た収益をまた研究開発に回して次の技術の種を作る。そのプロセスをぐるぐる回す。それがABEJAとして、やっていきたいことなんです」。
【お知らせ】
この記事はBLOGOSメルマガ「湯川鶴章のITの次に見える未来」の無料公開分の記事です。
少人数制勉強会TheWave湯川塾27期IoT x 人工知能で変わる産業構造」の募集を始めました。
蛇足 |
ここ何年間かのスタートアップ・ブームというものがどうも苦手だった。ピッチコンテストでは、同じようなアプリの発表ばかり。自分たちの競合にどのようなアプリがあるのかさえ知らないようなベンチャー企業や、数百万円のシードマネーを得ること自体を目標のように考えているベンチャー企業もあり、その志の低さに辟易していた。日本だけがというわけではなく、先月シリコンバレーに取材にいったときも、同様のベンチャー数社に出くわした。
「多産多死でいい。量が質を生む」という意見もあるが、あまりにも勉強不足のピッチが多いので、最近ではピッチコンテストへのお誘いはほとんどすべて断るようにしていた。
でもここ2,3ヶ月で出会ったベンチャー企業は、Preferred NetworksやABEJA、白ヤギコーポレーション、カラフル・ボードなど、骨太の技術を持つところばかり。たまたまいい企業に出会えただけなのだろうか。それとも、いよいよ本物が出始めたということなのだろうか。
あと、経営者の雰囲気もずいぶんと変わってきたように思う。インターネットの商用利用が始まった直後に成功した経営者には、昭和の重厚長大産業の経営者のように振る舞う人が多かった。人生設計をしっかりとたて、その目標に向かって邁進するタイプ。ハングリー精神を原動力に伸びてきたタイプで、成功してからはお茶屋遊びなど派手な生活をする人が多かった。
その次に出てきたのは、破天荒タイプ。天才経営者をきどって、傍若無人な振る舞いをわざとしているような感じ。ハングリー精神とは少し違うが、何か屈折したものを抱えているように感じる人が多かった。
ところが最近の若い経営者は、より自然体な人が多い。高学歴であってもそれをひけらかすこともない。奇人変人ぶることもない。生活も質素なまま。ただ目の前の仕事が楽しくて、一生懸命やっているタイプが多いように思う。
破天荒な経営者もおもしろいけど、個人的には、こうした若い経営者のほうが好感が持てる。
岡田氏も大言壮語することもなく、たんたんと話をする。志も高い。ベンチャー仲間と群れることもなく、独自の道を進んでいる。岡田氏は、世界の競合と戦う上で、日本企業の強みは最新技術に日本の「おもてなし」のような精神性を乗せることだと語る。僕もまったく同意。インストア・マーケティングでも、日本企業は非常に細かな「おもてなし」を実装しようとする。Appleなど一部例外を除き、海外の企業にはあまりみられない傾向だ。
日本のスタートアップも捨てたもんじゃない。ぜひ世界に羽ばたいてもらいたいと思う。