柴那典(以下、柴) じゃあ、前回に続いてそれぞれの「2014年のベスト5曲」を挙げていきましょう。まずは僕の3位。坂本慎太郎「あなたもロボットになれる feat. かもめ児童合唱団」。
柴那典の第3位
→ 坂本慎太郎「あなたもロボットになれる feat.かもめ少年少女合唱団」
大谷ノブ彦(以下、大谷) これを3位に挙げたというのは?
柴 これはもう、突き抜けてますからね。この連載ではフェスで一体感を持って盛り上がるみたいなダンスロックもたくさん取り上げましたけど、そういうノリとは真逆。でも、すごく風刺が効いている。ちょっと聴いたら脳天気なポップソングなんです。でも、よく聴くと、むしろ安易な一体感というものって、実はとても危ういものなんじゃないか?みたいな問題提起が奥のほうにある。
しかもこのバージョンがすごいんです。もともとは今年に出た『ナマで踊ろう』というアルバムで元ゆらゆら帝国の坂本慎太郎さんが歌っている曲なんですけど、それを「かもめ児童合唱団」っていう子供たちに歌わせている。
大谷 すげえな、このビデオも。
柴 もともとアルバムのテーマが「人類が滅亡した後に常磐ハワイアンセンターで流れてるような音楽」というもので。この曲も「ロボットになれば不安や虚無から解放される」っていう不穏すぎる歌詞を子供たちに歌わせている。
大谷 ははははは!
柴 これまで批評精神を持った音楽を、ここまでポップで禍々しい形で表現してるのは他になかなかないと思います。
大谷 でも、それは銀杏BOYZの峯田くんも同じようなこと言ってましたよね。僕の2位が銀杏BOYZ「ぽあだむ」なんですけれど。
大谷ノブ彦の第2位
→銀杏BOYZ「ぽあだむ」
柴 彼らは今年に『光のなかに立っていてね』という9年ぶりのアルバムを出しましたね。
大谷 これが本当に最高だった。何がいいって、「ぽあだむ」って、すごくポップな曲じゃないですか。でも、音だけ聴くと荒々しくてうるさいんですよ。
柴 そうですね。アルバムでも、ノイズが大きくフィーチャーされている。
大谷 最後の「僕たちは世界を変えることはできない」なんて、スーパーでかかってるJ-POPみたいなチープな音なんです。「I DON'T WANNA DIE FOREVER」だってジュリアナとかバブル時代のディスコみたいな感じだし。峯田くん自身、ゲームセンターやパチンコ屋で鳴っているようなイメージで作ったって言っている。つまりは日常生活で聴こえてくる音がそういう音だ、ということなんです。
柴 ノイズ・ミュージックがやりたかったわけじゃなくて、それを通して峯田くんが感じた今の時代を表しているんですよね。
大谷 そう。話は飛ぶけど、僕、世界で一番好きなバンドって、bloodthirsty butchersなんです。
あのバンドも轟音だし、それに、言い方は悪いけれど、か細い声で、歌も下手じゃないですか。でも、前に「爆音の中で懸命に歌ってるのを聴くと、まるで生まれたての赤ちゃんが声を振り絞ってるみたいで、思わず泣いちゃうんだよね」と言ってた人がいて。なるほど、そういうことだって思ったんです。つまりノイズって、あくまで僕らの日常生活とか、感情のあり方を表しているもので。だからこそ伝わってくる。
柴 まさにそうですよね。そして峯田くんも、チープな音とノイズを通して今の日本のキラキラ感と騒がしさの両方を象徴している。
大谷 現代社会もそうだし、僕らの心のあり方自体もそうですからね。そういう曲が刺さるんですよ。
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