国立天文台野辺山太陽電波観測所(長野県南佐久郡南牧村)にある太陽電波望遠鏡「電波ヘリオグラフ」が来年度から、国立天文台(東京都三鷹市)と名古屋大(名古屋市)太陽地球環境研究所の共同運用に移行する。太陽観測の主軸が人工衛星に移ったため、同天文台は運用を終了する予定だったが、名古屋大が「太陽観測のため必要な施設」として共同運用を提案。電波ヘリオグラフの観測データを利用している世界各地の研究者からも運用継続の要望が寄せられた。今後の運用費は世界の研究者から寄付を募る方針だ。
ヘリオグラフは直径80センチのパラボラアンテナ84基が、南北220メートル、東西490メートルの範囲に配置され、解像度は直径500メートルの電波望遠鏡に相当。1日8時間、自動で太陽を追尾して観測する。国立天文台が1992年から、太陽の黒点や太陽表面の爆発であるフレアの変化などを観測し、データを国内外の多くの研究者に提供してきた。96年には爆発的に輝くフレアの撮影に成功するなど、世界的な業績を挙げている。
しかし、国立天文台と宇宙航空研究開発機構が2006年に高性能の望遠鏡を備えた太陽観測衛星「ひので」を打ち上げ、同天文台の太陽観測の軸足は同衛星に移行。林正彦・国立天文台長は「ひのでに搭載された望遠鏡は解像力が高く、太陽の詳細なメカニズムを教えてくれる」と説明。今後について「世界的な業績を挙げていくため、衛星による観測を進めたい」とする。へリオグラフの運用については、近い将来に停止する方針を10年ほど前から研究者らに伝えていた。
これに対し、名古屋大太陽地球環境研究所の増田智准教授は「太陽活動の均質のデータを取るためには、同じ施設を使った継続的観測が必要」とし、共同運用によるへリオグラフの継続を昨年春に同天文台に申し入れた。世界各地の研究者からも同様の要請が寄せられたため、同天文台も共同運用を決定。共同運用化に伴い、これまで運用していた同天文台野辺山太陽電波観測所は組織としては3月末で廃止する。
運用費は年間1千万円弱。寄付は名古屋大が窓口になって、世界の研究者から受け付ける予定。共同運用する国立天文台も技術的な支援をしつつ、得られたデータを今後も一般研究者らに提供し続けていく方針だ。