学生起業に必要な「傲慢さ」とは?Gunosy、Pluto、FiNCほかスタートアップの若手経営層が語る経験則
2014/12/29公開
2014年12月、東京大学本郷キャンパスを舞台に、国内最大規模の学生向けハッカソン『JP HACKS』が開催された。
12月13~14日にハッカソン、20日はアワードイベントと表彰式が行われたこのイベントは、全国各地から100名以上の学生エンジニアやクリエイターが参加。
アワードイベントのパネルディスカッションでは、パネラーにGunosy代表取締役最高経営責任者の福島良典氏、Pluto代表取締役の金田賢哉氏、FiNC取締役CTOの南野充則氏の3人のスタートアップ経営陣と、モデレーターとしてPixiv執行役員の伊藤浩樹氏を迎え、登壇者が全員東京大学出身者という顔ぶれで行われた。
そこでは学生起業のエピソードやスケールアップの苦労などが話されたが、3人の話に共通していたのは、起業に際し重要なのは「傲慢であること」だった。その意味はどんなものか、パネルディスカッションで披露された彼らの体験談から紐解いていく。
学生起業家に足りない「ビジネス観」は、パートナーで補う
(写真左から)Gunosy代表取締役最高経営責任者の福島良典氏、Pluto代表取締役の金田賢哉氏、FiNC取締役CTOの南野充則氏
学生起業でネックとしてよく挙げられるのは、創業メンバーにビジネス経験を持つ者がいないということである。その点は、社会人の独立・起業とは大きく違う点でもある。
事実、Gunosyは木村新司氏や伊藤光茂氏ら、FiNCは乗松文夫氏など、ビジネス経験豊富な人材を招聘してきた経緯がある。それについて、Gunosyの福島氏は次のように語った。
「グノシーは採算性をいっさい考えずに立ち上げたサービスです。でも、皆さんにぜひ覚えておいてほしいのは、サービスを立ち上げるのなら必ず採算性を考えた方がいいということ。自分で考えられないなら、誰か考えられる人に参画してもらった方がいい。お金があって、ビジネスをよく分かっているオトナは、意外とたくさんいるんです(笑)」(福島氏)
また、FiNCの南野氏も、自社の経験からビジネスパートナーの重要性についてこう語る。
「弊社は今年9月に資金調達をしたのですが、そこで重要な役割を果たしたのがメンターをお願いしている吉田(行宏)さんでした。ガリバーインターナショナルの専務を務めていた彼は1日3店舗出店するというスピードで、同社を2年で上場まで導いたという経験があります。吉田さんと一緒に作り上げた高い目標設定のおかげで、FiNCは急成長できたのだと思っています」(南野氏)
一見、難しそうに思える、ビジネスパートナー探し。しかし、福島氏は冒頭で説明した「傲慢さ」で解決できると話す。
「自分が若いから、自分の会社がまだ無名だからあの人を連れてくるのは難しい、などという固定概念は捨てた方がいい。『このサービスは絶対にお金が稼げるから、うちに来てくださいよ』と言えるくらいの傲慢さがあってもいいと思います」(福島氏)
狂気じみた傲慢さが時には効を奏す
サービス・プロダクトの広め方で、その「傲慢さ」を披露していたのがPlutoの金田氏だ。自社製品を広める際のアプローチとして、彼らはかなり変わった方法を取っている。
「モノを売るためには2つ難しいことがあります。1つ目は商品の認知度を上げること。2つ目は商品を置いてもらうお店を探すことです。その2つを一度にクリアする方法として、大手の量販店に商品を置いてもらう、という手があります」(金田氏)
しかし、金田氏いわく、大手の家電量販店に商品を置いてもらうには、「すでに売れている」という実績が必要なのだという。ではPlutoはどのようにしてそこをクリアしたのだろうか。
「皆さんは絶対マネしない方がいいと思いますが」と前置きした上で、金田氏は続ける。
金田氏が披露した仰天エピソードには、観客だけでなくパネラー席もどよめいた
「Plutoの発売当初は販売実績がなく、当然扱ってもらえませんでした。そこである時、自社の商品をお店の棚に勝手に陳列してみたんです。お店が仕入れている商品ではないので、もちろんレジを通りません。すると店舗から問い合わせが来る。そこから交渉を開始するという、危なっかしいゲリラ戦法を取っていました」(金田氏)
良識的に考えて「やってはいけないこと」であるのは間違いないが、モデレーターの伊藤氏は「この狂気こそが起業家らしさ」とフォローしていた。
人の意見を聞かないことも才能のうち
福島氏は、今後エンジニアが会社を興すのにとても有利になる時代だと推測する。その上で、起業を成功する上でのポイントを説いた。
「今やっていることを信じてやり続けてほしいと思います。起業すると、いろいろな人から、いろいろなことを言われるようになります。それでも信じる道があるなら、まずは突き進んでみるべきなんです。『人の意見を聞かない』というのは、エンジニアとして最も大切な才能だと考えています」(福島氏)
福島氏は、「経験の量の多い年上の意見は経営の上で大事」としつつも、「サービスのコンセプトなどの肝になる部分は若い人が作るべき」と考えている。我を貫くのが大事だというのは、金田氏も同意見だ。
「サービスを出すと、けなされたり、叩かれたりして悔しい思いをすることもあるはずです。そんな時、起死回生の一手を投じるきっかけになるのは、自分のモチベーションだったりします。自分のサービスに携わっている時が本当に楽しい瞬間なのか、もし楽しくなかったら楽しくなる方法を考えた方がいいと思います」(金田氏)
時として批判の対象にもなる経営者の傲慢さだが、少なくともスタートアップに関しては効を奏すことが多いのも事実。3人の先輩起業家から学んだ100名以上の聴講者から、傲慢な次代のスタートアップ経営者が生まれるのが楽しみである。
文・撮影/佐藤健太(編集部)
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