危険ドラッグ:生活苦忘れたかった 職も免許も失う運転手

毎日新聞 2015年01月12日 08時30分

後悔を込めて危険ドラッグへの依存を語る元タクシー運転手=東京都千代田区で、山本晋撮影
後悔を込めて危険ドラッグへの依存を語る元タクシー運転手=東京都千代田区で、山本晋撮影

 「ハーブ(危険ドラッグ)が切れるとゼンマイ仕掛けのゼンマイが切れたように体が動かなくなる。完全にハマっていた」−−。昨年9月、危険ドラッグを吸引した直後にタクシーを運転した東京都内の男性(54)が、警視庁に道交法(過労運転などの禁止)違反容疑で逮捕される事件があった。事故を起こしていない段階での逮捕は全国初で、各メディアでも大きく報じられた。執行猶予付きの判決を受けた男性が昨年12月下旬、毎日新聞の取材に応じ、薬物への依存を深めていった経緯を明かした。【林奈緒美】

 昨年8月7日午前4時過ぎ。巡回中のパトカーが、大田区田園調布の区道で蛇行や青信号での停車など不審な動きを繰り返すタクシーを見つけた。男性はハンドルを握ったままうつろな目で前だけを見つめている。

 「ドラッグを吸ったのか?」

 「吸いました」

 職務質問する警察官に、男性は素直に認めた。ズボンのポケットからは植物片の入ったビニール袋と吸引に使う金属製のパイプが見つかった。薬物鑑定などの裏付け捜査を経て9月24日に逮捕。容疑は、薬物の影響で正常な運転ができない恐れがある状態で運転したという内容だった。

 ◇借金や養育費で

 説明によると、使い始めたのは昨年2月ごろ。競馬などのギャンブルで抱えた約1000万円の借金返済や、離婚に伴う子供の養育費の支払いで生活が苦しく、「忘れたいことばかりだった」。目に留まったのが、池袋の行きつけの飲み屋近くにあった危険ドラッグ販売店だった。

 薬事法の規制対象外(当時)だったドラッグを選び、1袋(3グラム入り、約10回の使用量に相当)3000円で買うようになった。自宅マンションでビールを飲みながらパイプで吸うと、頭がぼおっとし、早く酔えた。7月ごろからはタクシーにも持ち込み、客のいない時に車内で吸うように。「赤信号や渋滞でもイライラしなくなり、長時間勤務も短く感じられた」

 ◇勤務中60回吸引

 発覚の前日。男性は午後1時半ごろに都内の本社をタクシーで出て、そのまま池袋に向かった。いつもの店でドラッグを買い、7日朝までに約10人の客を乗せた。ドライブレコーダーに記録されたライターの着火音などから、この間に約60回は吸引したとされる。

 取り調べでは、客とのやり取りの録音も聞かされた。

 「目的地はどの辺りだったでしょうか?」

 「運転手さん、大丈夫?」

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