ということでいよいよ年の瀬も押し迫ってきたわけだが、日経新聞が年末恒例で発表する「エコノミストが選ぶ経済図書ベスト10」を、楽しみにしている。その年に発売されてた経済図書の中からエコノミストが投票方式でベストを選んでいくというものなのだが、なんとなくその年の雰囲気というかアトモスフィアが表れる。
しかし、毎年本当に年末ギリギリに発表されるので(2011年は25日、2012年は30日、2013年は29日)、年末年始休暇用の本選びの参考にするには少し遅い。Kindle版があるなら問題はないのだが、この手の本は、あまり Kindle化されない。
ということで、この年末年始用の本選びにの参考にするために、2011年〜2013年の3年間のベスト10を振り返ってみようと思う。本当に優れた経済図書なら、数年経ったところで古びるわけでもないだろうし。ついでに、日本漢字能力検定協会が毎年発表する「今年の漢字」も合わせて振り返ってみる。
2011年
2011年の漢字は「絆」。東日本大震災をきっかけに、家族・地域・国家間の絆の大切さを再確認させられた1年、だったそうです。
1『国家は破綻する - 金融危機の800年』
カーメン・M・ラインハート、ケネス・S・ロゴフ
- 作者: カーメン・M ラインハート,ケネス・S ロゴフ,Carmen M.Reinhart,Kenneth S.Rogoff,村井章子
- 出版社/メーカー: 日経BP社
- 発売日: 2011/03/03
- メディア: 単行本
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国家はどれほど頻繁に破産するのか、銀行危機の国内総生産(GDP)への影響はどのぐらい続くのかなどについて、データを駆使しながら論じている。
2『国家対巨大銀行 - 金融の肥大化による新たな危機』
サイモン・ジョンション、ジェームズ・クワック
- 作者: サイモン・ジョンション,ジェームズ・クワック,村井章子
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 2011/01/28
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レーガン~クリントン政権期に米国で大銀行に好都合な決定が繰り返され、金融機関はますます大きくなった。その結果、危機に際して潰せなくなり、最終的に政府・金融当局が「白地小切手」で救済せざるを得なくなった点を鋭く批判している。
3『「就社」社会の誕生』菅山真次
- 作者: 菅山真次
- 出版社/メーカー: 名古屋大学出版会
- 発売日: 2011/01/27
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就職ではない「就社」システムが第2次世界大戦後根付いていった過程を丹念に跡づけた
4『フォールト・ラインズ 「大断層」が金融危機を再び招く』
ラグラム・ラジャン
- 作者: ラグラム・ラジャン,伏見威蕃,月沢李歌子
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2011/01/18
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危機の背景として、新興国が貯蓄に励む一方、米国が低金利政策を採って過剰消費に陥った結果、世界的な貿易不均衡(断層線)が出来上がったと指摘
5『「フクシマ」論 原子力ムラはなぜ生まれたのか』開沼博
- 作者: 開沼博
- 出版社/メーカー: 青土社
- 発売日: 2011/06/16
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中央ー地方の先に、原発のある原子力ムラを構想し、その形成から丁寧に調べている。
6『原発危機の経済学』齊藤誠
- 作者: 齊藤誠
- 出版社/メーカー: 日本評論社
- 発売日: 2011/10/20
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事故経過を簡潔に説明しながら、炉心溶融の回避可能性を問い、古い原子炉の使用延長に大きな問題があったと指摘している。
7『国家債務危機』ジャック・アタリ
国家債務危機――ソブリン・クライシスに、いかに対処すべきか?
- 作者: ジャック・アタリ,林昌宏
- 出版社/メーカー: 作品社
- 発売日: 2011/01/08
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著者はユーロ崩壊シナリオも示しており、将来に向けた分析も読みどころになっている。
8『日本の農林水産業』八田達夫、高田眞
- 作者: 八田達夫,高田眞
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
- 発売日: 2010/11/23
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環太平洋経済連携協定(TPP)などで揺れる第1次産業の現状を分析。その問題点を洗い出すとともに、改革案を提示している。
9『ポスト・マネタリズムの金融政策』翁邦雄
- 作者: 翁邦雄
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
- 発売日: 2011/06/11
- メディア: 単行本
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今年は政策形成で枢要な役割を担った人々による良質な考察の書が目立つ一年だった。
(同率)9『大停滞』タイラー・コーエン
- 作者: タイラー・コーエン,若田部昌澄,池村千秋
- 出版社/メーカー: エヌティティ出版
- 発売日: 2011/09/22
- メディア: 単行本
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成長力に陰りのみえる先進国共通の構造問題を掘り下げた
2012年
2012年は「金」。ロンドンオリンピックでのメダルラッシュや山中伸弥ノーベル賞受賞など数々の「金字塔」を象徴して、とのこと。
1『法と経済で読みとく 雇用の世界』大内伸哉・川口大司
- 作者: 大内 伸哉,川口 大司
- 出版社/メーカー: 有斐閣
- 発売日: 2012/03/03
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政府による介入が経済にもたらす影響を労働・雇用問題の面から検証した。
「法学者にも経済学の考え方が、経済学者にも法律がわかるようになる本」
2『さっさと不況を終わらせろ』ポール・クルーグマン
- 作者: ポール・クルーグマン,山形浩生,Paul Krugman
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2012/07/20
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(本書が示す)処方箋は明快だ。現在は政府支出を増やすべきであり、減らすべきでない。
3『戦前期日本の金融システム』寺西重郎
- 作者: 寺西重郎
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2011/12/07
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戦前の金融システムを、資金の供給や企業統治の仕組みを軸に分析している。
4『「失われた20年」と日本経済』深尾京司
「失われた20年」と日本経済―構造的原因と再生への原動力の解明
- 作者: 深尾京司
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
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日本の現状や未来について極端な楽観論や悲観論が飛び交う中、データに裏付けられた、地に足のついた著書が高い評価を得た。
5『国債危機と金融市場』清水克俊
- 作者: 清水克俊
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
- 発売日: 2011/12/16
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日本の国債問題を考える材料になる基礎理論を解説
6『タックスヘイブンの闇』ニコラス・シャクソン
- 作者: ニコラス・シャクソン,藤井清美
- 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
- 発売日: 2012/02/07
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欧米主要国が自国に有利な形で金融取引が進むように税制面での優遇措置を競ってきた実態を明らかにしている。
7『「Gゼロ」後の世界』イアン・ブレマー
- 作者: イアン・ブレマー,北沢格
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
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米国の存在感が弱まり、リーダーシップを取る国が存在しない「Gゼロ」
8『世界を救う処方箋』ジェフリー・サックス
- 作者: ジェフリー・サックス,Jeffrey Sachs,野中邦子,高橋早苗
- 出版社/メーカー: 早川書房
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世界の盟主の座を明け渡しつつある米国に焦点を当て、政治の腐敗や貧困問題などを厳しく批判した上で解決策を提示する。
9『ケインズかハイエクか』ニコラス・ワプショット
- 作者: ニコラスワプショット,Nicholas Wapshott,久保恵美子
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2012/11
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経済論争を繰り広げた2人の巨人が絡みあう人間模様を描き出す好著。経済学、経済思想や経済政策を学べる著書でもある。
10『高品質日本の起源』小池和男
- 作者: 小池和男
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
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2013年
2013年は「輪」。2020年の東京オリンピック開催決定を受けてでしょうねえ。東京しか関係ねえ。
1『デフレーション - “日本の慢性病" の全貌を解明する』吉川洋
- 作者: 吉川洋
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過去20年、日本がデフレに陥ったのはなぜか。処方せんはあるのか。今年、盛んに議論されたテーマの土台を提供した著書
2『日本銀行』翁邦雄
- 作者: 翁邦雄
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2013/07/10
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著者はアベノミクスの第1の矢である異次元の金融緩和は「危険な賭け」と警鐘を鳴らす。世界各国の中央銀行の動きや、最先端の経済理論からみたリフレ政策の問題点を明らかにしている。
3『自殺のない社会へ』澤田康幸、上田路子、松林哲也
- 作者: 澤田康幸,上田路子,松林哲也
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「自殺という心理的な要因で片付けられがちな問題を、経済学的な問題ととらえる必要性と有効性を示した」
4『イノベーション・オブ・ライフ』クレイトン・M・クリステンセン
イノベーション・オブ・ライフ ハーバード・ビジネススクールを巣立つ君たちへ
- 作者: クレイトン・M・クリステンセン,ジェームズ・アルワース,カレン・ディロン,櫻井祐子
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「イノベーション理論で学べることを自分のキャリアに応用し、豊かな人生とは何かを考えることができる」
5『劣化国家』ニーアル・ファーガソン
- 作者: ニーアルファーガソン,Niall Ferguson,櫻井祐子
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西欧の衰退と新興国の台頭を西欧の繁栄を支えてきた制度の衰退という視点から論じる。
6『国家はなぜ衰退するのか』
ダロン・アセモグル、ジェイムズ・A・ロビンソン
- 作者: ダロンアセモグル,ジェイムズ A ロビンソン,稲葉振一郎(解説),鬼澤忍
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2013/06/21
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- 作者: ダロンアセモグル,ジェイムズ A ロビンソン,稲葉振一郎(解説),鬼澤忍
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2013/06/21
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300年の世界の歴史を検証し、国民が経済的・政治的な機会に広く公平に参加できる体制が望ましいことを示唆した大作。
7『人びとのための資本主義 - 市場と自由を取り戻す』ルイジ・ジンガレス
- 作者: ルイジ・ジンガレス,若田部昌澄,栗原百代
- 出版社/メーカー: エヌティティ出版
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8『大いなる探求』シルヴィア・ナサー
- 作者: シルヴィア・ナサー,徳川家広
- 出版社/メーカー: 新潮社
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- 作者: シルヴィア・ナサー,徳川家広
- 出版社/メーカー: 新潮社
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経済を立て直すために国家がどこまで関与すべきか。永遠の命題に、歴史に名を残した経済学者たちがいかに思索を巡らせたのかを描き出した
9『何が日本の経済成長を止めたのか - 再生への処方箋』
星岳雄、アニル・カシャップ
- 作者: 星岳雄,アニル・カシャップ
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
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10,『連続講義・デフレと経済政策 アベノミクスの経済分析』池尾和人
- 作者: 池尾和人
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2014年
「今年の漢字」は毎年12月12日発表ということで、今年の発表は今週の金曜日。衆議院選挙の結果もまだ出ていませんし、どんな漢字が選ばれるのかわかりませんが、個人的な予想を挙げておきます。
あと、経済図書のランキングとしてランクインが確実視されているのが、トマ・ピケティの『21世紀の資本』。翻訳書が今日無事に発売されたようで、書店にも並んでいました。鈍器級のボリュームで5,940円。ひえっ。意識の高いエコノミストのみなさんは、もちろん原書をすでに読んでいるのでしょう。読む読まないは別にして、本棚に威圧感とこけおどし感を加えたいのなら、マストです。
- 作者: トマ・ピケティ,山形浩生,守岡桜,森本正史
- 出版社/メーカー: みすず書房
- 発売日: 2014/12/09
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目次
はじめに
第I部 所得と資本
第1章 所得と産出
第II部 資本/所得比率の動学
第3章 資本の変化
第4章 古いヨーロッパから新世界へ
第5章 長期的に見た資本/所得比率
第6章 21世紀における資本と労働の分配
第III部 格差の構造
第7章 格差と集中 ー 予備的な見通し
第8章 二つの世界
第9章 労働所得の格差
第10章 資本所有の格差
第11章 長期的に見た能力と相続
第12章 21世紀における世界的な富の格差
第IV部 21世紀の資本規制
第13章 21世紀の社会国家
第14章 累進所得税再考
第15章 世界的な資本税
第16章 公的債務の問題
おわりに
索引、原注、図表一覧
2014年12月29日追記
2014年12月28日の日経新聞朝刊で2014年版が発表されましたね。別記事にてまとめていますので、よろしければどうぞ。ちなみに今年の漢字は「税」。なんじゃそりゃ。