
広島に拠点を置く自動車メーカー・マツダで35年にわたってエンジン開発に心血を注いできた人見。4年前、開発チームを率いて世に出したのは、リッター30キロ(10・15モード)の圧倒的な燃費性能を誇るガソリンエンジン。トヨタやホンダなどが90年代以降取り組んできた電気モーターを併用するハイブリット方式並みの低燃費をエンジンだけで実現し、世界の関係者に衝撃を与えた。その人見たちは今、さらに効率を30%アップさせることを目標とした新世代エンジンの先行開発に挑んでいる。厳しい競争が繰り広げられる自動車業界で生きてきた人見を駆り立てているのは、実は強い「危機感」だ。マツダは、グループの従業員でみるとトヨタのわずか8分の1という世界的には小さな自動車メーカー。資金力も決して潤沢ではない。また、これまでバブル崩壊などの時代の流れの中で、何度も経営危機にひんしてきた過去もある。そうした会社が生き残っていくためには、あえて「究極」と言えるエンジンを目指し続けて行く継続姿勢が絶対に必要だと人見は考えている。
「究極」の低燃費エンジンを目指して、先行開発部門のトップを務める人見
課題が解決するまで人見はとことん考え続ける

ふだんはおちゃめで穏やかなキャラクターの人見だが、開発現場では一切の妥協を許さない厳しい姿勢を取る。開発会議では、部下がさまざまな懸案を解決するために、既製の部品を使うなどの提案を出すと即座にそれを否定する。そして「妥協案はなしと決めて知恵を出せ」と発破をかけ続ける。その裏には、強い覚悟を決めて、本質的なブレイクスルーを狙う姿勢を貫き通さない限り、世の中を驚かす技術革新など成しえないという人見の確信がある。4年前のリッター30キロのガソリンエンジンも、開発時に「ハイブリット方式という道はわれわれにはない。エンジンそのものの進化を絶対に求め続ける」という人見の強い覚悟から生まれたものだ。前人未踏のエンジンを生み出すために、「逃げ道を断つ」ことを人見は自分にも部下にも貫き通している。
ふだんは温厚だが、会議では厳しい表情を見せる

人見は細かな課題の解決策を現場の部下に考えさせるだけでなく、みずから一エンジニアとしてアイデアを出すことにこだわっている。みずから考案したアイデアが、決して成功につながらなかったとしても、アイデアを出し続けることが世の中に革新をもたらす技術者としてのプライドであると人見は考えている。その一方で、部下がアイデアを出してきたら、それがどのようなものであっても尊重し、試させる。自分がアイデアを出し、ブレイクスルーを狙うという技術者のプライドがぶつかりあう現場こそ、開発において大切なものだと人見は考えている。
課題が解決するまで人見はとことん考え続ける