華麗な経歴で家柄も人柄もよく、仕事もできる。いい中国人の人材を採用したと喜んでいたら、それはスパイだった—被害を受ける日本企業が急増している。彼らはどんな手口で入り込んでくるのか。
一橋大出身の才女
中国でビジネスを始めるに当たってそれなりに勉強して臨んだつもりだったのですが、やられてしまいました。
何年もかけて開発した製造技術を、自社の中国人社員に丸ごと盗まれてしまったんです。そして、知らないうちに中国国内でコピー工場が作られていた。そこの製品が我が社より安価で販売されていて、一時は顧客も奪われてしまいました。
バイオジェニック株式会社の渡部政博社長(56歳)はこう語る。同社は、健康食品などの原料の生産・販売を行うバイオ企業。東京と中国に拠点を構え、従業員は50名。現在は年商約6億円で、健康食品の需要増加と共に業績を伸ばしている。今回、中国人の「産業スパイ」に機密情報を盗まれた経緯をすべて明かしてくれた。
最初のきっかけは、'03年、一人の中国人女性A(当時36歳)を採用したことでした。弊社が扱う製品の一つ、アスタキサンチンの世界市場が拡大する見込みが立ったので、中国に工場を作ろうとしていたのです。ちなみにアスタキサンチンとは、エビやカニ、鮭などに含まれる赤橙色の色素です。強い抗酸化作用があり、アンチエイジングのための化粧品や健康食品の原料として使われています。
中国進出は初めてだったので、地元に広い人脈があって日本語も堪能な人を探していました。そんなとき、古くからの知人(日本人)から紹介されたのがAでした。Aは一橋大学出身で、当時、東京の証券会社で働いていた。「もっとやりがいのある仕事がしたい」と、転職先を探していたそうです。ハキハキとしていて、面接の印象は良かったですね。
経歴だけでなく、出自も申し分なかった。Aの父親は元サッカー選手で、国会議員として30年近く活躍していた人物。母親も、中国の有名なバレーボール選手でした。
両親がそんな有力者ですから、彼女にはスポーツ界だけでなく中国の政財界に幅広い人脈があるんです。中国で工場を立ち上げるときには、Aは大車輪の活躍でしたよ。おかげで国有企業が持っていた遊休地を借りることができましたし、すべて順調に進みました。
そして、中国・雲南省の昆明に工場を設立し、Aを現地法人の取締役副社長に抜擢。'05年に操業を開始しました。そのとき、Aの紹介で現地採用したのがBという男性です。四川大学の生物科学科を卒業し、当時23歳。その翌年、Bの紹介で同級生の男性Cも入社します。二人とも人あたりがよく非常に仕事熱心だったので、信頼していました。とくにBは、中国の工場長に育てようと考えて教育していたんです。
彼らの直属の上司として、現地の工場で仕事を共にしていた同社研究開発部部長の長瀬俊哉氏は、Bの印象をこう話す。
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